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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第一章 覚醒編

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ラウンド1 再会

新連載です。

異能力有りのバトルアクションです。

よろしくお願い致します!

『K.O.! Loser! ネーム:炎下武士(ひのもと たけし) 序列:圏外→圏外』



 無慈悲にも敗北を宣告された後、画面内で満面の笑みを浮かべた女性アバターが優しい声で煽ってくる。



≪残念でしたー! どーする? もう1戦行っとくー?≫



「ぐ……この……クソッ! また負けちまった! 難しすぎんだろこのゲーム……喧嘩なら負けねぇのによ!」



 夜のゲーセンでゲームの筐体を殴りつけて八つ当たりしているガタイの良い少年。


 彼の名は炎下武士(ひのもと たけし)

 高校生になったばかりだが、その風貌は野性的で、顔には痛々しい傷痕が。

 頬と右瞼に切り傷があり、日常に喧嘩が溢れていることを示している。

 短めの金髪を逆立て、右の耳にはシルバーのピアスをしており、何処からどう見ても100%ヤンキーである。



「あ、あのう……お客様……筐体を殴らないで」



 小柄で気弱そうな店員が恐る恐る注意してきたので、思わず睨みつけてしまう。



「ひぃぃ! ご、ごめんなさい」


「そんなにビビんなよ……何もしやしねぇって。ゲーム機殴って悪かったよ……」



 機嫌は悪いが、武士は堅気(かたぎ)の人間に喧嘩を売るほど落ちてはいない。

 とは言え、彼の心中は穏やかではなかった。

 ゲームでお金を浪費した挙句、散々に負けてしまったからだ。

 ゲーセンから出た武士は、さっさと家に帰って不貞寝でもすることに決めた



「『アンリミテッドバトルガール』か……上手くなれば烈華(れっか)との仲が深まるかと思ったんだけどなぁ」



 彼にはどうしてもそのゲームが上手くなりたい理由があった。

 例えどれだけお金を注ぎ込んでも……。


 世界的に流行しているオンライン格闘ゲーム『アンリミテッドバトルガール』。


 武士としてはバトルはゲームではなく現実でやるものだと言う強い気持ちを持っている。にもかかわらず、彼がゲームをプレイする理由――それは想い人で幼馴染でもある波取烈華(はとり れっか)がこのゲームにハマっており少しでも2人の距離を縮めたいからと言うもの。



「つってもな……ゲームで強くなってどうすんだよ。喧嘩は素手で殴り合ってこそだろ……」



 散々お金を注ぎ込んでボロボロに負けたのが余程悔しかったのか武士の口からは愚痴しか出てこない。



「バトル法のお陰でファイトマネーが入る分、まだマシつっっちゃマシなんだがな」



 明るく闇を照らすコンビニを過ぎれば烈華の家と柔術道場がある。

 更にしばらく行けば、武士の住む市営住宅が見えてくる。



「偶然、烈華に会わねぇかな……? やべぇ緊張して来たぜ」



 とぼとぼと歩く背中に哀愁が漂っているが、そんな彼に背後から声を掛ける者が現れる。



「なぁ兄ちゃん、喧嘩やろうや。金持ってんだろ?」


 

