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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第二章 関東鳳凰会編

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ラウンド11 意地

ありがとうございます。

次は21時10分更新です。

 いつもの乱武高校第3武道場の裏でヤンキー座りをしながら駄弁っている者が2人。


 最近では、放課後お馴染みの日常風景となっていた。



「なんか、『関東鳳凰会(かんとうほうおうかい)』の連中が(まと)にかけられてるらしい。物好きもいたもんだぜ。ったく物騒な話だよなぁ」



 何処からか情報を仕入れてくる蓮が、如何にもウンザリだと言った口調でぼやいたのだが……。



「あ、それな、俺が狩ってんだよ。センパイ」



 しれっと武士が答えたことで、蓮は口をぱくぱくさせながら驚愕の表情になり、器用にもヤンキー座りのまま慌てて後ずさる。

 心なしか顔色が悪いように見える。



「ちょッ! マジかよ! 大丈夫なのかよ、それは! オレに影響ないんだろうな!?」


「心配し過ぎだぜ。センパイ。取り敢えず4番隊隊長って奴を仕留めた。後は会長辺りが出てくると手っ取り早いんだけどな……」



 蓮の心配もどこ吹く風で、武士は事もなげに答えた。

 ようやく2年生の連のことを先輩と呼ぶようになった武士だが、相変わらずタメ口でフランクに接している。


 友達がいない者同士すっかり仲良くなったものだ。



「その余裕が羨ましいよ。オレは。(よえ)ぇーからよ……ガキの頃は正義の味方ってヤツに憧れたもんだが……」



 何か大切なものを思い出したかのように、蓮はしみじみと自嘲気味に語った。

 武士は彼が言いたいことが何となく理解できるような気がしてフォローの言葉を投げ掛ける。



「今からでも間に合うと思うぜ? まずは体力と筋力だ。瞬発力も大事だけど、取り敢えずは筋トレから始めたらいいんじゃないか?」


「……ああ、そうだな。それはその通りだ」



 色よい返事ではなかったが、蓮も流石にそれくらいは考えているらしい。

 蓮の表情が晴れないので、武士は違う話題を切り出すことにした。



「んで、部員探しは捗ってんのか?」


「ふッ……お前さんはまーだ理解していないようだな……誘える友がいたら、こんな状況になってねーのよ」


「自虐自慢かよ! ふぅ……まぁいい。とにかく片っ端から当たってくれよな。俺の名前を出してもいいからよ」


「お前さんは悪目立ちしてるみてーだからなぁ……逆効果な気がせんでもないんだが……」


「誰がボッチだって!?」



 虚しい会話が続いたが、武士にとっては気兼ねなく話せる大事な同志。

 これも案外悪くないと考えられるほどには2人の仲は深まっていた。



「さて、俺は『関東鳳凰会』の連中を狩るって大切な仕事があるんでな。とにかく部員探しは頼んだぜ?」


「ちょいと待ってくれ。実は1人変わった奴がいるんだ。もうちょいで来ると思うんだが……」



 武士を引き止めた蓮が周囲をキョロキョロと見回した。

 目的の人物が見つかったのか、彼は渡り廊下の方を見ると大きく手を振る。



「おーーーい!! ユッキー!! 雪柳(ゆきやなぎ)!! こっちだこっち!」



 そちらに武士も目を向けると、身長高めでしなやかな体格の男が走ってくるのが見えた。

 やがてすぐ前にやってきた雪柳は息が乱れた様子もなく、平然と蓮に謝る。



「悪いね。待たせたかな?」


「まぁ気にすんな。お前さんに言ってた武士っつー1年だ。例の喧嘩部の件な」


「僕も幽霊部員のようなものだし構わない。だけどそろそろ教師に詰められそうだ」



 雪柳はあまり表情に出ないタイプなのか、無感動なだけなのか、言葉の割には余裕そうな態度をしている。

 体つきは悪くは見えないのだが、本人にやる気がないだけなのか。



「あんたが喧嘩部に入ってくれるのか? 何にせよ、これで3人だな。喧嘩に興味はないのか?」


「ああ、特にね。本当は文芸部を創りたかったんだけどね。どうにもならないからこの際何でもいいかなと思ってさ」



 武士と雪柳はお互いに簡単な自己紹介をすると、取り敢えずの握手だ。



「それにしてもぶ、文芸部だと……?」



 本など読まない武士にはほど遠い部活動だ。

 部屋に閉じこもってひたすら本を読むらしいが、何が楽しいのかさっぱり理解できない。

 どうしてこの学校にいるのかも分からない。



「まぁとにかく5人揃えばいいのよ……って訳でこれから頼むぜ、雪柳センパイ」



 何とか気を取り直した武士は考えを切り替えることにした。

 もう時間だ。



「取り敢えず、俺はこれから狩りだ。後は任せんぞ」


「狩るのがそんなに大事なのかよ。お前さんにも事情があるんだろうけどな……まぁ部員の方は任せとけ! 無理やり入部させられて幽霊部員と化した挙句、散々嫌がらせと嫌味を言われ続けた俺を信じろ!」



