表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

16

 お披露目会の件を聞いてから2週間。

 本当に、目まぐるしい2週間だった。


 『お前は小柄だから』と、父に初めて私用の鎧を作ってもらった時も大変だったが、ドレスの採寸という作業もまた戦争だった。

 色はこれが良いだろう、素材はこれが良い、ここの布地にこの色を使うなら、こっちはこの色が良い、袖口はどうしようか、胸元は………。

 なーーーーにも、わからなかったし、ついていけなかった。流行りなどもあるのだろうけれど、全ては侍女──セレフィナ様任せだ。


「(背格好がほぼ同じですし)私ではなくセレフィナ様が(今後着るものでしょうし)採寸されては?」


 と、途中で言った後はとても後悔した。

 少しはこういうものに興味を持ちなさい!と、かなりご立腹な様子のセレフィナ様にお説教をされ、当初予定されていた3倍の時間は着せ替え人形にされてしまった。

 ああいう時のご婦人方には逆らわない方が良い。絶対。絶対だ。





───そして、もう一つ。

 残りの期間を捧げるべき課題が残っていた。

 いかにして、大人しく、刺客を退けるか、だ。


 元々、魔物は多く相手してきたが、人間相手は殆ど経験がない。

 たしかにフォークナー家(うち)は国境に位置し、国を守護する立場にある。だがそれは敵国の人間からではない。

 『境界』から進行してくる魔物(・・)からだ。


 前にも言ったが、魔物にも人型はいる。

 だが多くない。

 その殆どが獣に近い姿か、生物とは信じ難い姿をしているか……そんな所だ。

 だから今までは人間相手の訓練など意味がなく、父や兄、他の騎士たちとの手合わせをしたことはあるがじゃれあい程度の……軽く武器の扱いに慣れるためのものだった。


 しかし、刺客は人間である。


 基本、人間は魔物より軽い。

 軽く小突けば人は飛ぶ。そして飛べば落ちてくる頃には戦意を喪失するか、気を失っている。

 向こうもこちらを手にかけようとまでは思ってないだろうから、威嚇の意味も含めて、これまでは雑に刺客の相手をしてきた。

 ……が、お披露目ではそうもいかないらしい。人間を飛ばしてはいけないと言われてしまった。


 そこで、考えに考えてたどり着いた結論はこうだ。


「つまり、吹き飛ばさなければ(・・・・・・・・・)良いのですよね?」


 いつもの如く、共有事項を語り合う朝食の場。

 ……何故だろう、刺さる視線が痛い。

 キース殿はすごく楽しそうにしているけれど。


「考えたのです。上や横に殴り抜けるから人は飛ぶのだ、と。であれば答えは簡単、下に殴り抜ければ良いのです」

「あっはははは!確かにその通りですね!」


 手を叩き出しそうな勢いで、非常に楽しそうにキース殿は笑っているが、残る2人の表情は苦い。


「……要点は抑えているか」

「甘やかさないでください。……実はすでに、解決方法を用意しております」


 懐柔されてくれそうなカイル殿を制しつつ、セレフィナ様が取り出したのは、一つの首飾りだった。


 中央に鎮座するのは、表面に細かな切子(ファセット)が刻まれた透明な石。

 その周囲を、職人が一本の糸から編み上げたような、極細の蔦状の金細工が優しく囲っている。


失礼します、後ろに回り込んだセレフィナ様がその首飾りを付けてくださった。

 装飾品には詳しくないが、手の込んだ品だ。きっと高価なものに違いない。


 戸惑っていると、セレフィナ様に立ち上がるよう促されるが……。


「……っ!?」

「フィオナ嬢!?」


 体に力が入らない。

 足で立っているというより、棒の上でバランスを取っているような、不確かな感覚だ。

 そんな体を支えるために椅子に手を添えるが、それだってまるで触れているだけのような違和感。

 慌てて駆け寄ってくれたカイル殿が居なければ、膝をついていただろう。


 ほう、と少し驚いたような声を上げたキース殿が、それどころではない私の代わりにセレフィナ様に問うてくれた。

 

「侍女殿、これは?」

魔除け石(・・・・)です」


──魔除け石。

 『境界』を超える際にも用いた、魔物除け、あるいは『境界』の毒の霧などを退けるための道具だ。

 便利な道具ではあるが、安直かつ古風な名前の他、大きすぎるデメリットが一つ。


「大丈夫か?」

「ええ…しかし……」


 魔除け石は、人間が扱う魔法も抑制する。

 つまり──私が常時発動している身体強化が鈍くなっていた。


「じきに慣れます。というか慣れていただきます。今日一日、その首飾り(くびわ)は外さないでくださいね」


 指を立てて、言い放つセレフィナ様。

 有無を言わせぬその姿勢を見せられたら、ただ頷くしかない。



 ……幼少の頃からずっと、魔物からの国を守る為に鍛錬に励んだ。逃げ出したくなることだって少なくなかったけれど、それでも必死に。

 身体強化と自己回復、この2つを両立できなかった時期なんかは特にそうだ。


 身体強化でどれだけ体を動かせても、皮膚の内側で肉が裂け、骨が軋む。いくら自己回復ができたって、痛みはある。痛い事を覚えていても、身体強化が体に馴染むまで、何度だって繰り返した。


 骨が砕けても、砕け切る前に治せば良い。肉が千切れても、千切れた端からくっつけばいい。自己回復を繰り返し、繰り返し。慣れたなら痛みは一瞬だ。だって、痛みを感じた頃にはその傷は塞がっているのだから。


 弱くなることを、守ろうとした祖国(エリュシオン)の人間に──それも王女に──求められるのは、その努力の否定のように感じられた。


 ………けれど。

 けれど、セレフィナ様を責めることはできない。

 この首飾り、装飾は凝っているが華美すぎない……私の好みにあわせたもの(・・・・・・)

 ドレス選びに時間をかけたのは──装飾に興味を持たない私を無理にでも付き合わせたのは、おそらく私の好みを把握する為。

 せめて私の好みの物を用意しようと……これはセレフィナ様なりの譲歩の結果。


 元はと言えば私の努力不足が原因。

 悪いのは首飾りを用意したセレフィナ様ではなく、せっかくの努力の結果を御しきれない私だ。嫌われ役をさせてしまった、私の責だ。

 この首飾り(くびわ)はその証。

 これも鍛錬の一環と思えば……。


「待ってほしい」


 肩に添えられたカイル殿の手に力が籠る。

 顔を見上げれば、私よりも何か……痛みにでも耐えるような、そんな顔をしていた。


「カイル、殿?」

「時間はまだある。もう少し、他の方法を探しても良いのではないか?」


 何かを言おうとするセレフィナ様に対しても、カイル殿は首を振って制する。


「……俺が力を貸す。必ず、フィオナ嬢の(努力)が報われる形での解決方法を探そう」


ここまで読んでいただきありがとうございます

次はまた2日後、18時頃上がる予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