88.刀の一撃
「もう、おーまえと話すことはない。さーれ」
「バズラスさん、あなたはデュナメイオンに囚われて大局を見失っています。
アルドゥークを止めなければ、多くの不幸が生まれるでしょう」
「うーるさいな。もうしゃべるーな」
そう言いながら、バズラスは結局ずっと相手をしてくれている。
「代表の方に繋いでください。危機的状況を伝えねばなりません」
「おーまえ、言ってることが矛盾しているぞ。
制覇なんて、そもそも不幸を生むじゃないーか」
「いいえ。制覇を目指すことで正当な序列が生まれ、 人は自分の限界を理解できます。
自分を知らぬ者ほど不幸になるのです。
そして制覇は戦争ではありません。平和的な解決です」
「へーりくつは、聞きあきーた」
そもそも信用されていない。論理は通じない。
「仲間のレーテが中で捕らえられています。
青髪の女性です。通してもらえませんか」
「まーだだ。お前たちが危害を加えないと確信できるまで解放できなーい」
「……危害の定義から話し合う必要がありそうですね」
時間稼ぎとはいえ、こういう不毛な会話は好きじゃない。
もう五分は経っているはずだが、『最強の刀』の気配がない。 ハクレイの話では、すでに到着している頃のはずなのに。
そう思った瞬間、緩やかに脈動していた植物の壁が静止し、再生が止まった。
「ユスティア、今なら掘れますか」
「うん……あ、簡単だ。どんどんいける」
壁は、掘るというより触れると崩れる感触だった。
「あーよかった。一生この中かと思ったよ」
隣の壁から、動けなかったはずのレーテが自力で這い出てきた。
ユスティアは何も言わず、そのまま壁を貫通。 再び大広間が姿を現す。
中を見ると、外周には小集団がいくつもある。黒風のチームだろう。
中央寄り、光の差す場所には、トサカ気味の赤派手髪や瑠璃色の片おさげ――見覚えのある顔が揃っている。
すぐ横には、虹色に輝く水溜まりが集まっており、『種族の根源』はすでに破壊されていたようだ。
拍子抜けだが、助かった。
天井を見ると大穴が空いている。
「ミュミテ、分裂をしまって」
「うーぃ」
脱力した返事。
そのときシュゼがこちらに気づき、チターナに伝える。
「おーい」
チターナが手を振った。私も振り返す。
「暴走チームさん、今回は待っててくれたね」
軽やかに跳ねて、メイが話しかけてくる。
「正直、植物の方が堅牢で手詰まりでした。助かりました」
「そうだったのか。シュゼがね、なかなかの策を思いついたんだよ」
「それは興味ありますね」
そう言うと、メイは嬉しそうにこちらを見る。 まさかメイの作戦をこうして聞く日が来るとは。
「引斥属が複数いれば、空を飛べるって分かったんだ。
互いに引き合ってバランスを取りながら浮上して、天井まで上がる。
そこで四人に透明をかけて落下。
たまたまガラス化された屋根部分があって、チターナが破壊。
私とシュゼが同時攻撃して、私は教官に止められたけど、 シュゼが『種族の根源』を壊した」
…作戦立案はシュゼか。
暗号が一切来なかったのも納得だ。
ハクレイは細部を放任している。
それにしても、天井は150m。 ドーム状バリアでも張られているのだろうか。
「アテラー、バズラスさんが呼んでるよー」
……顔を見られたくなかったが、好奇心が勝った。
チターナの方へ向かう。 シュゼ、ニェラル、チターナ、そして黒風の三人が向かい合っていた。
「おまえがアテラか。 こんな子が中齢制覇を唱え、皆が動いているというのか……」
バズラスは白髪の高身長の紳士風。 中齢層の年齢上限ぎりぎりに見える、滑舌の良いおっさんだった。
「私ではありません。ハクレイです」
盟主がハクレイなのをいいことに、全力で誤魔化す。
「ふふ、もう遅いよ。 アテラが考えたって、お姉ちゃんに全部言ったからね」
チターナ……本当にやめてほしい。
「チターナ、この虹の水たまりで顔を洗って」
「う……やってくれるねえ」
主従リンク。 チターナの髪と服が虹色に反射する。
「センシアは中齢の有名人です。 彼女の言葉は信用され、すぐ広まります。 非力な私は、制覇を唱える危険人物として次から動けなくなる」
「お姉ちゃんは味方だよ」
……何を根拠に。
「それより次いこ、次。あーだりー」
シュゼが吐き捨てる。
ああ、こいつ嫌いランキング二位だった。
「シュゼ、戦後処理がまだ終わってない。少し待って」
「チッ」
盛大な舌打ち。 教養というのは、本当に恐ろしい。




