ラウンド13 乱武高校の転校生
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今日は3話更新予定です。
武士の目の前までやって来た『関東鳳凰会』会長の菅原。
相変わらず、溢れんばかりの笑みを湛えている。
「や、キミが狩人クンだね。ウチの幹部がお世話になったみたいで」
「……? そう言うあんたは『関東鳳凰会』の会長ってことで間違いないのか?」
やけにフレンドリーに話し掛けてくるが相手が相手なだけに油断は禁物。
世の中には良い人間の振りをしている悪人など腐るほど存在している。
「ああ、一応そう言うことになってる。ちなみに名前は菅原道藍だ。ちょっと古くさいけど……良かったらミッチーとかランちゃんとか、アイちゃんて呼んでもいいよ」
その自己紹介はどうなんだと、毒気を抜かれた武士は、当惑しながらも菅原に尋ねるべく口を開く。武士としては警戒せねばと思うのだが、菅原のペースに翻弄されて脱力してしまう。事前のイメージと違い過ぎて、武士の表情は何処となく気疲れした様子だ。
「そ、そうか……それでどうしてこんな場所に? 俺と戦りに来たのか?」
≪バトルの連戦は推奨致しません。これは絶対ではありませんが、バトルに突入して我々が危険だ判断した場合、強制介入する可能性があります≫
それを聞いた武士はその情報については初耳だったので少しばかり驚くが、菅原はあくま軽い口調と態度を崩さない。
彼はそんなことはどうでも良いと言わんばかりに話を続ける。
「勘違いしないで欲しいなぁ。別に戦んないって。いや、あまり興味はなかったんだけどトラっちに面白そうなヤツがいるって聞いたからさぁ」
「トラっち?」
『関東鳳凰会』に関しては蓮から様々な情報を聞いていた武士だが、その聞き覚えのない名前に怪訝な表情になる。
と言ってもあだ名のようなので、誰かは分かるはずもない。
「うん。オレの親友だよ。今度紹介するね? 今日のところは夜も遅いし早く帰って寝ちゃおうか。夜更かしは健康に悪いからね」
「ああ、俺もそのつもりだ。そこの野郎にボコボコにされたからな……」
お前は思春期の少女かと内心でツッコミを入れつつ、武士はチラリと未だ倒れたままの門司に視線を送った。
一応、救護ロボに手当を受けているようだが……。
「ゴメンねー。でも見てて面白かったよ。また今度、戦ろう。今日はこれでさようならだね。んじゃねー」
「お、おう……」
最後まで一貫した軽いノリ。
少女のような純粋そうに見える笑顔。
武士の口からは間の抜けたような返事が吐いて出るのみだ。
「オラー! 何人かはモンちゃんの面倒見ててあげなー! んじゃ全員帰るぞー! 」
茫然と佇むことしかできない武士を放置して、菅原は『関東鳳凰会』のメンバーを率いて帰って行った
バイクの轟音を響かせながら。
―――
『ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ♪』
武士がスマホの目覚ましを無意識の内に止めると、薄らと目を開く。
真面目にもいつも通り6時に起床した武士であったが、昨日の激闘のせいで体が痛みで軋みを上げている。
「あー怠ぃな……休んじまうか……?」
気だるげに呟いた武士であったが、実は彼には怖いものがある。
何度、学校をさぼろうとしたことか。
もちろん小学校時代からの話だ。
「しゃあねぇ……起きるだけ起きるか」
ベッドから身を起こした武士の体を激痛が襲う。
これは本気でマズいのではないか?と思ったものの、気合でリビングへ向かった。
引き戸を開けたその先――つまり武士の部屋の隣がリビングになっている。
「あら、おはよう」
声がした方へ顔を向けると優しい笑顔を向けて来たのは、武士の母親である。
どうやら朝食の支度をしているようだが、いつもより機嫌が良いように感じる。
「ああ、おはよう、母さん」
取り敢えず挨拶を返すと、武士の中で天使と悪魔が争いを始めた。
所謂、葛藤と言う奴だ。
『今日はマジで調子が悪いで! 休みたいって言えや!』
『そんなことは駄目です! 這ってでも学校へ行くのです!』
『いやだって今日はホントに体調悪いやんけ』
『おお、あなたは忘れたのですか!? 休むと言った時の数々の思い出を!』
『ああ……せやな……そうやったわ……あかんかな』
『ようやく気付いたようですね! あのおぞましい記憶を!』
武士はいきなり負けそうになっている悪魔を応援し始めた。
