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「かりそめの花嫁になれ」と冷遇されましたが、むしろウェルカム!~問題ありません、私は魔法の研究と実験さえできればそれで!~  作者: YoShiKa


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9.華やかなマカロンと暗い影

 私は地下室の掃除はしないよう侍女たちに言いつけた。

 だって、ブラッディ・ベアが見つかったら言い逃れができない。

 魔法で隠しはしたけどその場しのぎすぎるし、そもそも私が落ち着かない。

 何はともあれ、私は急いで王子の待っている一室に向かった。

 

「お、おはようございます、殿下……」


 肩で息をしている私を見た途端、ソファに腰掛けていた王子が立ち上がった。

 表情が強張っている。

 怒っているのかと思ったけど、動揺しているようにも見えた。

 

「……突然すまない。体調はどうだ」


 彼は私の顔を見るなり、そんなことを聞いてきた。

 何を聞かれているのかと思ったけど、ああ、そうだった。

 レティ(この子)は病気で離宮へ引きこもってることになっているんだった。

 ちょっと答えにくく思っていると、王子はさっと片手を持ち上げた。

 それだけで室内の使用人たちはすっと下がっていく。便利な右手だわ。


「眠れていないのか?」


 促されるがままソファに腰を下ろした私に向かって、王子は言った。

 今の私は、昨日の夜更かしによる寝不足と全力で急いだせいで疲れ顔ではある。

 あのね、地味な女を装うってのもなかなか面倒くさいのよ。

 全くの別人になりきろうとしてるんだからね、こっちは。


 私はにこりと笑みを浮かべておいた。誤魔化そう。


「いえ、そのようなことは。……それより、どうかなさいましたか?」


 病気ということで離宮に引きこもってくれと言ってきたはずなのに。

 そもそも、特に公務もないのに会いに来るのはルール違反なのでは。

 ルールってほどでもないのかもしれないけど。

 

「ああ、そのことだが……」


 王子は気まずそうに視線を泳がせた。

 そして、テーブルに置かれている重厚な箱を手で示した。

 箱に入っていたのは、色とりどりのマカロンだった。


「これをどうかと。王都で評判の菓子だ」

「まあ……」


(お高そう!)


 私は色とりどりのマカロンに釘付けになった。

 この手の食べ物は職人がいないと食べられない。

 そう、魔法使いとはいえ、私では作り出すことのできないものだ。

 一度魔法で作ってはみたが、思っていたような味にはならなかった。

 手作りであることに秘訣があるのかも。

 

「離宮の暮らしに不便はないか? 欲しいものや必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ」

「えっ……」


 希少な実験や研究の材料がほしいです!!!


 なんて言えるはずもなく、私はまたマカロンを見た。何でもいいから早く食べたい。

 サクサク系かな、しっとり系かな。


「……」


 何も言わない私を、王子は真剣に見つめている。

 欲しいものか必要なものを言ってほしいだけでそんな真剣な――と思ったけど、ピンと来た。

 

(ははーん? さては離宮に追い遣った(レティ)への罪滅ぼしね?)


 なんて分かりやすい人なの。

 可愛いところあるじゃない。


 と思ったけど、構わないでほしい。

 私は本当に離宮で悠々自適に快適な研究実験ライフを続けたいです。

 放っておいてください。


「いえ、殿下。お気遣い痛み入ります」


 私はマカロンだけはしっかりと受け取って、しおらしく微笑んでみせた。

 そうか、と漏らした王子は、そのまま沈黙してしまった。


 無言。


 一言も話さないまま一分くらい過ぎちゃった。


「……」


 え、何これ何の時間なの。

 私は心底戸惑った。

 罪滅ぼしのマカロンは、ギリギリ理解できる。

 けど、この沈黙はいかに。用事が終わったら、さっさと帰ってほしいのに。


「――レティ。君の耳に入るかどうかは分からないが」


 王子が急に切り出した。


「昨晩のことだ。森で討伐された魔物が忽然と姿を消した」


 あ、私が持ち帰ったやつ?


「まぁ、おそろしい……」


 私は頑張って怖がっている風を装った。

 できてるかな。


「もし、この近辺で巨大な氷の塊や珍しい魔物の素材について何か聞いたら、私に教えてくれないか」


 地下室にあります。さっき隠してきました。


「え、ええ。分かりました。そ、そのようにしますわね」


 噛みそう。視線が泳いじゃった。

 絶対にしないけど報告しますの顔をした。

 できたかな。


「ああ、頼む。……君に言うべきか分からないが、その魔物は隣国の実験体である可能性が高い」

「え?」


 隣国の実験体?

 聞き捨てならない単語に、私は素の反応を返してしまった。


「……だから、どうか内密に。何かあれば、私に知らせてほしい」


 王子は慎重に言葉を選んでいる。

 そうか、それで魔物が姿を消したなんて言い方をしたのね。

 誰かが持ち去ったなんて言って、その誰かがこの近くにいるかも、なんて。

 普通の娘が聞いたら怯えてしまうだろうから。


(その気遣いができて、どうして偽装結婚するのよ)


 私は嘆息した。

 そんなに大切な証拠なら、あの時止めてくれたらいいのに。


「……殿下、顔色が優れませんわ。少しお休みになられては?」


 言ってみた。

 この場を立ち去ってほしい。早く氷を溶かして中を確認しないといけない。


「……話は以上だ」


 王子は私の手を取ることもせず、挨拶のキスもなく、外で待っていた従者を伴って帰っていった。


 接触しない。昼ですら。なかなか徹底している。

 適当に妻のご機嫌を取っていれば良いのに。


 王子を見送ったあと、私は猛ダッシュで地下の私室へ向かった。

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