93.王の中の王
「奇遇だな。奥の手はこちらも同じだ」
レーテを掴むセシザの背から、十六枚の白く透き通った翼が広がる。
その肌には、輝く黄色の紋様がところどころ刻まれていた。
同じ奥の手……。
あれは――天族。
まさか、セシザも……。
「後学のために教えてやろう。
これが天族の特性だ。さて――どちらが“王の中の王”か、試してみるか」
その間に、ヤンクはユスティアの治療を始めている。
私は、王の種族同士の対峙から目を離せなかった。
頭を振りほどいたレーテが再び攻勢に出る。
体術、爪、瞬間的に生えた尻尾、さらには周囲に浮遊する武器まで。
使えるものすべてを駆使し、セシザに猛攻を仕掛ける。
私には、ほとんど視認できないほどの連撃。
だが――セシザはそれを軽くいなし、避けているように見えた。
さらに、周囲の武器を自在に操り、反撃に転じる。
操られた武器は、まるで生き物のように軌道を変え、
各々が工夫するかのようにレーテを追尾し、精密な攻撃を浴びせていく。
先ほどまで圧倒していたはずのレーテが、次第に押されていく。
瀕死の状態である以上、レーテは不利だ。
内臓の損傷が、動きにどれほど影響しているのか……。
もはや、止められないのか。
本来なら致命傷となる攻撃を何度も受けながら、
レーテは再生を繰り返し、必死に耐えている。
私は戦況に見入るあまり、次の一手を考えていなかった。
レーテは死なない。
そう信じて、考えろ。
次にできることは……。
「あー……やりやがった」
唐突に、セシザがそう呟いた。
ボロボロのレーテを蹴り飛ばし、先ほど倒したアーズの方へ向かう。
「アーズ、終わりだ。帰るぞ」
「……いいところだったのになあ」
破壊された壁に大の字で倒れていたアーズが、起き上がる。
――万策尽きていた。
あと一押しで、セシザの完全勝利だったはずだ。
これは……刀が、やってくれたのか?
「小僧。今回は俺の負けだ。
だが次のプログラムは、覚えておけ」
気づけば、セシザは目の前に立っていた。
十六枚の翼と黄色の紋様を纏うその姿は、神々しく、
発せられる声は低く、圧倒的な威圧感を伴っている。
思わず、身震いした。
そして――アーズが気絶していないことにも驚く。
二人は早々に立ち去っていった。
人を殺すことを厭わない一方で、
プログラムのルールは守るつもりらしい。
何にせよ……助かった。
私は、戦闘不能になった仲間たちを治療して回る。
「ヤンク、ユスティアの状態は?」
「対処が早かったから問題ないよ。よかった」
ユスティアは、攻撃を避ける天性のセンスを持っている。
それでも、セシザの攻撃は当たり、
彼女を徹底的に打ち負かした。
「ユスティア、大丈夫そうですか。
いつもなら避けられた攻撃を、私のせいで……申し訳ありません」
私は、はっきりと謝るべきだと思った。
命を危険にさらしたのだから当然だ。
だが、主従リンクは発動しない。
ポリコレスコア差の問題だろう。
「……違うよ。これは実力差だ。
どれだけ先読みしても、身体が追いつかない。
あいつ、シャバトゥラさんくらい強いかも」
先読み――そんなデュナミスまで。
「先読みのデュナミス……恐ろしいですね」
「うん。雪猫団でも次期頭領って言われてた。
稽古もつけてもらって、干渉属を遮断するデュナミスもコピーしたけど……
私自身が弱かった」
干渉属が効かない。
だからユスティアは、これまで一度も無力化されなかったのだ。
王の種族、猫族。
彼女が戦闘狂なのも、納得がいく。
ハクレイは、ユスティアがこの強力なカードを持っていることを知っていた。
そのうえで、暗号を私にしか伝えなかった――つまり、指揮を任せるつもりだった。
レーテも同じだ。
初齢層最強クラスの二人を預けるほど、
どれだけ私を信用していたのか。
それでも……私は、セシザに勝てなかった。
……嘆いても仕方ない。切り替えよう。
「回復が済んだら、念のため白刃へ向かいましょう。
刀と合流して、ここの『種族の根源』をどうするか話し合います」
「ほーい」
「あと少しだな」
疲弊した声が返ってくる。
黄昏棟の者たちは、一人残らず精神をやられ、うずくまっている。
精神状態は危険域だろう。だが、今は解除できない。
――できる限り安全な形で、
黄昏棟の『種族の根源』を破壊してもらう。
それが、次にすべきことだ。




