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92.奥の手

ミュミテがしがみついた時、セシザもまた、ミュミテのように分身した。

「悪いな。」

「ええ~」

そして1秒とたたずに分裂したセシザの一人がすぐに消えて、ミュミテはしがみつき先を失い落下する。


分身はこのような使い方があるのか…回避能力としても強すぎる…。

状況打破のために試せることの2つは、これで決定打にはならなかった。

あと残すは奥の手1つ。冷静になれ私。



「さあ、ここまでの私達はどうでしたか。」

私はセシザにそう言うと、メモを負傷しているユスティアに渡す。


「そうだな、中の上といったところだ。評価しよう。早く次をやりたまえ。」

セシザはそういいながら私の前に剣の雨を降らせてくる。

この人はこちらの時間軸を無視しているかのように、いつも次の行動に移るようだ。

おかげで時間稼ぎが全くできないよ…。



「…こっちはやっとおわったぞアル。やっとだ。」

大広間の破壊された入口から声がした。それは触れるタイプの白刃のものだった。

とても助かるタイミングに帰ってきてくれた。


「アーズ、まだこちらは奥の手があるらしい。」

「ふーん、その怪我…お前がここまで時間をかけるということは…強いのか?」

「さあな。」

会話をする2人。攻撃の手は一時止まる。

今のうちに、ユスティア、頼む…。


「まあ、おわらせよう…」

「ぜ。」

その言葉を帯びた触れるタイプの白刃が、一瞬でルレウに近づき触れた。

触れられたルレウは一瞬無表情となった。


「う、うう…」

そして、すぐに震えだして視線は下を向けて崩れ落ちる。

これが触れて発動するデュナミス…。ルレウが瞬く間に戦闘不能状態にされた。

ユスティア早く…。


「もう少し見たい気もするがそうだな。」

セシザは全ての武器を巻き上げて巨大な逆向き扇子をこちらにさすように整列させる。


「さあ、ギャルもにーちゃんもみんなおねんねだ。」

触れる白刃の者は、次はミュミテ本体を的確に触れた。そのままヤンクも。

そして、いとも簡単に二人はうずくまっていく。


敗色濃い空気が流れ出す。だが慌てちゃだめだ。

…私はただただ立って待つしかない。


セシザは扇子の右端からから順に、ミサイルを打ち出すかのようにして武器を射出すると、私の周囲串刺しにした。


「おっとアル、おこちゃまはちょっと聞きたいことがあるからあとで。」

「そうなのか。」

アーズにそう答えるとセシザは、ユスティアとレーテのいるところへ残りの扇子を使いめった刺しにする。


「ぐ、ぶ…」

ユスティアもあまりの武器の多さに避けることも切り払うことも叶わず、胴を串刺しにされた。

まずい、あれは内臓あたりを貫通している。



「セシザ!殺したらただでは済まないですよ!」

私はそう声を上げてセシザを牽制した。


「あー、お前、俺とやって死なないと思ってたのか。」


どういうことだ。

セシザは殺してもよいと思ってやっているのか。


「セシザだって。名前ばれてんよ。」

アーズはそう言ってユスティアに触れる。


「あ…ああ…あああ」

ユスティアは物理的な痛みも相まって、震えと涙の中全身脱力しながらうつ伏せに倒れた。



これは、もう間に合わなかったか…。

それはいいとしても、セシザは私達を本当に殺す気なのか…。


そう考えていると、ユスティアの隣にいたアーズを、赤い者が吹き飛ばした。

吹き飛ぶんだ白刃は大広間の壁に突き刺さる。



「…よくもやってくれたね。」

赤い者、その声の主はレーテだった。

鱗だった身体は赤く染めあがり、薄明るく光を発している。



「ぐ、いってえ…。」

そう言って壁から戻ってこようとするアーズ。


レーテはアーズにさらに追い打ちをかける。

防御したであろうアーズは周囲の壁の粉砕と共に一撃を受けて倒れた。


それは今までの攻撃とは一線を画す、凄まじい威力だった。


レーテの速さはもはやまともに目視できない領域に達しており、辛うじて見えているであろう白刃ですら何もできないようだった。


「これが君臨期2500年を超える王の種族…。」

私はつい声が出てしまった。

マジョリティ種族の中でも特に長く王の種族でいつづける竜王剛竜。そしてその特性の発動条件は瀕死の怪我。

再生能力持ちのレーテは、これを使いこなしゲームチェンジャーになりえるということを私は知っていた。


「ほお…これが奥の手か。」

セシザはそういいながら自らの姿を増やす。


「次はお前だよ」

そう言うレーテの後ろには倒れたままのアーズがいる。動く気配はない。


「アーズ、お前もまだまだだな。」

セシザはそういいながら分身が分身デュナミスを使い、10秒もしないうちに100人は超える軍勢となった。

…こいつは何をとっても規格外だ。


まるでまだ負けていないような口ぶりのセシザは、軍勢をレーテに差し向ける。

向こうも何か手があるというのか。


こちらはもうこれ以上の手はないし、ユスティアの怪我が危ない…。

私はヤンクの方へ早足で歩き、横目で状況を見守る。


セシザの軍勢は、レーテの猛攻により次々と叩き潰されていく。

レーテの攻撃の速さと重さに、重力のような力ももはや通用していないようだ。


さらにレーテはセシザ本体を探すかのように中央部を貫き、無作為に攻撃を加えて行った。


「久々に楽しいな。お前らがここまでやってくれるとは思わなかったよ。」

余裕ぶりながらも無数の倒れたセシザが周囲に浮いており、残数は20人程度となっている。


もはや分身デュナミスを使う力も残っていないはずだ。

勝って…助かりたい…。


私はヤンクの隣に来ると、変身デュナミスで震えを解除して声をかける。

「ヤンク、ユスティアが危ないです。ヤンク。」

「うぁ…ん、ああ、…ええ!!」

正気に戻ったヤンクは、私が無理矢理に顔を向かせた先にいるユスティアをみて焦りだす。

そして、そちらへ一緒に走りだす。


走りながら上方をみるとセシザは残り3体、そしてレーテがセシザを貫く。

そのままレーテが横一線に腕を振り終わるかのように見えた時、最後1人のセシザはレーテの頭を鷲づかみして、レーテは止まった。


あれ、どういうこと…。

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