78.侵攻準備
初齢会談の翌朝、7:00。
精鋭四チームの一つとして編成された私は、黒風棟の前にいた。
ルレウにおぶってもらう形で、『最強の剣』の他メンバーを待つ。
「……あー、アテラちゃん赤ちゃんじゃん」
黒風棟から出てきたのはミュミテだった。
「ミュミテ、語尾に“です”をつけてください」
「赤ちゃんですじゃん」
どうやら今日は早起きらしい。
ミュミテはフード付きの服を着ており、早速デュナミスを発動させて三人に分裂する。
「これが黄昏棟を襲撃したときの能力ですか。
最大で何人まで増えられるのですか」
「わからんくらい。でも増えるほど鈍くなるから、60くらいかな」
60。
陽動としては十分すぎる数だ。レーテとユスティアも動きやすいだろう。
「アテラちゃん、そんな状態で戦えんの?」
「アテラは戦わないよ。私が代わりに戦うよ」
「ふーん……。ルウレだっけ。あたしにチャームはなしね」
「ルレウだよ。もちろんしないよ」
ミュミテにチャームをかける者がいたら、ぜひ見てみたい。
というか、こいつにだけは好かれたくない。
「やあ、待った?」
レーテが現れる。
ほぼ同時に、棟の奥からユスティアとヤンクも姿を見せた。
「おはようございます」
「おはようさん。回帰属・修復を得意とするヤンクだよ。よろしく」
「どうもどうも」 「よろしくねー」
ヤンクはよく知っている。
黒風のデュナミス提供者の一人で、黒風らしくない好人物だ。
ユスティアと同じチームで、回復の要になる重要なポジションでもある。
「全員揃いましたね」
「ああ。少し早いけど、中齢層へ行こうか」
ヤンクが果物を差し出す。
「食べてきたかもしれないけど、これも持っていって。長期戦になるかもしれないから」
「ありがとうございます」 「ありがと」
私たちは黒風棟産のバナナを食べながら歩き出した。
さきほどから無言のユスティアが気になる。
斜め下を向いて歩くその瞳は金色に光っていた。
紫磨金色の虹彩――横から見ても金色に見える。
普段は褐色の目をしているだけに、その違いと沈黙が禍々しい。
僅かに上がる、その口角。
「ユスティア、早く暴れたいですか」
「……ああ、待ち遠しいよ。私が全員やってもいい」
「殺したら退場ですよ?」
「分かってる。そのためのヤンクだろ?」
……ヤンクを味方でなく敵の回復役扱い。
発言が物騒すぎる。
「もしこんなプログラムじゃなかったら、ぜひ僕も手合わせしたいな」
「全部終わったらやろうよ」
「おお、それはいい」
「絶対やろう、約束だよ」
「うんうん、ぜひやろう」
やろうやろうと盛り上がる二人。
ルレウとチターナが“距離感バグズ”なら、この二人は“恐怖感バグズ”だ。
十分ほど歩いたところで、耳元に奇妙な音声が届く。
「ふぁふらい しうかかおひぃすと どぶらっちゃったーく しししそうる」
暗号だ。
私は教わった手順で復号する。
「みなさん、聞こえますか。
中齢層まであと1km強、その後赤誠まで約4km。
……だそうです。分からなかった人はいますか?」
私が確認すると、ルレウ以外の全員が手を挙げた。
……復号自体は中学一年生レベルだ。
脳筋チームすぎて、『最強の脳』の意味がない。
あ…
もしかしてハクレイは、復号要員としてこのチームに私を入れたのか?
だとしたら、私が真面目に"信用がどうたら"と語っていた時、
腹の中では笑っていただろうなぁ。
「……。……。……。」
再び暗号が届く。
「他チームの集合を確認。現在7:30。
層の境目は、ここから南へ進んで待機」
中齢層赤誠への最短ルートを示す段取りらしい。
私は地図感覚的に、もう少し東を経由した方が近いと分かっていた。
だが指揮は一方通行。
従うしかない。
「ルレウ、少しだけ東寄りに、それから南へ向かってください」
「はーい。アテラの言いたいこと、分かるよー」
ルレウは時々スキップしていて、完全にピクニック気分だ。
注意したいが、おぶってもらっている以上、何も言えない。
「耳がくすぐったいなぁ。この幻聴、消せないの?」
「無視しときゃいいよ。大したこと言ってないでしょ」
「うんうん。『最強の剣』は真っ向勝負だからね。指示なんていらない」
脳筋たちが身も蓋もない会話を始める。
聞かれている可能性も高いんだよ……。
「ヤンクも復号できないのは意外でした」
「いや、俺は方法を聞かなかっただけ。
指示は全部ユスティアに従うから」
「それは……聞けるけど、ユスティア最優先ということですか」
「そうだよ」
……なるほど。
レーテに付き従うサミャーのような関係か。
これで、ハクレイが私をこのチームに入れた理由がはっきりした。
指揮を理解できる人材を入れなかった私に、
“責任を取らせる”配置をしたのだ。
黒風という問題児だらけの組織で、
四六時中子守りをしているハクレイ。
――きっと、共感してほしかったのだろう。