『ん? 何だか力が湧いてきたでぇ! 言う! 今日と言う今日ははっきり言わせてもらうんや!』
『正気ですか!? 死んじゃいますよ!?』
『ええんやで? 覚悟の上や』
『ああ、悲劇が……よよよ……』
悪魔の気合の一言で天使は消滅してしまった。
つまり武士の覚悟が決まったと言うことだ。
「あ、ああああ、あの、母さん……」
「え、何?」
「実は今日、体調が――」
「え、何?」
相変わらず優しい笑みを湛えているのだが――
ドス黒い何かを感じる。
目を瞑ると懐かしい記憶が蘇ってくる。
小学生――さぼったのがバレて食事抜きで家から叩き出されたこと。ズル休みしようとして逆に家で勉強を叩き込まれたこと。
中学生――さぼったのがバレて小遣いを没収され、学校に連れて行かれた挙句、首から『私はサボリ魔です』と言うブラカードを下げさせられて学校中の晒し者にされたこと。ズル休みしようとして学校に引きずっていかれ職員室にぶち込まれて長々と説教と補習を受けさせられたこと。
「な、何でもないです……」
言葉を飲み込んだ武士の目からハラハラと涙が流れ落ちた。
結局、何も言うこともできずに規則正しく登校している辺り、武士も意外と真面目なのかも知れない。
「くそう……凄ぇ顔、腫れてたな。笑われちまうぜ……」
そんなことを思いつつ、すぐに武士の考えは変わった。
「いや、そもそも笑ってくれる奴がいねぇ……」
少なくとも蓮は笑ってくれそうなのだが、母親による精神攻撃を受けて心身耗弱状態にある武士の脳内からは消え失せていた。
頭が正常に動作していないようだ。
乱武高校までは徒歩で通学している。
いつかはバイクでも買いたいと考えているが、これからのことを考えると気軽にファイトマネーに手を出すのは憚られた。
烈華の家から更に3km程度なので特に遠い訳でもないのだが。
特に何事もなく教室へたどり着いた武士は、いつも通りに席に着くと肘を付いて外の様子を眺める。
本当にこの席で良かったと思える。
誰の目も気にする必要もないし、1階とは言え空を見ているだけでも落ち着く気がするのだ。
「そう言えば家の窓からもよく空を見ていたな」
考えてみると武士の行動は今に始まったことではなかった。
いつも空を眺めていたし、いつも母親の帰りを独りで待っていた。
学校をサボれば怒られたし、休もうとすれば勉強させられるか、無理やり連れて行かれた。
だが、考えてみればいつも側に寄り添っていてくれたような気がする。
「小学校の頃から大して変わってねぇのな。母さんはいつも働いてたしな……」
喧嘩をしてよく怒られることもあった。
だが、喧嘩をするのは誰にもあるが、人を傷つけるのは絶対にするなと言われたことを覚えている。
大怪我させた際には、頬を平手で思いきり叩かれて叱り飛ばされたものだ。
あの時の母親の真剣な眼差しは忘れられない。
手を上げられたのはその時だけだ。
「今の戦いのスタイルになったのは母さんのお陰かも知れねぇ」
想い出に浸っていた武士を学校のチャイムが我に返らせた。
そして1分も遅れることなく禿鷹先生――鷹無が教室に入ってくる。
教壇に立つと、学級委員が挨拶の号令を掛ける。
その後はHRのはずなのだが――
「あー今日は我が校に転入してきた新しいクラスメイトを紹介する。お前ら、仲良くしろよ?」
鷹無がギロリと教室を見回して睨みを利かせると、一気に生徒たちの緊張感が高まった。
それを見て満足げに頷くと転入生に向けて呼びかける。
「ふむ。よし。入っていいぞー!」
教室の引き戸がガララと開かれて1人の少女が美しく、しなやかな黒い長髪をなびかせて軽やかな足取りで入ってくる。
小柄で華奢な感じの見目麗しい美少女であった。
まるで何処かで見たような――
思わず武士は目を見張った。
教室内は男女問わず、黄色い声が上がっている。
「って、れ、烈華ッ!?」
椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった武士は、思わず少女の名前を叫んでいた。
その声に釣られて武士の方を見た少女は、いつもの零れ落ちそうなほどに湛えた微笑みを一層強めるとキラキラと顔を輝かせてひらひらと右手を振ってくる。
そして口を開くと涼やかな声が聞こえてきた。
「あれ? 武士も同じクラスなのね。よろしくね!」
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