79.電光石火
時刻は7:55。暗号が届く。
「ひまだねー。ねむた」
暗号を解けないミュミテはのんきで、やる気が感じられない。
「はぁーい、聞こえる? 敵情報をお伝えするわ」
ラニュヤの声。こちらの幻聴デュナミスも暗号化されている。
「中齢赤誠は、棟内に10名ほど。入口に20名ほどが待機しているわ」
攻撃的と聞いていた中齢赤誠が、主力を外へ出しているということ。好都合だ。
共有しておこう。
「敵勢30名程度です」
「楽勝楽勝」
「筋トレの成果が見たいよ。腕が鳴るなあ」
30対6……いや実質、30対3に近い。
それでもユスティアとレーテは強気だ。信じていいのか。
「あと3分です。増強を入れましょう。
ユスティアはハイレベルな増強を使えますか?」
「いや、増強はないんだよね」
増強なしであの自信……希少種か。
「あたしもー」
ミュミテも増強はないらしい。
「ミュミテは分裂するので、最初は脚だけで十分です。
ルレウからお願いします」
「はーい」
ミュミテは分裂の性質上、増強を重ねる運用は難しい。だから脚だけに絞る。
「ユスティアへは全身で。レーテ、お願いします。
だいたい1分以内で」
「うんうん」
復号できる私がタイムキーパーも兼ねる以上、実質この場の指揮は私になる。
指揮官としては、レーテとユスティアの本領を正確に知りたい。
レーテは自分とユスティアを増強。
ルレウはルレウ、ヤンク、ミュミテの脚を増強。
ルレウの増強は金々とまではいかないが、準金色くらいまで入っている。十分だ。
「おお、ありがとう。これで虎に翼だ」
「ほお、ユスティアが虎なら僕は竜だ。竜に筋肉」
「いいね強そう。私は虎に六つの翼が生えた感じだ」
「私の筋肉はしなやかで強靭だからね。しなやかな竜だよ」
「ふふふ、それはかっこいいね」
……気が合うのか、この二人。
「ルレウ、続いて全員の頭部に干渉属の精神鎮静をお願いします。
薄いバリアですが、精神作用系への防御になります」
「それはいいね」
デュナミスは部位が違えば刺さることがある。
増強を体幹や脚に入れている以上、頭部が無防備になりがちだ。
「私とルレウが先導します。
歩行速度はレーテとユスティアの方が上でしょうが、赤誠棟を補足するまでは離れないでください」
全員が頷く。
さらにハクレイから指令が届く。
「1分を切った。『最強の剣』は最速で赤誠棟へ。
交戦を始めたら、敵を全滅させるまで戦い続けろ。
『最強の刀』は打ち合わせ通りのルートで赤誠棟へ。
到着次第、チャンスがあれば即『種族の根源』を破壊しろ」
『最強の刀』の位置は分からない。
ややこしい指示は無視しておく。
残り30秒の暗号。これは伝えよう。
「残り30秒。
0の後に層の境目が開きます。その瞬間に最速で侵攻しましょう」
レーテが屈伸を始めた。
「ちょっとドキドキするね」
「よし、がんばろうぜ」
ルレウとヤンクも緊張している。
「みなさん健闘を。5、4、3……」
私は脳内でカウントダウンする。
フライングが怖いので、あえて1秒だけ遅らせて数えた。
「作戦開始だ! 2、1……0!」
暗号の開始合図が先に来たが、私は自分の“遅いゼロ”を押し切った。
ルレウが物凄い速度で走り出す。
私が落ちそうになるところを、ルレウが手で支えてくれている。
「もうちょっと速く走れないの?」
早速レーテからクレーム。
「すみません、無理です……。赤誠棟が見えたら突撃してください」
「『紫の目』は遠方視も優れている。レーテは私についてこればいい」
どこまで見えるのか。
黒風から赤誠までは、腰ほどの草しかない草原だ。意外と早く視認できるかもしれない。
「層の境から赤誠棟まで5kmくらいだと思います。あと4……」
言い終える前に、ユスティアが前方へ“跳ぶように”走り、視界から消えた。




