ラウンド12 激闘! 2番隊長戦
ありがとうございます。
明日も恐らく3話更新です。
≪序列2656位:炎下武士から対戦申請:承認しますか?≫
「あ?」
慌ててスマホを確認する門司。
そこにはアナウンス通りの文字列が躍っていた。
「てめェ……正気か?」
再び、ボロボロの状態の武士の方を凝視する門司だが、表情には驚きが浮かんでいる。
散々、武士を煽ったが、まさか受けるとは思っていなかったのだろう。
「なかなか根性あんじゃねェか……ま、無謀っつーかなんつーか。だが容赦はしねェぜ。これは『バトル』だからなァ」
そこへ大量の警備ロボや救護ロボがコンテナの周囲に押し寄せてきた。
「門司さん、マズいッスよ! 早く音声認識を!」
「チッ……承認だァ!!」
≪双方向認証:承認! マッチングが成立しました。5秒後にバトルが開始されます≫
レフリーロボも駆けつけていたようで、バトルはすぐに開始されるようだ。
足元が覚束ない武士は、眩暈を覚えながらも何とか痛む体に力を込める。
武士は大きく息を吸って肺に空気を溜めると、それを一気に吐き出した。
膝をついてゆっくりと立ち上がろうとしている。
≪それでは!! 菊一門司Vs炎下武士のバトルを開始します!! 両者ぁ……ファイッ!!』
大音量でレフリーロボが叫ぶが、門司はすぐに仕掛けてくる気配はない。
武士の勇気に敬意を示しているのか、はたまた畏怖が芽生えたのか、勝者の余裕と言う奴か。
何にせよ、武士には有り難い時間だ。
あの側頭部への一撃がかなりの痛手だった。
武士は意識から靄が晴れていくのを明確に感じていた。
相変わらず呼吸は少し乱れているが、これ以上、時間を掛けるのは無粋だろう。
そして両の足で大地を強く踏みしめた。
「問題ない……不意打ちを喰らわなければ、俺に負ける要素はねぇ……!!」
聞き捨てならないとばかりに眉を吊り上げたのは言わずと知れた門司だ。
『普通に戦えば負けない』
そう面を向かって言われたようなものなのだから、その怒りは凄まじいものがあった。
歯をむき出しにして、苛烈なまでの敵意を武士へと向けている。
それをひしひしとその身に感じながらも武士は徐に歩き出した。
倒すべき敵――門司に向かって。
「もう1回、ボコってやらァ……」
語気が荒くなっていることに本人は気付いているのだろうか。
武士に引きずられるように、門司も歩き出す。
バトルはタイマン。
邪魔は入らない。
勝てば『関東鳳凰会』のメンバーがどれだけいようと、武士に手を出すことは不可能。
武士は門司をよくよく観察する。
高身長だが体の線は細い。
筋肉が付いているようには見えないが、手足が長く、そのリーチには要警戒だ。
あれだけ殴られて落ちなかったことを考えても一発逆転の一撃はない。
至近距離で勝負。
そう武士は判断した。
「シッ!」
短く呼気を吐き出した武士が走る。
大きく構える門司の懐に向かって。
「シッ! シッ! シッ!」
ロングレンジから左のジャブが飛んでくるが、これは喧嘩であり、その打ち方から恐らく門司は素人と判断できる。
武士は視る。とにかく視る。
烈華はゲームで瞬き1つせずに相手の動きを観察していた。
変則的な動きで執拗に武士の顔面に向けて打ってきているが、恐らく顎への打撃が狙い。
リーチの長さを見誤らないように徐々に間合いを詰めていく。
すり足で近づき、伸びるように飛んでくる左拳を上体を逸らして躱す。
門司もフットワークを意識している様子がないので素人か――あるいはブラフか。
ローキック、掌底、側頭部への攻撃は死角で見えなかったが、高い威力から考えると上段へのハイキックの可能性が高い。
