86.白兵戦
棟前5kmといったあたりまできた。
この距離は、強い観測デュナミスならば確実に気取られる位置ではある。
「ミュミテ、分裂をお願いします。
60名とは言わず、100名くらいまでお願いします。」
「えー、それじゃ全然操作できないんだけど。」
「前進指示だけ出せますか。ハリボテで十分です。」
「はぁ、めんど。」
返事はため息で返してくる。
敬語なんて夢のまた夢。そもそも態度がどうしようもないのだから。
「ユスティア、今回は敵勢撃破に全力を尽くします。
なるべく早く全滅させて敵主力を引き出すのが好手です。」
「ほーい。」
「レーテ、遠隔で棟の壁を破壊できますか。」
「直接破壊する方が好きだな僕は。」
「お任せします。安全な行動の範囲でお願いします。」
「ルレウ、今回はレーテを無力化されないことだけを集中しましょう。
チャームは交戦時には控えめでどうでしょう。」
「うん、あと今度はアテラ落とさないようにしなきゃね。」
何とか一通り指示は通った。
あとは壁の破壊をどう成功させるか。
数分進むと、黒風らしき人達が見えた。
おそらく遊撃隊と思われる。7~8名程度。
「あの方達を無力化しましょう。やり方は…」
目的を伝えて、その後に方法を伝えようとしていたが、方法を伝える前に全身を金に染めたユスティアが凄まじい勢いで遊撃隊を倒す。
「ユスティアは本当に強いなー。デュナトスTier3の教官2人相手にできるからなあ。」
羨ましそうなレーテ。
確かにレーテは再生能力こそ恐ろしい可能性を秘めているが、今の段階、純粋な戦闘力はユスティアのほうが高そうだ。
倒した敵はチャームをかける。
チャーム下にある者は基本的にルレウに不利なことをしないそうだから、他の救援が来ない限りは実質無力化されたと言ってよい。
全部遊撃隊としてこれば楽なんだけれど。
だんだんミュミテの分裂兵が増えてきた。
前進するミュミテ軍は私のデュナミスによってフードをかぶったセンシアになっている。
黒風からすれば、同盟関係である青月の有名人だ。
僅かでも欺くことができれば戦況は安定する。
棟がうっすら見えてくる。
また黒風の遊撃隊だ。今度は15名以上はいる。
「ユスティア、できる限りミュミテの分身に接近させてから殲滅しましょう。」
やはり干渉属などによる無力化は脅威だ。慎重に行きたい。
黒風は流石に多勢となった我々には近づいて来ない。
しかしミュミテ軍は前進を続ける。
「相手が後ずさりをしたら攻撃なんてどうですか。」
「いいね、それ。」
ユスティアに同意をもらう。
双方間200mくらいと思う。豆粒大の相手が引き下がる様子が見えた。
その瞬間にユスティアは消える。
19名いた黒風は鮮やかにもなぎ倒された。
これだけの相手をやっていたら、厄介な希少種、例えばチターナの反射のような相手がいてもおかしくはない。
なのにあまりに鮮やかに撃破している。
「倒れたフリからの不意打ちには気を付けてください。」
私達は接近すると、ルレウが一人一人チャームを決めていく。
不安は杞憂で、簡単に無力化できてしまった。
さらに先に15名程、また黒風見える。
私たちは同様の手法で撃破する。
さらに先に15名程、また撃破する。あまりに円滑すぎる。
そして無防備な棟が露わとなった。
なんと正面入り口ですら無人となっている状況であった。
「相手は籠城戦をやるみたいです。取り急ぎ大広間までの直線を破壊しましょう。
そうしたら戻ってこれますか。」
私がそう言うと、返事が聞こえるか聞こえないかくらいでユスティアとレーテが突撃する。
ゴオォォォオン!ゴオォォォオン!ゴオォォォオン!…
「大広間、見えたよ。」
「物凄い人数いるね、どうする?」
すぐに二人は戻ってきてそう言った。
ここまで気持ち悪いくらいの順調。
私は少し怖くなって、その感覚に従うことにした。
「大広間までの直線距離が最も近い面に移動しましょう。」
「えーいかないのー?」
不満な様子のユスティア。前回の戦闘を思い出してほしい。
「せめてミュミテの分身で様子見をしたいです。」
「いっとくけど分身でも痛いからね?ぼこられたら帰るからね?」
ミュミテの分身は感覚があるのか。デュナミスも効くから、ミュミテ全体が敵対する恐れもある。
100体まで増やして戦力外にして心底よかったと思う。
ここまで遅刻して活躍せずにいざとなったら不本意とはいえ裏切りなんてしようものなら私の気持ちが収まらないからだ。
正面が西だとすると、南面に私達は行き、そしてまたユスティアとレーテが壁を破壊する。
二人は今度も一瞬で、無傷のまま戻ってきた。
こんな簡単なら、4面破壊した方が敵の正面を分散できてよいかもしれない。
「あ!」
そのように考え巡らせていると、ルレウが声をあげる。
「見て、前。」
破壊した最奥の壁になにやら植物のようなものがうごめいてくる。
植物は壁を塞ぎながらこちらに向かっており、最前部の壁が埋まったとき、顔のような形状を形成する。
「やーるねえ!おまえたち!」
そのように植物がしゃべった。
私達は唖然として、遠くからそれをみていた。




