8.昨日の今日で急展開!
一方その頃、北の離宮。地下室の私室にて。
私――魔法使いレヴィリアは困り果てていた。
「やっちゃったわ……」
目の前には、昨晩手に入れたばかりのブラッディ・ベア。
素材としては一級品。肝はもちろん、毛皮だって高く売れる。お金になる。
大きくて状態も良い。こんなに大きな個体はなかなか見ない。
爪も牙も加工すれば、魔法薬の材料にも道具にもできる。
しかし、冷静になって考えてみれば、これは動かぬ証拠でしかなかった。
(王子に見られちゃったのよねぇ……)
このブラッディ・ベアの素材が市場に出回れば、もちろん王室の調査が入るはず。
そして「誰がこれを倒したのか」という話になってしまうに違いない。
もしその話が王子の耳に入ったら?
それで、銀髪の魔法使いの捜索が始まったら?
最悪すぎる。
私の正体がバレて、この快適な離宮ライフとおさらば、ということになる――かもしれない。
かもしれない時点で最悪だった。
「……解体しよ」
私は苦渋の決断をした。
「骨の髄まで私の研究材料として使い切って、この世から消滅させなきゃ……」
お金にならないことは痛い。が、背に腹は代えられない。
今の生活を手放すわけにはいかないのだから。
完全犯罪もとい隠蔽工作を決意した私は、袖をまくり上げた。
そのとき。
「レティさま」
ノックのあと、扉の向こうから侍女の声がした。
そして、信じられない言葉を言い放つ。
「あの、殿下がお見えです」
(はー!?)
王宮でも滅多に会わなかったのに、どうしてわざわざ離宮に来たのか。
私は耳を疑ったが、向こうから来たのにこちらから会わないのは良くない。
最悪、部屋に入られてしまうかもしれない。
かもしれない、は嫌いなのに!
私は慌ててレティの姿へと変身して扉を開いた。
面倒臭いのは、着替えは侍女にやってもらわないといけないことだった。
どうして? 知らない。でも、王子妃が自分で着替えると、彼女たちの仕事を奪ったことになるらしい。
大急ぎでブラッディ・ベアに魔法をかけて隠したあと、侍女を室内に呼び寄せる。
そして、身支度を整えてもらい、地下室から飛び出した。




