80.ユスティアラッシュ
ユスティアが消えるのとほぼ同時に、レーテも遥か前方へ消えた。
「速すぎる……まだ4km近くあるのに……」
きっと二人の強さは本物。
しかし、精神作用系のデュナミスを何度も重ねられたら無力化される可能性がある。
中齢層ならば尚更。急がないと。
後方からミュミテの声。
「はしるのだるい」
明らかに遅い。
本当は先行して、分裂で撹乱してほしかった。
「ミュミテ、何とかついてきてください。
あなたの撹乱がないと勝てません」
「はいはいはーい、いってらー」
ミュミテはさらにペースを落とす。
これは先に行くしかない。
「ルレウ、先行をお願いします。できる限り急いでください」
「いいの?」
「はい。前方が干渉属でやられる前に追いつかないと」
「そうだね。『紫の目』も何分もつかわからないしね」
私とルレウはミュミテを置いて走る。ヤンクはついてきている。
草原の小さな丘を越える。
おおよそ2km地点。ここから上りで、あと2〜3分ほど。
「ルレウ、到着したら近場の“動ける相手”にチャームを試してください。
ミュミテが来て分裂するまで、ハチの巣にされる可能性もあります」
「うん。私がやられたらアテラも危ないもんね」
先行している怪物二人が暴れているなら、子を背負った虫族の女の子は脅威に見えないかもしれない。
相手は『紫の目』と『怪力』に意識が向くはずだが、油断は禁物。
赤誠棟が見えてきた。
人影は……まだ見えない。
「ヤンク、回帰属の準備を。致命傷を受けた者の回復をお願いします。ほどほどに」
「ほどほどねぇ。相手がいる中で回復って結構難しいんだよなぁ」
経験者の言葉だ。心強い。
さらに近づくと、棟の裏側が抉れているのが見えた。
「あの穴……」
「多分ユスティアが破壊したのでしょう。二人は中にいると見た方がよさそうです」
抉り開けられた裏口付近には、すでに倒れている人が6人。
レーテでもユスティアでもない。
「終わってるかも?」
と、ルレウが言った。
「……そうですね」
倒れている6人は怪我をしているが、呻き声からして瀕死ではなさそうだ。
「ヤンク、お願いします。
外から敵が来たら後退して、ミュミテと合流を」
「ルレウ、奥へ入りましょう!」
危険でも、二人が無効化されていなければ何とかなる。
私たちは6人を飛び越え、壊れた壁から中へ入った。
中はチーム部屋らしき場所。散らかっていて、さらに奥の壁も壊されている。
「めちゃくちゃだよ……」
器物破損はどう扱われるのか。
ただ、戦闘を避けづらいプログラムが多い。この程度で処罰はない……はず。
壊れた壁を一枚越えて通路に出る。分岐は右と左。
左の壁は綺麗。右の壁は傷だらけ。
「ルレウ、右です。ここからは速度を落としましょう」
「おっけい」
右へ進むと、通路に2人倒れている。
遠目に見ても手足が折れている。
「あの二人は飛び越えて、突き当たりまで」
「はいよ」
突き当たりはT字。左を見ると、奥の左壁がまた破壊されている。
「左。あの破壊された壁」
「うい」
棟の構造は多少違うが、ここまで曲がれば――
破壊された壁の奥は広い空間。つまり大広間だ。
大広間を覗く。
右側に『種族の根源』はまだ無傷。
その近くでユスティアが教官2名と戦闘している。
一方、レーテは中齢赤誠らしき複数人に囲まれて動けない。
周囲には20名以上が横たわっているが、残りは5名ほど。それでもレーテは攻撃に転じない。無力化された可能性が高い。
「ルレウ、少し隠れて」
ここでの私たちは"弱点"だ。
通路と大広間を繋ぐ崩れ壁の裏から覗く形で様子を見る。
「ルレウ、遠距離ですが、あの“囲んでる連中”に干渉をかけられますか」
ルレウが試す。
「興奮と鎮静を交互にしてるけど、かからないみたい。たぶん相殺だね」
「続けてください。かかるまで。できるだけ早く」
囲みの一人が増強を入れ、刃物を持って間合いを詰める。
ドッ
不意に鈍い音がした。
ユスティアが一撃を受け、こちらから見て左へ転がり込んだ。
「ルレウ、隠れて」
見られるとまずい。
ユスティアは立ち上がったが、教官2名に追われて後退している。
「ユスティアに幻聴を送れますか。『こちらを見るように』と」
私はルレウにそう伝えた。




