87.交渉
「何だあれ、今……喋ったよね?」
ヤンクが言った。
「きも」
「植物でしょうか。デュナミス由来ですね」
だが、それ以上を説明できる者はいない。
立ち止まった私たちを追い越し、ミュミテの分身たちは前進を続けていく。
「あのきもいのイヤー。たおして」
「接近前に対処できればいいのですが……」
操作しきれない数のミュミテ軍が、どんどん植物の壁へ近づいていく。
「あの植物が攻撃してきたら破壊を試みましょう。 無害なら、別の壁を壊すまでです」
「うーん、弱そうだけどねぇ」
レーテは、どちらにせよ壊したくて仕方がない様子だ。
希少デュナミスは、生成物が大きいほど消費が重い例も多い。
むしろ壊さず、使わせ続ける方が有効かもしれない。
やがてミュミテが、植物壁の目と鼻の先まで到達した。
「よーお。センシア?……じゃないみたいだーな」
植物が、ミュミテに話しかけた。
「ねえ、きもいんだけど、やってくれん?」
その一言で、ユスティアが即座に動く。
植物の壁は引きちぎられ、再び穴が空いた。
「みなさん、もう少し前進して様子を見ましょう」
私は声をかける。
だが、ミュミテの分身たちは勝手に棟内へ入り込み、すぐに詰まった。
「うああ、これきもいよー」
「きーもいとか言ったらいかーんよ!」
再生する植物の壁と顔。
何体かの分身は、内部に閉じ込められてしまったらしい。
「これは、破壊が再生を上回るしかないな」
レーテが言う。
「致し方ありません。お願いします」
私がそう告げると、二人は凄まじい勢いで壁を破壊し始めた。
――このレベルが五人いれば、五分で棟が崩れるだろう。
ペナルティは……たぶん、ない。
「あぁっ!」
奥の方からレーテの声。
植物の壁に阻まれ、様子が見えない。
「だめだ、これ!」
ユスティアは手前で破壊と再生を均衡させている。
まずい。
ユスティアが取り込まれたら終わりだ。
「私たちも手伝いましょう。 ルレウ、全員に増強を」
ルレウは、自分とヤンク、そしてミュミテ一人ひとりに増強をかける。
「ミュミテ、数を絞ってください。 侵入は諦めて、手前を抑えましょう」
「えー」
文句を言いながらも、ミュミテは数を減らした。
時間稼ぎが最善だ。
だが、会話で突破できる可能性もある。
「植物さん。お名前を教えてください」
「アテラちゃんなに言ってんの、ばか?」
ミュミテの声は無視する。
「私はアッティラ・ラシュターナです。 あなたのお名前を伺えますか?」
礼儀は、爆弾を抱えていても通じるはずだ。
「あーあ?バズラス・ラザグトリアだ。 戦争しに来たんだーろ?」
「いいえ。中齢層を制覇しに来ただけです」
「制覇は戦争だーろ?」
「いいえ。スポーツやゲームで打ち負かす、という意味です。 ところでバズラスさんは、植物として生きているのですか?」
「ちーがう。俺は四半虫だ。これはデュナミすーだ」
「素晴らしいデュナミスですね。 これだけの生成物なら、認定企業からのオファーも――」
「うさんくさい。しゃべりたくなーい」
だめか。
「今、中齢層はセシザという者により危機に瀕しています。 ご存じですか? 女をたぶらかし生活を壊す存在です」
「きーたことない。適当言うなー」
「偽名でしょう。美男子で、女たらしの――」
「あー、白刃のアルドゥークか」
……セシザがアルドゥーク…重要情報だ。
「そのアルドゥークは、最優を狙っていません。 女性参加者のヒモになるのが目的です。 バズラスさんは大丈夫ですか?」
「俺は問題なーい」
「では黒風の皆に伝えてください」
「信じてなーい」
まあ、当然だ。
「青月のセンシアさんは、黒風との同盟をとても大事にしていました。 私の友人に、彼女の妹がいます」
「そーか。それなら信用できるかもなー」
センシア、人気あるな。
「チターナといいます。快活で人情のある方です。 彼女は私の仲間なので、この棟の『種族の根源』を壊しに来るかもしれません」
「……何が言いたいーんだ」
「私たちは中齢層を制覇したい。 そして、終齢層もです」
正直に、誠実に、そして大胆に。
「ねえアテラ、いつまで続けるの?」
「頭イってんよね」
ルレウとミュミテが言う。
……刀が来るまでだよ。
正直、私たちはこの植物一体すら突破できていないのだから。




