67.1つの結果
次の日から開発プログラムになると分かったら、やろうと決めていたことがある。
それは初齢同盟内での交易だ。
各棟を回って分かったが、配給品には「交流を促すため」としか思えない偏りがある。
そこで私は15日目の午後、ムイと一緒に全色へ提案文を配って回った。
内容はこうだ。
提案文(配布用)
デュナメイオン開始から随分経過しました。
皆さまも警戒が解け、チームに慣れ、新たなプログラムに向けて力を発揮される頃かと存じます。
今後のさらなるチーム力向上のため、日々の団らんを「食」で強化してみませんか。
実現方法は以下の通りです。
各色、搬送に有用なデュナミスを持つ者を5名以上任命してください。
彼らに、日替わりで食材の効率的ローテーションを担当させます。
(中略)
この仕組みが整えば、以下の食材が毎日棟下に並びます。
白刃:スイーツ
赤誠:香辛料・珍味
第4棟:肉類・酒類
黄昏:パン・野菜
黒風:果物・豆類
青月:乳製品・茶葉
買い出しの手間が減り、調理も捗ります。
毎日がバーベキュー、毎日がパーティ、毎日が宴――
そんなデュナメイオン生活を、皆さまと共に実現できれば幸いです。
拙い知識の中で、セールス文句を並べ立て、人の欲を煽ってみた。
初齢同盟はまだ付け焼刃だ。
安全保障という言葉は、裏を返せば「無関係に安全を脅かされる可能性がある」という意味でもある。
そのことを皆うっすら理解しているだろう。
だからこそ、この交易を調査フェーズ中に形にして、初齢同盟に「依存」を作る。
容易に脱退できない構造にする――それが狙いだった。
全色を回るだけで半日近くかかった。
ずっと私を背負って棟を巡ったムイは、さすがに疲れている。
「ムイ、カクテルでもどうですか。好きな果物はありますか」
私は酒を飲めないが、母に頼まれてカクテルを作った経験なら何度もある。
「ありがたいが、今日はやめとく。
俺が飲むのを見て皆が飲みだしたら、明日遅刻しそうだし」
「そうですか。ではお茶くらいにしておきますね」
先日、青月の茶葉を持ち帰って淹れてみたら好評だった。
ここの茶葉は烏龍茶に近い味がする。
「ありがとう。
なによりルレウがまたやらかしたらシャレにならないしな」
「そうですね。私は絶対に一緒にいられません」
理性に欠けたルレウには、若干トラウマがある。想像するだけで身震いした。
聞いた話では、ルレウは飲むとひたすら絡むタイプらしい。
リーネが干渉属の幻覚で何とか制御したが、翌日ルレウはごっそり記憶が抜けていたという。
距離感バグりコンビだと思っていたが、酒乱まで加わるなら、チターナよりルレウの方が危険だろう。
夕刻、料理長のリーネが戻り、皆で料理を作った。
私はこの料理教室のおかげで、異世界食材の扱いを確実に覚えつつある。
そこへ――
「ただいまー」
「かえったよー」
ルレウとチターナが帰ってきた。
「おかえりなさい。明日の朝が大事なので、今日は宴会NGでいきましょう」
「えー、酒持ってきたのにー」
投資プログラム最終日で「打ち上げ」をやりたがるチターナに、先手を打った。
「アテラは飲めないもんねえ。よしよし」
ルレウが頭を撫でようとする手を、私は避けた。
「ルレウは一番飲んじゃダメです。危ないです」
「なんでー」
「ムイ、言ってあげてください」
「あー……明日大事だから。みんな寝坊できないし」
さっきと同じ理由だ。
あの“記憶喪失事件”には触れないつもりらしい。
「チターナ、ルレウは飲むとどうなるのでした?」
「えっと……ほどほどに飲んで、すぐ寝ちゃう感じかな。うん」
……隠している。
「リーネ、本音デュナミスをチターナに――」
「え、あっ……」
私が言い切る前に、リーネが私の口を塞いだ。
ルレウが首をかしげる。
「記憶が?」
リーネを見ると、口を強く結び、頬がうっすら赤い。
きっと恥ずかしい何かがあったのだろう。
「記憶がなくなるまで飲んじゃだめだよ。前みたいに控えめにね」
「うんうん、また今度飲もうね」
まさか、ルレウの記憶がなくなったのは“故意に”――
……いや、そこまでの興味はない。深追いはやめた。
夜21時頃。
片付けも終わり、皆でのんびりしていると、突然放送が流れた。
─みなさん、お疲れ様でした。
─現在をもって第一プログラムは終了とします。
─層順位は記録され、認定企業およびデューナメースへ報告されます。
─優勝者について、この場で表彰のアナウンスを行います。
─初齢層 厶イ・マダラオ、ウィグヌー・アンズナイア、アッティラ・ラシュターナ、
チターナ・ドルフォナ、リーネ・ハグーバーク、メイハーネ・トトー
─引き続き中齢層……
「うわぁ」
「これは……ちょっと予想外……」
「全体放送だよな……中齢にマークされるだろ、これ……」
そう。優勝者である私たちの名前が、全体に告知されてしまった。
名が知られれば、情報が一気に流出する。
次は開発プログラムで、奇襲もできない。
15日間――侵攻計画を隠すには長すぎる。
私たちは動きすぎた。同盟も、きっと気取られる。
方針から作戦を練り直さないといけない。
思い悩み、集中している私は、自分の頭を撫でる手にも気づかなかった。
「あらら。おめでとうって言えない雰囲気になっちゃったね」




