82.奇襲継続
辺り一面に破片が散らばっている。
赤誠の『種族の根源』は、ガラスのように鋭く脆く、そして光り輝いていた。
七色に砕け散ったその姿は、今の結末とは裏腹に、ひどく美しい。
「あーあ」
教官の声が響く。
ユスティアとレーテは手を止め、こちらへ歩いてきた。
「壊しちゃってよかったの?」
そう言ったのはユスティアだった。
本来、破壊は『最強の刀』の役割だ。
意外にも、ユスティアは作戦をきちんと覚えている。
とはいえ、スピード最優先の現状で、ハクレイが『最強の剣』による破壊を咎めるとは思えない。
「問題ありません。それより次へ向かいましょう。多分、青月です」
「青月にも、僕みたいにしなやかで美しい女がいるといいな」
レーテがそう言う。
彼にとっては、筋肉を強く、しなやかに鍛えることこそが“美”なのだろう。
ハクレイの考え方は、私に近い。
『最強の脳』がハクレイなら、終齢層に触れられる前に、その接続点である中齢層――特に黒風棟を落としたいはずだ。
青月はその経路上にあり、さらに中齢の黒風と青月は同盟関係にある。
ハクレイであれば、次の破壊先を青月に定める。
「いやあ、君たちやるねえ。初齢でしょ?」
「初齢……マジかよ……」
生き残った教官と、干渉属の赤誠が会話している。
「ええ。事情があって中齢に侵攻しています。
教官の方、恐縮ですが、怪我人の手当てをお願いできますか」
「ああ、もともとそれも任務だからね」
「ありがとうございます。
ところで、セシザという人をご存じですか? オレオレ系の」
ふと思い出し、聞いてみる。
私にとっては、このプログラムの“サブクエスト”のようなものだ。
進捗を示して、勝利から最も遠い白刃の関心を引いておきたい。
「そういう情報は、教官からは言えないな」
私は視線を、赤誠の干渉属へ向ける。
「うーん、聞いたことあるような、ないような。
センシアならいたけど、女だな」
「そうですか。有力な情報をいただけたら、食料を運ぶことを約束します」
「なあ、ちっこいのに勇敢だね。名前、聞いていい?」
「アッティラ・ラシュターナ。アテラです。
情報、お待ちしています。それでは」
今は急ぐべきだ。
私はそのまま棟を後にする。
1日目に棟を落とされた側は、食料難に陥る。
その恨みを買い、次のプログラムで報復されるのは避けたいが…。
「あ、二人来てるね」
ルレウの声で入口を見ると、ミュミテとヤンクが立っていた。
「ミュミテ、ヤンク。青月へ行きましょう。
今なら、まだ奇襲が有効だと思います」
『種族の根源』を破壊された場合、攻めに出ていた者たちはどうなるのか。
転送されてくる様子もない。
「あー、また歩くのイヤー」
脚に増強をかけていても、ミュミテはこの調子だ。
変身デュナミスとの相殺を避けるため、増強できない私と交代してほしいくらいだ。
「アテラ、ほい」
ルレウがしゃがみ、背中を向ける。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私はおぶってもらうしかない。
僭越ながら言えば、ムイ、メイ、ルレウの中では、ルレウの背中が一番柔らかく、長距離移動に向いている。
ルレウを先頭に出発する。
ミュミテは諦めたように、先行し始めた。
「ヤンク、手当は教官がやるからいいよ。はやく行こ」
後方でユスティアが言っている。
再び青月棟へ向かう強行軍。
見通しの良い草原が続き、初齢の時と同じ地形だ。
やがて、暗号が届く。
「『最強の刀』からの報告だ。
中齢赤誠の『種族の根源』は破壊された。
昼夜交代の教官だが、攻撃を受けると2名体制で応戦するため、想定より難航するだろう。
破壊対象を選ぶ余裕がない場合、即時破壊を許可する」
ハクレイの口ぶりから、今回の破壊は命令違反には問われていない。
チターナやメイが、うまく説明してくれたのかもしれない。
『最強の刀』は、私たちと違って『最強の脳』へ直接報告できる者がいる。
その点は少し羨ましい。
「引き続き、剣と刀は青月へ侵攻せよ。
まだ奇襲は成立する。迅速に動け」
ハクレイからの指示は簡潔で、自由度が高い。
この内容なら、改めて共有する必要もないだろう。
続けて、ラニュヤの暗号化された声が届く。
「敵・中齢青月の情報よ。
棟内に約70名、入口に30名。
大広間というより、チーム部屋に分散している配置みたい。以上」
平和主義の中齢青月らしく、ほとんどが棟周辺に残っている。
物量的には不利だが、分散しているなら無理に殲滅せず、『種族の根源』狙いが有効だ。
「みなさん、青月は約100名が棟内に残っています。
ただし分散配置なので、赤誠と同様、壁破壊が有効かもしれません」
「僕の壁破壊、役に立ったね。任せて」
壁破壊の前科があるのは、間違いなくレーテだ。
悪気のないその顔を見て、
私は『自由とは、可能性の塊なんだ』と思った。