 背後から掛けられた、あまりにも唐突な提案。

 振り返った武士の目に飛び込んできたのは、一言で言うとだらしのない男。

 夜だと言うのに古臭さを感じさせるダサいサングラスをかけており、よれよれのデミムシャツ、髪はぼさぼさ、顔は無精ひげだらけのおっさんだ。


 不遜な態度で口元をニヤつかせているところが癇に障る。

 だが出会い頭の一言に怒りを覚えながらも、武士は心が高揚するのを感じていた。



 ゲームの借りを返してやる――



 ゲームで負けたのは完全に自業自得なのだが、それを認められない男――それが炎下武士と言う人間であった。



「はッ……いきなり喧嘩売ってくるたぁよっぽど自信があるみてぇだな、おっさん。だが喧嘩売る相手を間違えちゃいねーか?」


「金がねぇんだ。バトルしようや。とっととスマホ出せよ。マッチングだ」



 話が通じないおっさん。

 それが武士がこの男に抱いた印象であった。

 そのせいもあってか、彼は苛立ちが隠せない。



「挑戦者ってことは俺より序列が下って訳か……相手を見て喧嘩売れよな。おっさん」


「金がねぇんだ。仕方ねぇ」


「チッ……ただの金欠野郎かよ。ちょっと今イライラしてんだ。乗ってやんよ。その喧嘩。オラ、スマホだ」



 武士としては普通の喧嘩をしたいのだが、法律で私闘は禁じられており違反することは許されない。

 何故かすぐに喧嘩の臭いを嗅ぎつけて警護ロボがやってくるからだ。

 このロボがまた強過ぎて、喧嘩慣れしている武士でも手が出せない。


 手にしたスマホが震えて自動音声が流れる。



≪序列21万4892位:石動鉄山(いするぎ てつざん)から対戦申請:承認しますか?≫


「承認だ!」



 迷うまでもなく断言する武士に対し、鉄山はニヤつきながら愉快そうに大口を叩いた。



「いいねぇ。お前みたいな奴は嫌いじゃないぜ」


「あー(わり)ぃな……俺はアンタみたいのは嫌いだがな」



 いちいち感情を逆撫でさせる男の言動に、武士は苛立ちを隠せない。


 喧嘩は喧嘩。

 そこには金も何も絡むことは許せない。

 名誉と誇り、意地、矜持、何より武を懸けて戦うのが喧嘩だ。

 修羅の国たる日本で最強の存在――序列1位となる。

 それが武士が喧嘩をする理由であり、存在証明。



≪双方向認証:承認! マッチングが成立しました。20秒後にバトルが開始されます≫



 スマホからAIによる自動音声が聞こえてくる。

 女性の柔和で優しげな声色なのだが、どうしてこのような音声にしたのか疑問でならない。

 そんな全く関係のないことを考えていた武士だったが、今は喧嘩に集中するべくブンブンと頭を振って余計な考えを振り払う。



「20秒か。結構近くにいるもんだな。毎度毎度ご苦労なこって」



 街中には法案により開発された各ロボットが多数徘徊しており、それが日常的な光景になっている。

 間もなくキキーッとタイヤのスリップ音が聞こえたかと思うと、超高速でレフリーロボはやってくる。

 武士たちの目の前で急ブレーキをかけて停止するレフリーロボ。

 地面にはタイヤ痕が付き、煙が上がっていた。

 20秒ジャスト。すぐさま2人のスマホから個人情報を抜き出して大声で宣告する。



≪それではぁぁぁ!! 炎下武士Vs石動鉄山のバトルを開始しまぁぁぁす!! ファイッ!!≫



 合図と共に鉄山が一気に間合いを詰めて、体を丸め込んだまま武士の懐に入り込む。


 虚を突かれた武士はガードを下げる間もなく左脇腹に思い切り右鉤突(みぎかぎづ)きを喰らう。


 完全なる油断。

 止まる呼吸。



「カハッ……」



 武士の口からは短い呼気が漏れて、その巨躯が浮き上がる。

 15歳の高校生にしてはかなり大きい彼の体格は身長188cm、体重94kg。



「(なんつー力だよ!? コイツッ……まさか使う野郎かッ!?)」



 脳裏に嫌な予感が過る中、鉄山の追撃が迫る。

 見える!


 武士の目は右から来る左拳を捉えているが――



「(体が言うこと聞かねぇ!)」


「カカッ……!! お前さん、ナメすぎだぜぇ!!」



 そして鋭い風切り音と共に斜め上からの左フックが武士の右頬に決まる。

 そのまま地面に顔面から叩きつけられ、その衝撃は計り知れない。



 感じるのは痛みよりも――焦り。



「(また追撃が来るッ……ヤバい!)」



 すぐさま体を起こそうとしたところにチンピラキックが武士のみぞおちを抉り、鉄山の細い爪先が肉体にめり込む。


 何度も続けざまに蹴りを喰らって胃からは酸っぱい物が込み上げてくるが、歯を喰いしばって何とか堪えた武士。


 地面を転がって鉄山の攻撃から逃れ、ようやく起き上がると急ぎ態勢を立て直す。悠然と立っている鉄山を忌々しげに睨みつける武士の口から自然と憎しみの言葉が漏れた。



「てめぇ……」



 気合で負けたら喧嘩でも負ける。

 精神は時に肉体を凌駕する。

 それが武士の信念だ。



「使う奴だろうが、どんな奴だろうが関係ねぇ……俺に喧嘩を売った奴は殺す! ぶち(ころ)がしてやんよ!」



 武士は鉄山を鋭く睨みつけると反攻に転じた。

 今まで無数の喧嘩を繰り返して独自の喧嘩殺法を磨き抜いてきたと言う自負がある。


 そんな自分が少しばかり喧嘩慣れしたおっさんになど負けるはずがないと心から思える。


 真正面から堂々と武士が突っ込むが、鉄山はあくまでも余裕の態度を崩さない。

 様子を見るべく牽制で左のジャブを連続で放つものの、鉄山は不気味な笑みを湛えたままでそれを右掌でいなして払いのける。


 いとも簡単に。あっさりと。


 最初はボクシング系かと考えた武士であったが、違うのかと思考を切り替えて鋭い右ストレートを繰り出す。


 憎たらしい顔面に向けて。



「(防御方法を見りゃ分かんだろ!)」



 躱すのか、先程のようにいなすのか、払うのか、掴んでくるのか、腕でガードしてくるのか?