 晴れやかな笑顔でサムズアップする蓮だが、何処にポジティブな要素があるのかさっぱり分からないのだが……。


 とにかく今は烈華の安全が最優先。

 喧嘩部のことは蓮に任せて動くべき刻だ。

 武士はのっそりと立ち上がると、蓮に別れを告げて、街へと繰り出した。


 彼の日課が始まる。




 ―――




「おい! あっちに逃げたぞ! 追え!」



 厳つい声が飛び、何人もの人相の悪い男たちが忙しなく走っている。

 誰を探しているかと言えば、もちろん武士であった。

 『関東鳳凰会』にも面子があるのだ。

 幹部が立て続けにやられているのにもかかわらず、黙って元凶を放置しておくことなどできようはずもない。



「流石に多かったか……無理やり()っても勝てるだろうが、そこで幹部に出て来られても困るからな……」



 臨海部のコンテナに身を隠しながら、武士は敵戦力が分散し、少人数になるのを待って各個撃破していた。連日のようにメンバーが狩られているのだから、そろそろ序列の高い者が出てきてもおかしくない状況。



「あ! こいつだ! 炎下武士って野郎だ!」



 様子を窺っていた背後から、かん高い男の声がした。

 すぐに振り返った武士の前に、わらわらと湧いてきた敵の姿を見てすぐに安堵する。


 見つかったが少数――5人程度。

 この程度の人数との喧嘩などいくらでも経験があったし、時には20人以上と同時に戦ったこともある。



()るぞ! こいつは賞金首だ!」



 武士をねめつけながら指示を出している短髪の男は立場が上の者だろうか?

 そう思うものの、強者が持つ独特の雰囲気がない。

 それにどの顔にも余裕がないように見える。

 5人はじわじわと距離を詰めては来るものの、中々思い切って足を踏み出してこない。



「何だお前ら。へたれ共かよ。5人いれば勝てると思ったが予想が外れたってとこか? そりゃちょっと舐めすぎだろ」



 武士は鼻で笑うと呆れの混じった声で告げた。

 全く問題はないと判断した武士は、すぐに勝負を決めるべく突進を開始した。

 ましてやこの場所はコンテナに囲まれた狭い空間だ。

 囲まれることもなく、せいぜい同時に2人を相手取れば良い話。


 右側にいた男に容赦ない右ストレートを喰らわしてコンテナに叩き付けた後、踏み込んだ左足を視点に回転する。そのまま後ろ回し蹴りが、左側にいた男の丹田付近にヒットしたかと思うと、顔面から崩れ落ちていった。


 身長188cmから繰り出された攻撃は重く鋭い。

 背後を見せた武士に向かって破れかぶれで襲い掛かってくる2人だが――遅い。


 蹴り上げた右足を、そのまま力強く地面に打ち付けると、帽子の小柄な男が金属バットを振り上げた隙に左拳を顔面に打ち込んだ。

 そのまま両手で彼の体を浮かすと、もう1人の男へ向けて全力で水平に振り抜いた。

 まるで人間バットの如く。



「バットの使い方はこうすんだよ。覚えとけ」



 小柄とは言え、男の全体重の直撃を受けて4人目も吹っ飛ばされてコンテナにぶつかって動かなくなる。

 残りは指示役の短髪男だが、戦意を喪失したのか震えた声で虚勢を張る。



「テメッ……『関東鳳凰会』に逆らってただで済むと思うなよ……」



 口だけは達者なようだが、明らかに怯えの混じった目。

 無遠慮に武士が一歩前へ踏み出す。

 その空気に押されるかのように男が一歩下がった。

 男の目を正面から見据えて武士が無慈悲に告げる。

 馬鹿にしたような余裕の表情で。



「逆らったらどうなるんだ? 教えてくれよ」



 もう一歩前へ踏み出そうとした瞬間に不意に襲ってくる違和感。



「(何だ……?)」



 武士が追い詰められた短髪男を凝視する――口元が吊り上がっている?


