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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第二章 関東鳳凰会編

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ラウンド14 道藍来たる

ありがとうございます。

もう1話です。

 担任教師である鷹無に指示された烈華の席は奇遇にも武士の右隣であった。


 後ろの席が空いていたことと烈華が武士と知り合いだと知っての鷹無(たかなし)なりの配慮である。

 席に着くと、武士の方へそっと顔を寄せてそっと囁く烈華。



「よっ! まさか同じクラスになるなんてね。びっくりしたじゃない」



 自分で選択したとは言え、烈華にとっては初めての普通学校のようなものであり、様々な人々と接していかなければならない重要な機会。

 心細くないはずがなく、偶然にも武士が隣にいてくれるのは、かなり頼もしく思えた。



「お、おう……てかよ……ここに入るなら教えてくれたって……」



 首を傾げながら、はにかむ烈華に頬を赤く染めながら武士は視線を逸らして言った。気の利いたことを言えれば良いのだろうが、ここでヘタレるのが武士と言う男である。



「そうね……でも思い切って決断したんだもん。それにとんとん拍子で手続きが進んじゃってね」



 今まで自分は精神的に強い方だと烈華は思っていた。

 だがそれが間違いだと気付いた。

 思い知らされた。



「決断か……烈華はどうしてうちに決めたんだ……?」



 武士の問い掛けに烈華の表情が神妙な面持ちに変わる。


 『アンリミテッドバトルガール』の能力が現実のものとなり、健康な身体と強い格闘能力を得たが、問題はその部分ではない。


 制御の利かない暴力の恐ろしさと抗えぬ陶酔感を知ってしまった。

 暴走する力ほど厄介なものはないと考えた烈華は、それを抑えこめるだけの力を求めたのだ。

 つまりは圧倒的な衝動と破壊欲求を抑えこめるほどの、強靭な精神力。



「私は自分に打ち勝ちたいのよ。何のことはない、ごくごくありきたりな動機ね。言葉にすると陳腐に思えるわ……」



 別に『アンリミテッドバトルガール』自体が嫌いになった訳ではない。

 いくら愛情を持って育ててくれた両親の存在があったとは言え、ずっと独りだった烈華を支えてくれた大事なゲームである。

 存在を否定したいとは微塵も思わない。



「けどね。私は精神性を追い求めたいの。そして強さを手に入れる。いつか精神が肉体を凌駕するところを見せてあげる」



 そう言い切った烈華の表情はいつもの柔和で人間味に溢れたものに戻っていた。

 それに心なしか自信ありげにドヤ顔を作っている。

 武士はただただ圧倒されたようで、彼女の決意を知ってか目を離すことができないでいる。



「まぁ改めてこれからもよろしくね。実はちょっと心細かったの。武士がいて本当に良かったわ」


「そ、そっか。ああ……よろしくな」



 照れくさそうに答えた武士を見てホッとした烈華は、前を向いて居住まいを正した。



 その後――



 乱武高校へ転入した初日、烈華の周囲には多くのクラスメイトが集まり人だかりが絶えることはなかった。


 幼少期から友達がおらず、ずっと独りきりの時間が多かった彼女は本来ならば、コミュ障であってもおかしくはない。

 しかしその辺りは、持ち前の美貌と柔和な雰囲気、冷静な性格が幸いして特に問題にはならなかった。むしろ小柄で華奢な上、儚い雰囲気を持つ彼女はすぐに全員を虜にしたと言っても過言ではない。


 周囲からは質問の大攻勢である。



「ねーねー烈華ちゃんて呼んでいい?」


「どうしてわざわざ、この学校に転入したの?」


「ホント可愛い~! 綺麗な髪だね~!」


「もしかして何か格闘技やってたり?」


「前はどんな学校にいたの~?」


「放課後、カフェでも行かない?」


「ちょっと聞きたいんだけど、その金髪と知り合いなの?」


「あのさ! うちの部に入らないかな?」


「烈華ちゃんって頭良さそう! あたし馬鹿だから勉強教えて!」


「5月の中間試験の後に春季武闘会があるからさ。今の内に我が女子第3空手部へ頼んます!!」


「よっしゃ! 歓迎会でも開こうぜ!!」



 授業間の休憩時間の度に押し寄せてくる人の多いこと多いこと。

 決して口下手ではない烈華ではとは言えども、話し慣れている訳ではないので戸惑いながらも1つ1つ丁寧に答えていく。

 律儀な烈華である。



「(は~烈華ちゃんて呼んでってそれ何て青春小説なの。しかも放課後にカフェで寄り道とか計画通りなんだけど。はぁ~しかも皆とても優しいんだけど? あれれ~私ってばまさか人気者になっちゃう? いやもうなっちゃってる!? うわ~友達ができるって素晴らしいわね! 憧れの女子トークってのもできる感じかしら。しかも頭良いとか、いやいやご冗談を! こちとら通信教育ボッチですけどぉ~。え~歓迎会かぁ~もしかしてカラオケとか歌っちゃう? いやいや徹夜でゲームなんかもいいわね。はぁ~想像が捗るわぁ~)」


 

