17.完全なる失敗
「入れ知恵したとしたら、あなたではありませんの?」
王子が離宮から立ち去ったあと、慌ててマリアを呼び出した。
渋々来てくれたマリアに良いお茶を差し出しつつ、私は祈るような気持ちになっていた。
「本当に私は全然全く託してないのよ!」
「わたくしは知りませんけれど、何とお伝えしましたの?」
「ええっと……」
私は昨晩のことを掻い摘んでマリアに説明した。
ブラッディ・ベアのことを隣国の実験体だと呼んでしまったことも。
うっかり魔法使いレヴィリアがレティを守っていると言ってしまったことも。
レティの願いを叶えるように、そして決して疑わないようにと言ったことも。
話の途中からだんだんとマリアの表情が変わっていく。
可哀想なものを見る目になってきた。
「……はぁあ」
深い溜め息を出されちゃった。
「無意識だとしたら、あなたはとんでもなくお馬鹿さんですわね」
「い、意識的だったら?」
「愚か者でしてよ」
マリアはぴしゃりと言い切った。
「よろしくて? 王子は、レヴィリアにお熱でしょう?」
「たぶん……」
「そのレヴィリアが、自分の妻を守っていると言ったわけでしょう?」
「はい」
「しかも、願いを叶えなさいと言ったわけでしょう?」
「でも、それはその、干渉しないでっていう」
「いい加減にしてほしいのですけれど」
マリアは呆れた顔と呆れた目で私を見た。
こんなにたっぷりと呆れが含まれているなんて、えげつない金額で賭けに負けたとき以来だ。
「干渉してほしくないのは、あなたの願いであってレティとしての願いではありませんわ」
「あ」
「レティはあくまで『おかざり妻』の立場を強いられた娘でしてよ」
「そうだった……」
私は頭を抱えた。
いや、あのときは緊張しちゃったし、何言えばいいのか分かんなくなっちゃったし。
「レヴィリアの加護を受けている娘が妻だと判明して、ないがしろにできる者はおりませんのよ」
「うう……そこを何とか……」
祈るように手を合わせた。
「無理ですわ」
マリアは素っ気ない。
分かってる。そもそも、魔法使いの加護を受けること自体が珍しい。忘れてたけど。
魔法使いの加護を受けるために、王室付き魔法使いとして王宮に招くほどだし。
王室付き魔法使いに、たっぷりのお金が渡されるのもそのためでもある。
魔法使いの魔法と知識、そして加護。それがあれば、最強というわけだ。
「あなた、自分で『妻に構ってあげてくださいまし』と言ったようなものでしてよ」
「逆なの逆! 構ってほしくないのよ!!」
「それはレヴィリアとしての願いと、レティとしての表向きの願いを間違えた代償ですわね」
「だって私はレヴィリアなんだもの!」
悔しさのあまり泣きそうになってしまった。
地味で薄幸そうな娘であるレティ。隠れ蓑にするはずだったのに、逆効果だったなんて。
「そして、わたくしは怒っておりますのよ」
「へ?」
顔を上げると、マリアがとびっきり優しく微笑んでいた。
あ、キレてるわコレ。
「レヴィリアとレティに繋がりがあると王子に知られてしまいましたわね」
「はい。……あ」
「レティを王子に紹介したのはわたくしですわ」
「あ、あああ、いや、えっとー」
「この流れでは、わたくしがレヴィリアと無関係だと言い張ること自体に無理が生じますわ」
「な、なんとかします……知らない振りしててください……」
私はそっと顔を伏せて、項垂れた形を取った。
こんな雪崩みたいに、芋づる式に、どんどんバレていくなんて思わなかった。
そのあたりは考えてなかった。
「どうするおつもりですの? まさか、マリアのことは知りませんでした、と仰いますの?」
「……や、まだノープランで……」
「実効性のない計画を立てようとしないでいただきたいものですわ」
ごもっともです、と私は顔を上げずに頷いた。
いやー、嘘ってむずかしいよね。どんどん広がっていくもんね。
「わたくしが紹介したあと、レティのことを知ったものとしていただけないと齟齬が生じますわ」
「……それでイケる?」
「だいぶ厳しいですけれど、どなたのせいでこのようなことになっておりますの?」
ごもっとも第二弾すぎて、ぐうの音も出なかった。




