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さらに数刻。

 陽は傾き始め、試金石の儀式は始まる。

 流石にこの時間の間は首飾りを外すよう提案してみたものの『一度外せばまた慣れるのに時間がかかりますから』とフィオナ──今は王女か──に断ららてしまった。

 の、だが……。


(朝よりふらふらになっていないか?)


 時間が経てば経つほど、フィオナは首飾りがついた状態にも慣れていった。覚束ない足元も段々と安定してきて、それを確かめるように何度か跳ねたりもして。

 かと思えばまた、ふらつきだして、バケツをひっくり返し……そうしてしばらくするとまた安定してくるが、ふたたびふらつきだして……というのを繰り返していた。

 てっきり動き回って疲れているのかと思っていたのだが、朝と同じ王女の格好をしているとわかりやすい。


 靴が石畳を叩く音が、コツコツと廊下を反響している。 

 ここ最近いつも聞いていたせいか、その音がいつもより遅く…そして不規則なもものように変わっていることがよく分かった。

 ドレスの裾に隠れてその足元は見えないが、初めて会った時の緊張──と、いうことにして置いておく──していた時と比べても、明らかに一歩一歩の歩みが遅い。

 表情は相変わらず読みにくいが、僅かに強張っているような……否、私情がないとは言い切れない、それ故の先入観かもしれないが。


 後ろからはいつものようにキースと、侍女がついてきている。

 キースはいつもと表情も含めて変わらないが、侍女の方は分かりやすい。じっと、フィオナを見つめて、眉根を寄せている。


「殿下、やはり一度休んだ方が――」


 しかし、掛けようとした言葉は、突如として放たれた鋭い殺気によって遮られた。


(刺客……!?)


 なんと間の悪い。

 腕を剣の柄へとのばし、地面を蹴ろうと足に力を込めた。

 その刹那。


「っ!」


 ダン、という鋭い音と同時に、鋭い銀色の風が視界の端で飛び出した。

 隣にいたはずのフィオナが、爆ぜるような勢いで地を蹴った音だった。


「待て!無理をするな!」


 叫びは届かない。

 彼女は引き絞られた弓矢のごとき速度で刺客へと肉薄する。だが、カイルの目には見えていた。踏み込んだ彼女の膝が、一瞬だけ、あり得ない角度に折れ曲がったのを。

 刺客が迎撃の構えをとる。フィオナの拳がその顔面に叩き込まれる――そう確信した次の瞬間。


「あ、れ……?」


 フィオナの口から、場にそぐわない抜けた声が漏れる。

 凄まじい突進の勢いのまま、彼女の全身から力が抜け、まるでプッツリと糸の切れた人形のように前方へと倒れ込んだ。


「なっ……!?」


 そのまま顔面で拳を受けるはずだった刺客が、目を見開いて叫ぶ。

 慌てて武器を放り出した刺客の両腕が、無防備に倒れ込んできたフィオナの体をがっしりと受け止めた。


「おい、ちょっと待て! 大丈夫か嬢ちゃん!?」

「…………」


 返事はない。刺客の胸板に顔を埋めたまま、フィオナはぐったりと動かなくなった。

 カイルの足が凍り付く。

 刺客は、もはや戦闘の意思など微塵も見せず、顔を真っ青にしてこちらを仰ぎ見た。


「お、おい! この嬢ちゃん、身体が熱すぎるぞ! まるで焼けた石だ……っ、おい、しっかりしろ!」


 敵であるはずの男に抱きかかえられ、ゆさゆさと揺さぶられているが、その姿は人形のようにされるがままだ。

 激しい焦燥の中で、一瞬だけ思考が停止する。


 怒号を上げるべきか、礼を言うべきか。

 複雑すぎる感情は一度飲み込む。

 力なく刺客の腕の中に沈んでいるフィオナのもとへ、弾かれたように駆け出した。


 彼女を受け取り、その腕に伝わる熱は彼が言うように熱く、そして完全に意識を手放しているのだろう……重い。


「フィオ……!」


 駆け寄ってきた侍女が、フィオナへ手をかざす。

 その腕から降り注ぐように現れた柔らかな光が、フィオナを包んだ。

 回復魔法、というやつだろうか。

 侍女は取り乱した様子で、なんで、嘘、等と早口に呟いているがよく聞き取れない。


「お前は医官へ。王女の寝室で待機するよう伝えろ」

「お、おう!」


 すぐ後ろから、陛下……いや、キースが刺客へそんな指示を出すのが聞こえた。

 固まっていた刺客はすぐに動き出し、廊下をかけていく。


「侍女殿、落ち着いて」


 続いて、今にも泣きそうな顔をした侍女の肩へと手を置き、見本を見せるようにとても落ち着いた口調で、なだめるように言って聞かせる。


それ(・・)を付けたままではせっかくの魔法が届きません」


 キースが指さしたのは魔除け石だ。

 |魔法の効果が抑制される《・・・・・・・・・・・》、そういえばそういう代物だった。


「まずはそれを外しましょう。陛下、失礼ですが王女をそのまま寝室へ運んでいただけますか」

「……ああ」

「私は少し外します。侍女殿は、陛下と一緒に」


 この場で唯一冷静な指示と声に、こちらも落ち着きを取り戻していく。

 侍女もそうだったのだろう、キースの言葉にこくん、とうなずいたのが見えた。



読んでいただきありがとうございます。

次はまた二日後、18時ころに。

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