先程の戦い方からボクサータイプではない。
武士は覚悟を決めると左足で大地を強く蹴ると、強引に門司の深い懐に飛び込んだ。
ガードした右腕に左拳が当たるものの、武士が考えていたよりも軽い。
となれば――
すぐに左腕を上げて右手で内側から押さえ、頭部をガード。
同時に左膝を折り攻撃に備える。
全ては瞬間の出来事。
腰の捻りと共に左足を回転させながら放たれた鋭い右蹴りが武士の左足に突き刺さる。
「チッ……」
――読み通り
蹴りの軌道が変化していたことからハイからミドルへ切り替えたか。
かなりの衝撃にも怯むことなく武士は右足を蹴り出して更に前へと出る。
とにかく圧力を掛け続けるのが肝要だ。
武士は自分のストレート――特に左に自信を持っている。
「はぁッ!!」
慌てて後方へ下がろうとする門司に右ストレート。
大地を踏みしめた左足から伝わる力を腰の回転で増幅した渾身の右拳だ。
「ぐはッ……」
拳が刃の様に突き刺さったのは右肩付近。
少し逸らされたが問題はない。
「はッ!!」
押し出されて距離が少し開いたが、門司の態勢は崩れている。
抉り込むように伸びていく左拳が風を切って彼の顔面にめり込んだ。
武士の左ストレートのあまりの威力に、回転する勢いで頭から地面に叩き付けられる門司。
「うしッ!」
完璧に決まったと確信して喜びを露わにする武士であったが、門司は鼻から大量に血を流しながらも頭を振りつつ尻もちをついたままで後ずさる。
甘い。
自分の甘さに辟易する武士。
ゲームだが、烈華は相手が沈むまで攻撃を繰り返していた――『アンリミテッドコンボ』
それを脳裏に描きながらダッシュを掛ける武士。
門司が立ち上がる頃には、既に武士が目の前に迫っていた。
そこへ門司の右ローキックが武士の左膝に決まった。
やはり強烈。
武士の膝からガクンと力が抜けかけるも、右足を蹴って加速すると門司の左掌底が下から顎へと肉迫する。同時に捨て身のタックルを掛けようとしていた武士が、勢いのまま右拳を突き出した。
「ガッ」
「ぐぅ……」
お互いの攻撃がお互いにヒットして、両者の口から苦痛の声が漏れる。
左の掌底で顎をかち上げられるも、武士にあまりダメージはない。
後方に下がりながらの攻撃だったためだ。
一方の門司は武士の勢いのついた右拳の威力を殺し切れず胸部に、重い一撃を喰らっていた。
「(こいつの警戒すべき攻撃は右蹴りと掌底、左ジャブ……。掌底を警戒しつつ超接近戦で勝負!)」
そう考えながら、武士はふらつきながらも倒れずに踏み止まった門司の懐深くに進入する。
痛みで門司のガードが下がっている。
武士はそこへ左フック。
右側へ重心が移ったところへ右フック。
流石に重量級の武士の一撃が効いているのか、門司の表情は苦痛で歪み始めている。
もしくは焦燥。
慌ててガードを上げる門司の脇腹に左鉤突き。
「ぐぅぁ……」
再び漏れる苦痛の声。
武士に伝わる確かな手応え。
思い出せ。
烈華の連撃を。
ゲームの連携を現実のものとしろ。
武士の頭がそう考えて叫ぶ。
門司の体が沈みこんだところへ後頭部へ手を回し右膝蹴り。
上体が起き上がったところに左中段突き。
門司の膝がガクガクし始めるが、苦し紛れか右拳を振り上げる。
それを見逃す武士ではない。
「腕振り上げるとか素人かよッ!」
ニヤリと口角が吊り上がった武士の右ストレートが門司の顔面を捉える。
そのまま右足を踏み込んで抉り込むかのような左ストレート。
それはまさに光の矢の如き一閃。
サウスポーを鍛え上げて来た武士の左ストレートを喰らって、まともに立っていられる者はいない。
