96.プログラム強制終了
私たちは初齢層に戻ると、それぞれの棟へ帰るということで解散した。
ユスティアは、先を行くルレウを追いかける形で、赤誠の前まで私を送ってくれた。
「ありがとうございました」
「アテラ、貸し一ね」
ユスティアが、ミュミテみたいなことを言い出す。
「致し方ありません。ツケておきます」
「ふふ……じゃあね」
……私、ユスティアの救助に関わったのだけれど。
治療したのはヤンクだし、ノーカウントか。
チーム部屋に戻ると、チターナ、メイ、ムイの履物が並んでいた。
「やあ、おかえり。もう中齢制覇したって聞いたよ。まじ半端ねぇな」
「遅かったね。もうシャワー浴びちゃったよ」
共通部屋では、ムイとメイが並んで座っている。
「ただいまです」
ルレウの姿はない。
たぶん女部屋だろう。
「アテラおかえりー。シャワー入っておいでー」
浴室からチターナの声がする。
私は浴室の前まで行った。
「チターナ、お願いがあります」
「いいよ。入ってきて?」
「入りません。……ルレウの機嫌を損ねてしまいました。
ぼくが調子に乗って、言い負かそうとしてしまったせいです」
「ふーん。じゃあ謝ったら?」
「もちろん謝るつもりです。ただ……チターナには、ルレウの気持ちに共感してほしいんです」
私は嘘をつきたくなかった。
ルレウの気持ちを聞かずに言い負かそうとしたことは反省している。
けれど、平和幻想について同意する気はない。
「いーよー」
「ありがとうございます」
「珍しいね。さすがの軍師アテラも、今日は疲れてた?」
「そうかもしれません。謙虚さが足りませんでした」
「そういう日もあるって。
…あ、それなら私にも謙虚に従順によろしくね?」
「考えておきます」
ルレウも、きっと疲れていたのだろう。
その後、交代でシャワーを浴び、
リーネのいない中、保存食を持ち寄って簡単な食事を済ませる。
昼とも夜ともつかない食事のあと、私はそのまま眠ってしまった。
……放送の音で目が覚める。
「残存する全ての棟が勝利条件を得たため、プログラムを終了いたします。
勝者は、初齢:赤誠、青月、黄昏、白刃、黒風。
終齢:赤誠、白刃。
残り時間は次のプログラムを前倒しで行います。
明日正午の放送をお待ちください」
…終わった。幸運にも。
目を開けると、ルレウが上からこちらを見下ろしていた。
頭の感触でわかる。膝枕だ。
「ルレウ、おはよう」
「アテラ、おはよう」
周囲を見ると共通部屋で、皆そろっている。
「お、起きたね。もうすぐ夜食だよ」
「食材を持ってくるだけで美味しい料理がいただけるの、本当にありがたいね」
メイとチターナの声。
いい匂いが漂ってくる。外はもう真っ暗だった。
「プログラム、終わっちゃいましたね」
私はそう言って、何事もなかったかのようにルレウから離れる。
「リーネたちの話だと、終齢は赤誠と白刃が組んで、残り三色を倒して終わったらしいよ。
あっちにも相当な使い手がいそうだね」
女帝は赤か白か。
リーネは知らなくても、ラニュヤなら知っていそうだ。
その夜は宴会になった。
私は普段なら早く寝るのだけれど、仮眠してしまったせいで引き留められる。
「初齢の大勝利を祝ってー!」
「かんぱーい!」
チターナの音頭で乾杯。
テーブルには、ローストビーフのようなもの、カルパッチョ、温かいスープ、パスタらしき料理。
リーネ様様である。
私は青月棟の茶葉で淹れたお茶を飲む。これが本当に美味しい。
「さあさあ、三棟も落とした『最強の剣』の雄姿を語ってもらおうじゃないか」
留守番だったムイが、うずうずしている。
ルレウがこちらを見て、静かに頷く。
まだ何も話していないようだ。
「敵は強豪の中齢。
ぼくはルレウの背にまたがり、疾風迅雷のごとく敵を殲滅、全制圧して覇を唱えました」
「おおー、かっけー」
まずはムイの欲しそうな言葉を並べる。
……すると、チターナの冷ややかな視線が刺さった。
「すみません、調子に乗りました。
最初の中齢赤誠は、運よく主力が奇襲に出て留守で、強敵は教官のみ。
ユスティアとレーテが教官相手にも引けを取らず、
残りをルレウのチャームで無力化し、その手で『種族の根源』を破壊しました」
「最初は運が良かったのね」
チターナが端的にまとめる。
「あとでわかったけど、赤誠にも相当なデュナミス使いがいたみたい。
-208と-214。
白刃のアーズや、黒風のバズラスと並ぶ強敵だったと思う」
リーネがそう言った。
……そのスコアと戦っていたら、初日で五棟制覇なんて無理だった。
「持ってるね、私たち」
メイがそう言い、皆が笑顔になる。
「……次は青月。
ここも奇襲を知らないまま戦いが始まりました。
レーテが壁破壊に味を占めて、半数以上と戦わずに大広間へ侵入。
ただ、主力が内部にいて、教官二人相手ではさすがに押されました」
「一度は私たちも無力化されましたが、
相手が平和主義すぎたおかげで反撃できました。
最後は、レーテの再生肉片を『種族の根源』にぶつけて破壊です。
特にセンシアという方が……甘々で、油断していましたね」
「センシアは私の姉ね」
チターナが言う。
「お姉ちゃんに、アテラがそう言ってたって伝えておくね」
「え……あ、はい……」
「お姉ちゃん、私よりスキンシップ派だから、アテラ後悔するよー」
……。




