76.知りたくない情報
「メイラさん、まだ弟子を取っていたんだなぁ。
雪猫団にはメイラさんの弟子だった人がいたんだよ。」
ユスティアの話す内容がいまいちイメージできない。
メイラ先生はれっきとしたデュナトス。
雪猫団はジェノサイドなどを行い、デュナトスには反する組織。
しかし、雪猫団にはメイラ先生の弟子がいた。
その雪猫団を潰したのは、メイラ先生に『危険な所業』と言わしめたスピリエ。
スピリエはデュナトスでも栄誉あるTier1…。
メイラ先生はデュナトスでありながらデューナメースに反した思想でもあるのだろうか。
「ユスティア、あなたはメイラ先生に会ったことがあるのですか。」
「ないよ。でもメイラさんの2番弟子のシャバトゥラさんが雪猫団のリーダー代行をしていたんだよ。
メイラさんの弟子ならもっと早く言っておけばよかったなぁ。」
メイラ先生が雪猫団に理解があるような口ぶりだ。
知りたくない現実がそこにあるような気がする。
「海牛族の希少種入りは、誰が提案されたのですか。」
「シャバトゥラさんがメイラさんの助けを得てやったことだよ。猫族は強くあらねばならないって。」
…そんなばかな。
私の知っているメイラ先生はそんな人じゃない。
もっとこう、面倒くさがりだけれど弟子思いで、ノアテラのような小心者にも目をかけてあげられて、口は悪いけれど心は広い、決してどこかの種族を迫害させるような人格には思えない。
「アテラはまだメイラさんと会って日が浅いでしょ。
つまりメイラさんの思想を知らない。だから先日あんなことを言ったんだよね?」
ユスティアは誰かに洗脳されているのか。
それともカマをかけて私を何かに陥れようとしているのか。
「メイラさんの思想って?」
「言えないけれど、そのうちわかるよ。ヒントは理念チェーン。」
理念チェーン─スコア差69以内においてポリコレに関連する盟約を行うことで理念に縛られた行動しかできなくなり、代わりにスコアに反映されない専用デュナミスを獲得できる。
メイラ先生の盟約というものが、ユスティアの猫族第一主義…つまり弱肉強食のような考えに沿っているということか。
全く気付かなかった。
ユスティアの話は嬉しくない情報だった。
メイラ先生は家族で恩師。
寝食共にしてきた存在が思想の部分で相反すると思うと急に息苦しくなる。
私はポリコレを打ち砕こうとも、弱肉強食の世界を作りたいわけじゃない。
一方で、ユスティアが裏切る可能性は限りなく低くなったと言える。
目下、ハクレイには先ほどの編成を強く押そう。
私はムイ、ユスティアとともに黒風棟へ到着し、ハクレイに提案した。
それはレーテ、紫の目のユスティアを軸にする『最強の盾』、そして『最強の矛』による攻勢陣に、『最強の目』、『最強の脳』を加えた少数作戦部隊による中齢層制圧案だった。
ハクレイは静かに意見を聞き、初齢会談の説明を経て採用とすることを合意した。
翌日の正午、次のプログラムの説明のため赤誠は大広間に集まる。
私達チームにはルレウも混ざって待機している。
「みなさんこんにちは。プログラム『限界突破』はいかがでしたか。
最新の設備によるデュナミス計測によって、みなさん自身、真の実力を存分に分析し、限界を突破する糸口をしかと見つけられたと思います。」
「測定データはデューナメース認定企業に送られ、来る就職に向けて、みなさんの適性判断に役立てられます。」
「さて、次のプログラムは、『攻城戦』です。
攻城戦においては本デュナメイオンのプログラムの中で最も競争性を感じられる内容となっております。」
「まず、各色の棟を各々本拠地としまして、ここ、大広間の中央にオブジェクトが配置されます。
オブジェクトの名前は『種族の根源』。破壊されればその色は本プログラムの勝者となる権利を失うとともに、プログラム終了まで自色の棟からでてはいけないという制約が追加されます。」
「オブジェクトの防衛として我々も参加します。
8:00~20:00は正教官、20:00~8:00は副教官が立ちます。
しかし、教官達はデュナトスTier3相当の実力です。そこそこ強いと思いますが、大勢の対処は期待はしないでください。」
「みなさんが他色に対して、『種族の根源』を破壊することができたら、あとは自色の『種族の根源』を破壊されずに生き残れば勝者となります。
さらに、破壊された他色の配給ラインナップを奪い、自色で得ることができます。
つまり、破壊された色の方々は食料危機に陥ることになります。」
「ですが安心してください。本プログラムは10日目の朝8:00で終了します。
残り6日間は次のプログラムを準備しつつ十分な休息をとっていただくことができます。」
「また、このようなシステムですが平和が推奨されます。
それではこれで説明を終わります。明日の朝8:00よりスタートです。」
教官の説明が終わると、皆がざわめきだす。
赤誠の方々にはムイを通じて初齢同盟の基本行動に倣い、専守防衛にて大胆な動きを控える手筈となっている。
勝利条件は、『種族の根源』を防衛、および他色の『種族の根源』の破壊。
かなり危険なプログラムと言える。
一点助かるのは他層のことを言及していない点か。
まずは同じ年齢の層でどう戦うかが自然なため奇襲が成り立つ。
「多分この内容なら事前の打ち合わせ通りで大丈夫だよな?」
「はい、確実に初齢同盟は機能します。もし同盟を破棄されるのだとしたら、食糧危機リスクの少ない終盤だけですから、初動は問題ないです。」
「おっけー。」
早速ムイが赤誠の統制に動く。
「これはアテラ達の考えた通りでいいのかな。」
「恐らくそうなると思いますが、この後の初齢会談にて決定しますからルレウは部屋で待っててください。
他のみんなもそのようにお願いします。」
これから実施する初齢会談。
私とハクレイの提案でルレウは『最強の盾』に組み込まれる。
ルレウが私達の中で最も危険な立ち位置となることに今更罪悪感を感じていた。
私達チームの他のみんなは比較的安全な立ち位置を勧めようとしているだけになおさらに。