「ッ……」
最早、門司は悲鳴を上げることすらできずにいる。
武士が放った2連撃で大きく吹っ飛ばされた門司は、地面に何度も体を打ちつけながらようやく止まる。
『関東鳳凰会』のメンバーが波を割ったかのように左右に退いていく。
「おいおい。邪魔すんなよ? バトルへの介入は厳禁だぜ」
倒れ込む門司に武士がゆっくりと跨った。
呻き声を上げつつも何とかガードしようともがいているが、もう終局は見えている。
容赦なく武士は右左右左と拳を打ち込むのを止めない。
「AIってぇのは残酷だな。あいつがK.O.判定しなければ終わらないんだぜ?」
理解したのか、門司の顔がようやく恐怖に染まる。
その手で武士の体を必死に押し戻そうとしているが
「理解したか? 死合はお前が気絶するまで終わらない」
「俺の――」
何かを言い掛ける門司。
押し倒したその顔面に向けて、武士はその硬い左拳を振り下ろす――鉄槌。
両手で必死に顔を守ろうとしているが、左腕を押さえられている上に心が折れたのか、武士の攻撃は簡単に通る。
「降――」
鉄槌。
ぐしゃッとした鈍い音。
「まッ」
鉄槌。
骨が陥没したかのような手応え。
「がぁ」
鉄槌。
顔面のあちこちが腫れ、切れる。
「う」
鉄槌。
血が至る場所から噴出する。
「ぁぅ」
鉄槌。
それでも。
「ぅ……」
鉄槌。
武士は。
「……」
鉄槌。
殴るのを止めない。
見物人である『関東鳳凰会』のメンバーの顔色は蒼白となり、恐怖の感情が場を支配している。
全員が完全に武士が醸成した空気に飲み込まれていた。
≪カンカンカーン♪ バトル勝者:炎下武士!! 序列2656位→2001位。敗者:菊一門司!! 序列1848位→2340位。菊一門司からファイトマネーを徴収し炎下武士へ譲渡します≫
沈黙と場の空気を打ち破ったのはレフリーロボの判定音声であった。
それを聞いた武士は暗闇に包まれた空を仰ぎ見ると、目を閉じて大きなため息を吐いた。
再び降りる沈黙。
「終わった……」
そう呟いた武士がゆっくりと立ち上がると残る『関東鳳凰会』のメンバーたちに目を向けた。
まるで烈華が見せたような無感情な瞳。
視線を向けられた者は皆、恐怖で声にならない悲鳴を上げて後ずさる。
その光景を見て、武士の瞳に色が戻り、つまらないものでも見たかのような目に変わった。
「帰るか……家に。警備ロボ、一応護衛頼むわ」
≪バトル直後の対戦者の安全性は保障されております。お任せ下さい≫
今日は疲れた。
さっさと帰って寝よう。
そう思いながら歩き出した武士。
そんな武士にへ掛けられたのはやたら楽しそうな言葉。
「あっれー!! モンちゃんマジ負けちゃったよ……ウケるんだが?」
場違いなほどに明るい声に、武士は困惑しつつも声の主に目をやった。
コンテナに腰掛けているのは金髪をセミロングにまで伸ばした女のような男。
大きなどんぐり眼の童顔で両耳に輪っかのピアスをしているので、本当に女にしか見えない。
「会長……」
「会長だ……!!」
「菅原会長!!」
一気に騒がしくなる『関東鳳凰会』のメンバー。
先程までのお通夜のような雰囲気は既に消え失せている。
「菅原? 会長……あいつが?」
困惑の声を漏らす武士に、コンテナから飛び降りた菅原がゆっくりと近づいて来る。何処か楽しそうなニコニコとした笑みを浮かべながら。
「これは……連戦か……?」
そう呟いた武士の心には当惑と焦燥が生まれていた。
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