 そして訪れる背中への衝撃と、聞き覚えのない、かん高い男の声。



「こうなんだよォォォ!!」


「ぐはッ……!!」



 長髪の男が握り締めた両拳を武士の背中に叩き付けたのだ。

 コンテナの上から飛び降りて。



「やりぃ! ()っちゃって下さい! 門司(もんじ)さん!!」



 あまりの衝撃に口から呼気が漏れ、前傾姿勢になった武士の腹部に膝蹴りが決まる。

 こちらはそれほどのダメージではないが――


 続けざまに響く衝撃は右側頭部への一撃。

 ぐわんぐわんと脳が揺れる中、根性で右足に力を込めて踏ん張ると、攻撃者の想定位置へ向けた右拳が唸る。



「(手応えなし……くそッ)」



 空回る腕に、揺れる足元。

 視線がブレてなかなか定まってくれない。



「ごッ……!!」



 武士の顎に決まるは、下からかち上げられた掌底。


 立て続けに脳を揺らされて意識が朦朧とするが、落ちている場合ではない。

 とは言え、気合でなんとかなる問題でもないのだ。



「んだよォ!! 大したことねェじゃんかよォ!!」



 攻撃は留まるところを知らず、次は武士の丹田に右拳がめり込んだ。



「おおォォ!! 硬ェ腹筋よ! となりゃ!」



 武士を襲う唐突な浮遊感。

 右膝が軋み、力が抜ける。

 門司のローキックが武士の膝を砕いたのだ。



「ヤバい……」



 そのまま体重を掛けられた武士は硬いアスファルトへ全身を打ちつける。

 門司はすぐに体に飛び乗ってマウントを取った。

 そしてひたすら武士の顔面を殴り続ける。


 武士の顔は腫れあがり(まぶた)が切れて出血し始め、鼻が曲がり、口からも血を流している。


 何とか意識はあるものの、体が言うことを聞いてくれないのだ。

 いつもなら甘いマウント程度はひっくり返せる自信があるのだが。


 ――このままでは負ける。


 悔しさと怒りが胸に去来し無力感と不甲斐なさに涙が出そうになるほど。

 怒りは武士自身へと向き、心だけは燃え上がっていく。

 烈華を護ると決めた直後に、敗北など自分が許せない。

 許されるはずがない。



「おーい。聞こえてるかァ? あまり跳ね回ってんと転ぶぞォ? おい聞いてんのかァ!!」



 門司が自分の問い掛けに反応がないことにキレて、ますます激しく殴り始める。


 その時、サイレンの音が聞こえた。

 それも1つではなく複数。


 気付いた『関東鳳凰会』のメンバーが慌て始める

 いつの間にか2人の周囲には多くの者が集まっていた。



「門司さんッ! マズいッス! 警護ロボが来ます! すぐ逃げましょう!」


「あー? ロボォ……? せっかくハイになってきたんだ。とことんやってやんよォ」



 門司はそれがどうした?と言う表情で提案したメンバーを睨みつける。

 そして跨っていた武士から立ち上がるとメンバーに居丈高に命令を下す。



「こいつのスマホ出させろォ」



 門司は自分のスマホを取り出しつつ、武士のポケットに入っていたスマホを受け取ると、息も絶え絶えな彼に向かって話し掛ける。



「おい。兄ちゃん。今からバトルだ。うちに独りで喧嘩売るほどだ。まさか受けない訳ねェよなァ……ヤンキーやってて『権力に護られる』なんて言わねェよなァ……?」



 どんどん近づいて来るサイレンの音。

 周囲のメンバーは焦った表情をしているが、門司は余裕な顔でへらへらと笑っている。


 意識が朦朧とする中、武士にもその声は届いていた。

 ここでバトルを受けなければ、これ以上ボコられることはないだろう。

 しかし、そうしてしまえば、今まで貫き通してきた矜持も誇りも、そして烈華を護ると決めた強い覚悟も吹き飛んでしまうのは間違いない。


 『権力に護られる』――それは喧嘩上等で生きてきた武士の人生を否定するものでもある。



「ちなみに俺の序列は1848位だァ」



 何とか左手を出してスマホを受け取った武士。

 上体すら起こせないほどにダメージを負っており、特に顔面はボコボコに歪んでいる。



「さァどうする? 別にいいんだぜェ……? どうせアレだろ、お前。どうせ『女に手を出された復讐』とか考えちゃったんだろォ? よーくいんのよ、そう言うヤツがなァ……」



 脱力していた武士の左拳が血が滲むほど強く握られた。

 倒れたまま反応を示さない武士を高みから見下ろしながら門司が残念そうに口を開いた。



「そっか。ま、お前はその程度ってこった。せいぜい警護ロボに護られてろォ……反権力気取りの兄ちゃんよォ……おめェら行くぞ!」



 そう言い捨てて門司は踵を返し、この場から立ち去ろうとする。

 明らかに武士を見下(みくだ)した物言い。

 武士の燃え上がっていた闘志に、更なる燃料が投下される。




 その時――門司が手にしていたスマホから「ポン♪」と通知音が鳴り響いた。


 スマホが場違いな優しい声で話し出し、雰囲気をぶち壊した。




≪序列2656位:炎下武士から対戦申請:承認しますか?≫

お読み頂きありがとうございました。

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