7.王子の罪悪感
翌朝。王宮の執務室にて、アレンは死んだ魚のような目で机に向かっていた。
昨晩の寝不足ゆえ――ではない。
書類にサインをしながら溜め息ばかりつくアレン。
その様子に、側近の青年が少し気まずそうに口を開いた。
「――殿下、昨晩はまた『嘆きの森』へ行かれたそうで」
「ああ」
「……それで、その、……例の魔法使いには……」
会えなかったのではないか。
もう何度目かも分からない問いを口にしかけていた側近を一瞥したアレンは、溜め息混じりに答えた。
「会えた」
「……っおお! それは朗報ではありませんか!」
「だが、逃げられてしまった……」
アレンはペンを握り締め、ギリギリと歯噛みした。
会えた。確かに会えた。否定はされたが、あれは間違いなく彼女だった。
あの女性的な見た目で男のような声を出されてしまったが、きっと魔法だろう。
アレンの内心は複雑だった。
かりそめの花嫁であることを受け入れたとはいえ、妻にしたレティを離宮に遠ざけた。
その一方、ひたすら別の女性――レヴィリアを追いかけている。
これまではまるで幻想を追いかけているような、現実感のなさがあった。
しかし、実際に会ってしまったら、やはりどうしても焦がれているのだと感じてしまう。
そうなってくると、まるきりレティへの誠実さがないのだと突き付けられた気がした。
アレンは頭を抱えた。
何せレティは何も悪くない。むしろ巻き込んでしまっている。
王室付き魔法使いマリアの話によれば、レティはかりそめの花嫁になることを了承したという。
だが、本当にそうだろうか。もしかしたら、何か事情があって逆らえなかったのかもしれない。
早く目的を達したいがあまり、レティの事情を深く聞くことさえしなかった。
アレンは今更ながらにそのことを後悔していた。
「……はあ……馬車を」
「はっ。どちらへ」
「北の離宮だ」
立ち上がったアレンを見た側近は目を丸くした。
自ら遠ざけた妻がいる離宮に行くと言い出したからだ。
アレン自身が宣言した通り、彼にはレティを愛することはできない。
しかし、せめて人として、妻に対して誠意のある償いを見せなければならないと思い始めていた。




