13.重ね重ね厄介ごと
中庭にドンと置かれていたのは、確かに例の魔物――ブラッディ・ベアだった。
随分と立派な個体ではあるもののレヴィリアの話とは一致する。
マリアは呆れ半分な気持ちを押し殺しつつ、アレンの傍らから進み出た。
(……あら?)
氷から解放されて転がっているブラッディ・ベアからは、僅かに薬草の香りがしている。
魔法使いが手を清めるときに使う薬草の香りだ。
特に素材となる魔物に触れる場合に使うことが多い。
お茶会のときにレヴィリアから同じ匂いがしたかどうかは分からなかったが――
レヴィリアが化けている王子妃レティから同じ匂いがしたとしても、違和感はなかった。
(……まったくもう)
アレンが石鹸だと言っていた匂いはこれかと理解したマリアは溜め息を押し殺した。
添えられた便箋には一言だけ『お返しします』と書かれている。
名前はない。
既にアレンには目撃されているから、名乗る必要もない――ということだ。
事実、アレンはこの魔物を見て即座にレヴィリアのものだと思ったのだから間違いではない。
「魔法使いレヴィリアからの提供品であることは確認できましたわ」
マリアは呆れ半ばな気持ちを押し隠しながら言った。
遠巻きに見守っていた王宮関係者たちが、それぞれに安心したような表情を浮かべる。
「殿下。隣国との関与については、わたくしがお調べいたしますわ」
「ああ、頼む」
アレンは難しそうに眉を寄せたままでマリアを見た。
その眼差しが、この魔物が隣国の実験体かどうか――
だけを示すわけではないとマリアは知っている。
別に知りたくもなかったが、知ってしまっている。
魔法使いレヴィリアの贈り物から、レティと同じ香りがした。
それが何を示すのか、アレンは気にしているのだろう。
(……厄介ですわね)
マリアはゆっくりと息を吐き出した。
レヴィリアがレティであるとバレるよりも、レティが隣国のスパイだと思われかねない状況だ。
まさか魔法使いが地味な娘に化けて王子妃になっている、とは容易に想像できないはず。
そうなれば、やはりレティに疑いが向く可能性の方が高い。
(レティの身の潔白くらい、きっちり証明してから差し出してくださらないと……)
さて、どう言ったものかとマリアが思案していると、アレンが先に口を開いた。
「調べてくれないか、レティのことも」
マリアはもう一度、ゆっくりと息を吐いて、そして笑みを浮かべた。
うまく笑えているはずだ。そう思いながら、マリアは何とか口を開いた。
「ええ。お調べいたしますわ、殿下」
そう言うしかなかった。




