3.北の離宮と興奮
白すぎるほど白い結婚生活が始まってから一ヶ月。
とうとう訪れた北の離宮は、かつて国王の愛人だか妾だか側室だか、とにかくそういった女性達が住んでいたらしい。
「申し訳ございません、レティ様。こちらではこの者達が……」
案内してくれた老齢の侍従長が、申し訳なさそうに頭を下げる。
王子妃付きとなった数名の侍女、料理人、庭師など、離宮における最低限の使用人が紹介された。
こんなにも少ない人数で申し訳ない、ということらしかった。
加えて、使用人たちは誰しもが『厄介払いされた地味な花嫁』として私を憐れんでいる。
きっと『王子に愛されず、こんな僻地に追いやられて可哀想に』と思っているのだろう。
それは分かる。私も逆の立場で事情を知らなかったら、そう思うに違いない。
が。
今の私は使用人たちから向けられる憐憫の眼差しどころか、紹介にすら構っていられなかった。
(ああああっ、素晴らしい! このひと気のなさ! 適度な荒廃感!)
北の離宮は王都から馬車に揺られること三時間。
僻地でしかなく、気軽に訪れられる距離ではない。
だから、まずまず人が立ち寄ることなんてない。有り得ない。
そして、この通り。常駐している使用人も少ない。
つまり、誰にも邪魔されずに魔法の研究や実験もできる。やりたい放題!
「お品物のご用意にお時間をいただく場合も……」
まだ説明が続いていた。
私はやっと、侍従長に意識と視線を戻した。
王都が遠いのだから、物品の手配に時間がかかることは当然。
使用人が少ないのだから、王宮ほど一瞬で何もかも仕上がらないことは当然。
それを「不便をかけて申し訳ない」なんて思わなくてもいいのに、侍従長は心底申し訳なさそうにしている。
「気にしないでください。私は静かなのが好きなのです。……ところで地下で一番広い部屋は?」
「は、はあ。地下室で最も広い場所となりますと、かつての食糧庫がございます」
「窓はありませんね?」
「もちろんでございます」
「最っ高です。そこを私の私室にしてください」
「は、……は?」
侍従長は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
おっと、いけないいけない。
私は王子に見捨てられるほど「病弱で大人しい花嫁」だった。
えっと、地下室の理由理由……。
「――実は太陽の光が苦手でして。地下で静かに療養したく……」
「さ、左様でございますか」
よし、誤魔化せた。
誤魔化せた?
まあ、よしとしよう。
私はこうして、念願の引きこもり研究所もとい離宮の私室を手に入れた。