 烈華はあまりにも周囲がちやほやしてくれるので、有頂天になって心の中で1人、早口で捲し立てるかのように話し続けていた。

 誰かが聞いていたら軽く引かれるレベルである。




 授業も武術に関するものもあったが、通信授業で習っていたものと比べてもほとんど変わりがなかった。

 そのため特に労せずして、着いていけそうである。

 意外だったのは、もっと授業中騒いだり真面目に受けなかったりする生徒がいるかと思っていたのだが、皆、集中して授業を受けている点だ。



「そっか。格ゲーでも駆け引きとかで頭を使うしね。皆もそれで真面目に受けてるのかしら」



 よく分からなかったが、きっとそうなのだろう。

 実際に喧嘩をしたことなど1度しかない。

 武士の話によれば『関東鳳凰会(かんとうほうおうかい)』と言うヤンキー集団らしいが、烈華は"あの日"以降、絡まれたことはなかった。

 てっきり仕返しにくるものだとばかり思っていたのだが……。


 烈華がチラリと左に視線を向けると、武士は外の様子をボーッと眺めていた。

 今思えば、子供の頃から武士はいつも空を見上げていた気がする。



「何か理由があるのかしら……」



 少しばかり興味が惹かれるが、あまり踏み込み過ぎるのも良くないだろうと考えていると、丁度チャイムが鳴り響いた。

 今日の授業を聞く限り、勉強面は大丈夫そうに思える。

 問題は部活であった。


 最後の挨拶が終わり、すぐに担任の鷹無が教室に入ってきた。

 本当に時間を厳守する担任である。

 

 もうすぐ5月に入るので中間試験と春季武闘会のことを説明される。

 試験はともかくとして武闘会とは。



「パンフレットには己の全てを懸けて武を競う大会としか書いてなかったけど。春と秋だっけ。遠足とかないのかな?」



 高い目標を掲げたは良いが、遠足や運動会などを体験したことがない烈華からしてみれば、心が動かされるのは仕方のないことであった。



「遠足とかねぇよ……流石に高校生だぞ? 原っぱでシート広げて弁当喰って何すんだよ……」



 独り言が聞こえていたようで、呆れたように武士が口を挟んできた。

 少しばかりムッとした烈華が頬を膨らませてそっぽを向くと、武士がしまったと言う表情になる。


 どうやら武闘会は異種格闘技戦を行う大会と言うことらしい。

 個人戦の部と部活対抗戦の部があるようで日程が長い。

 中間試験よりも長い上に、開催期間が被っている部分もある。



「以上だ。質問があれば聞きに来るように。それと波取(はとり)は号令の後に俺のところまで来なさい」



 帰りの挨拶が終わると、皆一斉に席を立ち、教室が雑多な音で溢れる。

 取り敢えず、手招きしている鷹無の元へ向おうとすると、同じく席を立った武士が顎をしゃくった。



「烈華、少し付き合え」


「え? まぁいいけれど」



 そこへクラスメイトの女生徒3人が烈華の席へ近づいてきた。



「烈華ちゃーん。帰りに一杯や・ら・な・い?」


「やだもー(かえで)っち、おっさんぽい!」


「そーそーカフェでお話しようよ」



 初めてのお誘いに烈華の妄想が広がる。

 その表情は恍惚としていた。



「ふぉぉぉぉ……カフェ……」


「烈華ちゃんも大概面白いかもねー」 



 烈華の顔を見た楓が笑いだすが、その声からは嫌みの感情は感じられない。

 心の底から安堵した烈華は、一応断わりを入れておく。

 流石に先に約束した方を優先するのは当然の話。



「ちょっと武士の話聞いてからでいいかな? たぶんすぐに終わると思うから」



 了承の返事が返ってきたので、鷹無の元へ向かうと1枚の紙を渡される。

 受け取った烈華が用紙に目を落とすと、それは部活の入部届のようであった。



「前にも言ったが本校では必ず部活に所属すると言う規則がある。お前には大変かも知れんが、やれそうな部を探すことだ」



 転入する前にも会っていたこともあり、悪い印象は持っていなかった烈華だが、それを再認識した形だ。

 見た目は怖いが、性根は優しいのだろう。



「分かりました。頑張ります!」



 胸の前で両手の握り拳を作ると気合を入れて返事をする烈華。

 頭を下げて席に戻る彼女の姿を鷹無は心配そうな目で見送っていた。



「お待たせ。それで話って何?」



 席に戻った烈華が、外を眺めていた武士に声を掛けると、振り返った彼からすぐに返事が返ってきた。



「おお、部活の話だ。取り敢えず武道館裏に行くぞ」


「部活ね。何処に入ろうか悩んじゃうわね……でもどうして武道館裏なのかしら……」


「俺たちのホームなんだよ」



 烈華の素朴な疑問に、武士はぶっきら棒に答えた。



「ホーム……? 何なのよ。それは……意味分かんない」



 楓に行先を伝えると、彼女たちも昇降口の近くで待つつもりのようだ。

 笑顔で頷いた烈華は、先導する武士の背中を追って歩き出す。

 身長差がある分、歩く速度も違うのですぐに距離が開いてしまう。

 烈華が慌てて追い掛ける形で何とかついて行こうとしていた時、正門の方から大きな声が聞こえてきた。



「ん? なーんか聞き覚えがあんな……誰の声だ……?」



 立ち止まった武士にようやく追いついた烈華が、膝に手を付いて息を整えていると、再び声が聞こえる。

 耳を澄ます武士の様子を仰ぎ見た烈華は、彼の表情が劇的なまでに変化していくのを見た。



「え? 何? 武士の知り合いなの?」


「あ、ああ……どうもそうらしい……」



 顔色を悪くする武士と、自分も耳を澄ます烈華の耳はついに大きな声を捉えた。



「おーーーい!! ブーシー!! オレだよオレ!! 『関東鳳凰会』の菅原道藍(すがわらの どうらん)が来たよーーー!! ちょっと遊ぼうぜーーー!!」

お読み頂きありがとうございました。

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