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 今日も今日とて刺客が宙を舞う。

 刺客に襲われるのももう慣れたもので、ナイフを落とし、剣を払い、槍をへし折っては、その身を吹き飛ばす。

 晩餐の後に襲ってくるのは良い。食後の運動になる。

 けれど湯浴みの後に襲ってくるのは困る。汗をかいてしまったらどうするのか。


 ……今の所、その心配はなさそうだけれど。


 実の所、刺客に襲われると聞いて多少の不安はあった。

 今まで相手にしてきたのは魔物ばかりで、たしかに人型に近いものもいたがそれは亜人……やはり、人とは少し違う。

 人間相手、しかも手加減をしなければならない。

 魔物はどちらかといえば、本能的に動く。人間は頭で考えて動く。


「貴女の身体強化は異常ね」


 そんな時、セレフィナ様にそう言われてしまった。

 例によって湯浴みの時のことだ。


「そうですか?」

「そうよ……あなた、常に身体強化をしてるでしょう」

「……普通では?」

「普通じゃないわよ、痛くないの!?」

「…………そういうもの、なのでは?」


 パチン、と頭を叩かれる。

 叩いたセレフィナ様の方が手が痛そうだけど、指摘したら怒られそうだからやめておく。


 通常、身体強化というと瞬間的に、部分的に行うのが一般的らしい。

 攻撃が来るから、受けるための腕を、その瞬間だけ固くする。

 早く走るために、地面を蹴る瞬間に、足の筋組織を活性化させる。

 私は──フォークナー家の人間は、それを常に行っている。そういうものだと教わってきたので、それが当たり前だと思っていた。


 例えるなら。

 普通の身体強化はその瞬間、その場その場で武器を作って戦うイメージ。

 フォークナーの身体強化は、常に鎧を着てぶん殴ってるイメージ。


 しかし、そんな使い方をしていたら筋肉や骨に負担が大きすぎる。

 セレフィナ様が「痛くないの?」と聞いてきたのはこれが理由だ。


 だからこそ、負担を減らすために瞬間的な強化にとどめるそうなのだが、フォークナーの人間(わたしたち)は受けた端から同時に回復もしている。

 自己回復、というやつだ。誰かの怪我を治すことはできないけれど、自分の分は受けた端から治している。


 ただ、セレフィナ様の言う通りこれが結構痛い。何せ、骨が軋むような威力で殴りつけたりするのだ。

 もっとも、それを伝えたら余計怒られそうだから言わないでおこう。


「貴女の一族が代々魔法が苦手なんて言われてきた理由がわかったわ……既に魔法を1つ使っているんだもの。同時に2つなんて上手く扱えるはずがないわよ」


 普通はそう、なのだろうか…?

 もっとも、身体強化と自己回復なんて無意識でも使える魔法だ。きっと例外中も例外……

 いや、けれどだとしたら。


「2番目の兄上は使えますよ」


 身体強化と自己回復に加えて、3つ目が。

 というのは流石に黙っておくけれど。


「………やっぱり貴女の一族、どうかしてるわ」


 そりゃオーガなんてあだ名がつく、脳筋令嬢だって生まれるわよ。

 そう言いながら、さっきは叩かれた頭を今度は撫でられる。


「戦う度に、怪我しなくても痛い思いをしているわけでしょ」

「それは…まあ……でもそういうものなので、それで良いのかと」

「何も良くない」


 陛下に撫でられた時とは、また違う。

 私には兄が3人いるが、姉はいない。もし、姉がいたなら……こんな感じなのかもしれない。




────────…




 昼があれば夜が来る。

 夜がくれば、眠る時間だ。


「どうぞ!」


 どうぞではないが?


 ここ数日と同じ流れで部屋に入ると、例の如くフィオナ──いや、今は王女か──が、待っていた。

 それはわかる。今更部屋を分けよう、あれは嘘だったとは言えな…言いたくな………言えない。

 だからここまではわかる。


 何故ベッドに腰掛けながら両手を広げているのか。


「昨日私は感動したのです。眠っていた時と起きた時、全く同じであることに!」


 寝相のことだろう。

 俺も感動したよ。

 あそこまでされておいて、それ以上何もしなかった俺に。


「ですので本日もお願いできたらと……なので、どうぞ!」


 どうぞではないが?


 いや、どうぞされたい気持ちはある。物凄くある。

 あるが、これ以上は本当に何をするかわからないが?

 何をされてもいいのだと解釈するが?


「カイ……じゃない、陛下?どうされました?」


 何の疑いもないこの目。

 全幅の信頼を置いてます、というこの綺麗な目。

 据え膳……しかし、恥をかこうともそれを堪えるのもまた男の甲斐性、か?


「今は二人だけだ、カイルでも構わない」


 昼の時間のほうが長いからな。

 咄嗟の時に「陛下!」なんて呼ばれてはいけないから、慣れる為にも名前呼びの方がいいだろう。他意はない……嘘、下心もある。


「では、カイル殿と……わわっ」


 昨日と同様に彼女を抱き込み、ベッドへ倒れ込む。

 今日はもう供給過多だ、これ以上大きい一撃を貰う前に寝てしまいたい。


「カイル殿も、もしお嫌でなければ、昼と同様に呼んでください」


 このお姫様はまだ続ける気か?


 わかった、とだけ返事をしておけば良いのに、そんなことを言われたら昼の続きをしてしまいたくなる。


「フィオナ嬢?」

「は、はい」

「……フィオナ嬢」


 流石にもう呼ばれることへの動揺はなくなったか。呼びすぎたかな。

 それでも、この名前で呼んでいる時は王女として見なくてもいいような気がして、自分だけ呼ぶことを許されているような気がして……何度も反芻してしまう。


「……ではそうさせてもらおう。おやすみ、フィオナ嬢」

「はい、おやすみなさい!カイル殿」


 呼ぶのは慣れたが、呼ばれるのはまだ慣れない。

 腕の中の暖かさを感じながら、微睡の中へと落ちていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

2日後って言ったんですが、花金なので連日であげちゃいました。

続きはまた、2日後……ではなく、明日の18時頃に

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