4.魔法使いの夜遊び
準備が完了したと呼ばれて行ってみれば、思った以上に地下室は快適に清掃されていた。
元々は食糧庫だったと聞いたのに、野菜の痕跡どころか、カビ臭さもホコリっぽさもない。
清掃力すごい。さすが王宮勤めの人たち。
いや、私のせいで離宮勤めになっちゃったけど。
今の滞在人数では、他の場所に食糧を詰め込んで保管する程度で事足りる――らしい。
私がこの場所を取ってしまったから、そうやって説明されたのかもしれないけど。
もしかして食糧庫を取っちゃったら不便だったかな。そこは、ちょっと申し訳ない。
侍女たちを下がらせたあと、地下室の扉を厳重にロックした。
そして、遮音のために魔法をかけてから深く息を吐き出した。
「……あー、くたくたぁー」
誰がいつ来るか分からない王宮では四六時中維持しなければならなかったが、ここでは違う。
地味な王子妃レティとしての姿を保つための魔法を、久しぶりに解除した。
魔力の気配が一気に濃くなり、周囲に燐光が舞い散る。
それと同時に、私の身体は大きく形を変え始めた。
茶色の髪は、月光を吸い込んだような白銀色へ。
地味な茶色の瞳は、右目が赤、左目が金へ。
そして、レティとは違う胸元が一気に解放された。ちょ、コルセットキツすぎ。
「……はー、よし。生き返った」
私は指を弾いてドレスを脱ぎ捨ててから、鏡の前で伸びをした。
レティは地味で大人しい娘。魔力なんて嗅ぎつけられてはならない。
厳重に押さえつけていた魔力の循環が正常に戻ると、やっと一息つけた。
誰の仕業か知らないけど、この国では銀髪のオッドアイは強力な魔力を持つ証として知られてしまっている。
もし誰かに見られたら、一発アウトになってしまう。
人の目が多い王宮では万が一を考えてなかなか解放できなかったが、やはり本来の姿は落ち着く。
「さーてと、これでやっと素材集めができるわね」
鏡の前で指を鳴らして、本拠地から愛用のローブを手元に引き寄せた。
特殊素材をふんだんに使ったこのローブは、寒さも暑さも防げる上に水も火も通さない。
長い髪を結い上げてブーツを履いてローブを羽織れば、魔法使いレヴィリアが完成する。
今夜の目的は、王都近郊の森に出没するというブラッディ・ベア。
その肝は、若返りの秘薬の材料として高値で売れる。
毛皮だって高級品だ。
王子によって生活のすべては保証されているものの、研究用の素材を買い揃えるためにお金は必要。
「夜は会わないって言ってたし、お互い夜遊びは自由ってことで」
私は窓を開け、浮遊魔法を使いながらふわりと夜空へ踏み出した。
昼間は「冷遇された王子妃」、夜は「魔法使い」。
何の問題もない。
――はずだった。