 鉄山の選択は――回避。



 鉄山は半歩だけ体をズラして半身になり、武士の右手に回り込もうとしている。


 右を封じたつもりだろうが甘い。


 武士は先程の左フックが来ると考えて軽快にスイッチする。

 重心を移動しつつ、右足を大きく踏み込むと地面に強く叩きつけて全体重を乗せた。



 本命は――渾身の左ストレート。


 

 武士は左利きのサウスポータイプである。

 右腕もしっかり鍛えてはいるが、もっとも強力な一撃だと自信を持って言える。



「喰らいやがれッ!!」



 「ハッ」と短い呼気を吐き出して放たれた左ストレートが鉄山の顔面へと肉迫する。

 武士の左をまともに喰らって沈まなかった者はいない。

 勝利を確信して思わず口元が緩む。

 鉄山の顔面が破壊されて、流血する様を武士は幻視した気がした。


 その瞬間、武士の目の前が暗闇に染まる。



「!?」



 予想だにしない衝撃。

 戦慄が武士の体中を雷光の如く貫く。


 タイミングを合わせて繰り出された鉄山の無造作にも見える左拳が、武士の顔面にカウンターとなってめり込んだのだ。


 自分の身に何が起こったのか理解できない武士。

 その顔は一瞬で潰れて鼻血が溢れ、口の中は切れて血が流れる。

 歯も何本か折れてしまったようだ。


 一方の鉄山は完全に動きの止まった武士に向けて、その硬い拳を次々と叩き込んでいく。

 顔面はもちろん、みぞおち、脇腹を中心に体中をフルボッコにされる。



「(ぬかった……右から来る……ガハッ……くそがッ……膝蹴り……避けられねぇッ)」



 頭では何とか大きく距離を取ろうと考える武士だったが、体が中々言うことを聞いてくれない上に、鉄山が逃げることを許してくれない。

 後方へ跳ぼうとすれば抱え込まれて膝蹴りを喰らい、左へ逃げようとすれば脇腹への左鉤突き。

 開き直って特攻しようとすれば丹田下へ鉄槌の上、前蹴りで適度に距離を取られる始末。


 八方塞がりの状況に頭が真っ白になる武士。


 となれば亀になって少しでも威力を弱めるしかない。

 どんどんとダメージが蓄積していくが、思考は鮮明。

 そして理解する。いや、理解させられてしまう。


 鉄山は明らかに手を抜いている。

 焦燥感ばかりが募っていく。



「おいおい! (つえ)ぇんだろ? こんなおっさんに負けるなよ。コーコーセー!」



 何処か呆れの混じった声で呼びかける鉄山だが、攻撃の手を緩めることはない。

 しばらくこの場所には鈍い殴打音のみが響き続けた。

 打たれ慣れている流石の武士も段々と意識が朦朧としてゆく。



「(く……落ち……る……)」



 初めて武士の心に芽生えた感情――これは恐怖?


 そこへこめかみへの衝撃。

 武士の意識は徐々に暗転していく。



「兄ちゃん、まぁまぁってとこだ。運がなかったと思うんだな」



 混濁する意識の中で武士は鉄山の声を聞いた気がした。


 レフリーロボの超精密カメラが両者を捉え、AIに従って判定を下す。



≪バトル勝者:石動鉄山!! 序列21万4892位→15万5651位。敗者:炎下武士!! 序列2589位→3199位。炎下武士からファイトマネーを徴収し石動鉄山へ譲渡します≫



「うほっ……金も入ったし呑みに行くわ。じゃあなバンチョー。またカモらせてもらうぜ」



 鉄山は倒れ伏して悔し涙を流す武士の姿を一瞥さえすることなく、右手をひらひらと振りながら去って行った。


 悔しい悔しい悔しい!

 次、会ったら必ず殺す!

 例え、私闘が禁止だろうが絶対にだ!

 徐々に負けた悔しさが込み上げて意識が覚醒してくる中、そんな熱い想いが武士の頭を過る。


 この喧嘩は、武士が初めて完敗を喫した屈辱の日として記憶に刻まれることとなった。

 そして必ずやリベンジを果たすと言う目標ができた日でもある。



≪裂傷多数を認める! 直ちに適切な処置に移行します≫



 バトルが終われば、後は救護ロボの仕事だ。

 ロボットとは思えない手際の良さで、適格な治療を施してゆく。



「はぁ……今日は散々な日だったぜ……全てが(いて)ぇ」



 肉体的にも金銭的にも、特に精神的にも。

 そうぼやく武士の耳に柔らかくも心配げな少女の声が届いた。



「あれ? もしかして武士……? あなた……また喧嘩したの……」



 武士にとっては聞き覚えのある声。

 ひょっこりと救護ロボの陰から覗き込んでいたのは、武士の想い人兼、幼馴染の波取烈華(はとり れっか)その人であった。

お読み頂きありがとうございました!

引き続きよろしくお願い致します。

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