68.異世界
翌朝、赤誠の面々は第4棟に集合した。
目下の目的は、本日のデュナミス総量測定を終えること。
初齢同盟の作戦見直しは、その後だ。
第4棟に入ると、内部には見慣れない機器がずらりと並んでいた。
その数、12台。
機器の背後には、赤誠の教官が二名、他色の教官と思われる者が四名。
計六名が待機している。
「……なんだ、あれ」
ムイが小さく呟いた。
機器は円筒状で、人が一人すっぽり入るサイズだ。
前世で言うなら、スリープカプセルに近い外観。
「なんか……怖い……」
「測定装置なんだろうけど、ずいぶん本格的だね」
「企業が関わっているだけあって、最新設備かもしれない」
リーネ、メイ、チターナがそれぞれ感想を口にする。
横開きの入口から覗く内部には、真っ黒な石でできたベッド状の構造体があった。
表面には禍々しい模様が刻まれ、不規則に淡く発光している。
──正直、入りたくない。
そんな空気が広がる中、軽い咳払いのような音が場内に響いた。
「さて、定刻となりました。
プログラム『限界突破』、調査フェーズの測定を開始します」
赤誠の教官が淡々と説明を始める。
「12列に分かれて、機器の前にお並びください。
午前は各列六名、午後は五名程度を測定予定です」
「一名あたりの測定時間は、五分から、場合によっては数時間に及びます。
前に五名以上いる場合は、いったん離席し、一~二時間後に戻っても構いません」
「本日は一人一回の測定で終了です。
なお、未測定の場合、本プログラムの成績は零点となりますのでご注意ください」
人々はおそるおそる列を作り始めた。
得体の知れない装置への警戒心が、動きを鈍らせている。
──早く終わらせた方が楽だ。
そう判断した私は、列を抜けて先頭に向かった。
機器に近づくと、教官の一人が横に回り、穏やかな笑顔で手を差し出す。
「前の方、どうぞお入りください」
私は迷わず装置に入り、黒い石のベッドに横たわった。
次の瞬間、扉が閉じる。
説明は、ない。
装置内部はすぐに暗転し、外から見えていた不規則な発光も消えた。
完全な闇と静寂。
無音の時間が流れる。
目を開けていても意味がないと判断し、私は目を閉じた。
──その瞬間だった。
視界が切り替わる。
一面の荒野。
地平線まで続く、何もない大地。
私は周囲を見渡す。
左右も、後方も、同じ景色。
上を見上げれば、果てしなく広がる曇天だけ。
不思議なことに、身体は自由に動いた。
先ほどまで横たわっていた装置も、第4棟も、デュナメイオンも、影も形もない。
ここで何をさせられるのか──
そう考えた瞬間だった。
遥か前方。
異形の生物が、こちらへ向かってくるのが見えた。
恐怖よりも先に、私はそれを観察していた。
近づくにつれ、その姿が明らかになる。
頭部は金魚のランチュウに似た形。
そこから捻じれた繊維状の首が伸び、
胴体は鱗と筋肉が混じり合った、赤黒い歪な構造。
胴は異様に縦長で、
そこから軟体の触手のような「鳥の脚」が何本も生えている。
大小二十数本の脚が、不規則に地面を踏みしめ、異形を支えていた。
さらに胴の両脇からは、細い骨格の腕のようなものが左右に五本ずつ。
先端は蟹のハサミに似ている。
近づくほどに、その禍々しさが増していく。
──私は、選択を迫られている。
直感的にそう感じた。
倒すか。
逃げるか。
抗わずにやられるか。
それとも、会話を試みるか。
まず浮かんだのは「倒す」だったが、戦う術がわからない。
夢のような世界。
ならば、と私は“能力”をイメージする。
右手に剣。
背中に翼。
ファンタジー的な発想で、必死に思い描いた。
右手に、黒いくすぶりのような現象が発生する。
だが翼は現れず、跳んでも飛べる感覚はない。
異形は、着実に距離を詰めてくる。
右手のくすぶりを広げてみるが、操作はままならない。
不規則に揺らめくだけだ。
あと二、三十秒で到達する。
そして、思っていた以上に──大きい。
「あなたは誰。何をしようとしているの」
時間稼ぎのつもりで声をかける。
反応は、ない。
こちらへ向かう速度も、変わらない。
話は通じない。
到達されれば、攻撃される。
後退を試みるが、速度差は歴然だった。
──この右手を、どうにかしないと。
私は必死に、何かになり得るイメージを頭の中で掻き集めていた。




