2.王子側の事情と想い
レティが退室した後、一室には静寂が戻った。
静寂といっても、一方的にアレンが話をしてレティは返事をしていただけだ。
革張りの椅子に身体を沈めたアレンは深く、そして長い溜め息を吐き出した。
「……酷い話だ」
アレンは天井を仰いだ。
脳裏に焼き付いているのは、先ほどの少女――レティの姿だった。
地味な茶色の髪と瞳。華奢で折れそうなほど細い体躯。
守ってやらねばならない儚さはあるが、アレンの心を焦がすあの人とはあまりにもかけ離れていた。
「だが、仕方ない」
アレンは引き出しの奥から、大切にしまっていた小箱を取り出した。
十年以上前――幼い自分を救ってくれた魔法使いが落としていったリング。
調べたところ、大変希少性の高い素材が使われていた。
『――怪我はない?』
アレンの記憶に残っている彼女の姿は、まるで女神のように美しかった。
月明かりを溶かしたような長い銀髪。炎のように鮮やかな赤と、眩い金を宿ったオッドアイ。
女性らしい艶やかなスタイル、しなやかな身のこなし――魔法使いレヴィリア。
その日から、アレンの心は彼女に奪われたままだ。
あの圧倒的な美貌と強さを前にしては、他のどんな女性も霞んでしまう。
「……レヴィリア」
アレンはリングを握り締めながら窓の外へと視線を転じた。
あの日以降、どれだけ焦がられても求めても魔法使いレヴィリアには会えない。
幾度も幾度も王室付き魔法使いであるマリアに相談したが、魔法使い同士には制約が多いのだと取り合ってもらえなかった。
アレンはただただ、探し続けていた。
まさか、ついさっき「昼間だけの花嫁」として契約した娘が、魔法で姿を変えたレヴィリア本人だとは、夢にも思わずに。




