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72.全は個

調査フェーズも4日目となった。


3日目の黄昏の測定では、ルレウはチャーム憎悪を受けないよう閉幕ぎりぎりに測定しにいったのだった。


…私が寝た後に帰ってきたことが靴でわかる。


朝食を作るリーネの手伝いをしながら、聞いてみる。

「ルレウは何時ごろに帰って来たのですか。」

「22時00分頃だったみたい。ルレウの測定にたまたま赤誠の副教官が立ち会わされたようで、小言を聞かされたんだって。」


「どんな?」

「アテラ達と一緒にいて不良が移ったとか、アテラみたいに測定が長引いて嫌がらせだとか、そもそも同居がグレーだから何とかしろとか。」

思いの他言いたい放題だ。

ルレウはのほほんとした雰囲気だから言いやすかったのかもしれない。


「教官っていつも思うんですけど、大人らしさが足りなくないですか。」

「うん、私もそう思うよ。」

珍しくリーネと気が合う。


「測定が長引いたということは結果が異常値だったのでしょうか」

「ああそうだ、えっと、レートがデュナトスでも珍しいくらい高いらしくて、審議入りになるんだって。」

「審議入り?それはどういう…」

「レートが高い人はそれだけで採用の価値ありとみなされる。

 最新鋭の設備でしか正確に測定できないのもあってデュナメイオンならではのことらしい。途中で教育プログラムを抜けることになるって。」


才能ある者を特別扱いして優遇し、代わりに世の中に特別に貢献させることが平等なのか、

才能ある者を特別扱いせず、その成果は自分のものにできるのが平等なのか、

判断の難しいところだが、きっとこの異世界では前者で進めたいのだろう。


「レートいくつで珍しいくらい高いと判断されるのですか。」

「ルレウ196。200がそこの閾値だから微妙な所らしいけどね。」

200か。ハクレイのデュナミス値が-199だった。


ハクレイがもしデュナメイオンを離脱する場合、黒風はどうなるのだろう。

今日の黒風の測定次第では緊急会談か。


朝食をみんなで食べた後、私はメイと青月へ向かう。

現盟主のレーテから、次の競争プログラムへの考え方の伝播をしてもらえるよう働きかけてみよう。



「信頼関係?もう今さらいいじゃん。」

「競争プログラムを甘く見ないでください。

 レーテは100の勝ち点を5色公平に20ずつに分けるため自分達が50点稼ぐ覚悟はありますか。」

「アテラ、そうやって難しい言い回しをするの悪い癖だよ。もっと簡単に言ってくれ。」

レーテの性格上一筋縄じゃいかないな。

これは骨が折れる。


「レーテの才能や努力はレーテのために使うなってことです。受け入れられますか?」

「意味が分からない。僕の力は僕のものだ。」

レーテの力はレーテのもの。当然のことだ。

その当然のことが半分以上犠牲にされるのが社会というやつだ。


「競争プログラムは土地や人などの取り合いなのです。

 負けたくなければ同盟の利を最優先して自チームの利を二の次にする必要があります。」

「それはそうだよ。何が言いたいの?」

「例えば土地の獲得を勝利条件とするプログラムの場合、青月が戦闘に戦闘を重ねて得た敵地を同盟に譲ることだってあります。

 でもたった2カ月のデュナメイオンの絆より一生をサポートする企業の評価を優先したくなりませんか?」

信頼という理念を説く前に、そもそもレーテがレーテ自身のことを知ってもらわねば話が始まらない。


「うんうん、一生の方が大事そうに見えるね。」

「では、良い認定企業に入る理由は何でしょうか。」

「僕は自分の力を試したい。限界まで洗練させてどこまで強くなれるのかを知りたい。」

「素晴らしい考えです。認定企業側はそのレーテの洗練されていく力を、何に活用すると思いますか。」

「反社会勢力の撃破とか、不毛の地の制圧かなぁ。」

レーテは素直だ。

冗談などで誤魔化すことなく率直に意見を言える。

メイに似ていてきっと心の強い人なのだろう。


「とてもいい活用アイデアですね。

 そのような対組織戦であれば、まさにデュナメイオンの同盟のような規模のチームで事を動かすこともあるでしょう。

 その中で功を焦り他の足を引っ張るようなことは全体を危険に晒します。」

「ふむふむ、アテラくんの言いたいことがよく分かった。

 つまり、同盟を大事にする行動そのものも評価されるということだね。」


「はい、間違いないです。特にレーテのような文武両道の逸材は、功績の殆どを分配する覚悟。それが逸材の美しさを際立たせます。

 そして、何故その覚悟があるのかという、もっともっともーっと大事なところ。レーテの『限界まで洗練させてどこまで強くなれるのか』を常に表明することを忘れずにやってください。」

「うんうん。」


レーテの顔に懐疑の色はない。

私はレーテに笑顔を向けた。


「これがレーテに伝えたかったことです。」

「…なんか、いい話を聞けた気がするよ。」


「長々と話を聞いてくれてありがとうございます。

 レーテが世界に名を刻むデュナトスになるためなら私は協力を惜しみませんから。」

「なんか少し照れるね。

 …アテラくんがあと20歳上だったらなぁ。」


いつもの凛々しい顔つきが少しトロンとしたように見える。

私の勘違いならいいけれど、特別な好意みたいなものは勘弁してほしい。


私はレーテと別れると、購買で待たせていたメイと合流し青月棟を後にした。

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