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7.ポリコレスコア

隣人の猫族ノアテラはアーグス家のことを把握していた。


私が三日に一度、本を読みに行く時間になると、呼ばなくてもすぐに出てきてくれるし、

帰らなければならない時間になると、きちんと声をかけてくれた。


最初の日はすぐに帰る時間になってしまったが、

二回目には留守の時間のほとんどを、読書に使わせてもらえた。


「いらっしゃい。今日は、どんなお本を読むの?」


「でゅなとすのほん、よむの」


「すごいわねえ。本当に読めるのかしら」


「うん」


「お利口さんねえ。ママもたくさん褒めてくれるでしょ」


憶測だが、ノアテラは私の知力や性格よりも、

私が無事でいるかどうか――安否のようなものに関心を持っているようだった。

もしかすると、猫族と犬族の関係は、あまり良くないのかもしれない。


「お姉ちゃんになるんだってね。寂しかったら、甘えてもいいんだよ」


「ノアテラおばちゃんの作るお菓子はおいしいよ。今度、晩ごはんも食べていくかい?」


私が本を読んでいる間、そんなふうに声をかけられることがあった。


全体的に、ノアテラは少し馴れ馴れしい。

晩ごはんの話も、すでにお父様と少し相談した形跡があり、

私を庇護しようとする雰囲気すら感じられた。


安堵した点もある。

断りなく赤子を半日家に入れていることを、

すぐにアーグス家へ伝えていたことだ。


私が本を求めて訪れているとはいえ、

前世の感覚で言えば、ノアテラの行動は誘拐を疑われてもおかしくない。

それをきちんと共有しているところに、信頼できる部分を感じた。


ちなみに、最初に会ったこの家の猫族らしき中年男性とは、

あれ以来一度も顔を合わせていない。


三回目に訪れたとき、意を決して聞いてみた。


「でゅなとす、どこでなれるの?」


「……まだエンニちゃんには早いよ」


「はやくない」


「うーん、どう説明したらいいかなぁ」


「おばあちゃんは、どこでなれるの?」


「おばちゃんは、なれないよ」


「エンニなら、どこで、なーれーるーの?」


「そうねえ……ミアウォートっていう所が近いけど、難しいこと言うねえ」


少ない語彙を総動員して、なんとか聞き出す。


私はにこっと笑い、地理の本を持ってきて地図を開き、差し出した。


「ミアウォート、どこ。エンニ、いま、どこ」


「……エンニちゃん、本当に行くつもりかい?」


「おしえて、おばあちゃん。おーしーえーてーよー」


とにかく、強く押す。


これまで大人しかった子が急に強い意志を見せると、

つい応えたくなる――そんな心理があると思う。


「エンニちゃんと、おばちゃんは、ここ」


ベルン大陸東端、ラフティナ地方。国はホムゾフ。

やや僻地なのは残念だが、大国に属しているのはありがたい。


「ミアウォートは、ここ」


こちらは事前に調べていた通り、

同じベルン大陸東部でも、かなり北寄りだ。


地図の縮尺が正しければ、距離は千キロ以上ある。


「ちかいねー」


わざと、そう言った。

本気で行くつもりだと悟られれば、

お父様やお母様に伝わり、何が起きるかわからない。


「まあ、隣町から転送できるから近いけどね。

この地図っていうのは――」


転送!

なんて素晴らしい世界だ。

脱走計画において、移動距離という問題が消えるかもしれない。


ひとつ、クリア。


勢いに乗って、食料のことも聞いてみる。


「いつも、ごはん、たくさん。パパ、しごとないのに」


少し饒舌だったかもしれない。

ノアテラは少し黙り、やがて言った。


「エンニちゃん、外で働いてる人を見たことある?

あれはね、エンニちゃんの好きなデュナトスさんが、ほとんどやってくれてるんだよ」


「すごーい。エンニも、もらえる?」


「デュナトスさんが作った食べ物は、配られてくるんだよ。毎週期に」


すごい、少し予測していたとは言え、ベーシックインカムのようなものが本当にあるらしい。


「しゅうき?」


「そうね。1、2、3日。それで一週期。

この町と隣のサナン町は、3の日がもらえる日。

1と2は、与える日だよ」


与える日ともらえる日、そういう経済システムがあるのか。


「3は、みんな、もらえる?」


「うーん……ポリコレスコアって、わかるかな。

それによって、もらえる物や量が違うの。

足りないものは、買うしかないんだよ」


「エンニ、もらえる?」


「もらえるよ。エンニちゃんは……そうね、

まだ小さいからポリコレスコアが高いね。

それだけあれば、ごはんだけじゃなく、色々もらえるよ」


そのとき、ノアテラは眼鏡のようなものを通して、私を見た。


――あれは、何としても欲しい。


「その、おめめ、ちょーだい」


「はい、どうぞ。数字、読めるかな?」


眼鏡は大きすぎてかけられなかったので、

そのまま通してノアテラを見る。


視界に、数字が浮かんだ。


『85』


【種族 30】

【年齢 0】

【性別 70】

【身体機能 0】

【精神 5】

【外観 0】

【デュナミス −20】


――ご丁寧に、内訳まで細かく表示されていた。

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