66.開発プログラム
投資プログラムの締め切り日からの5日間を、私達は情報収集に費やした。
チターナ、リーネ、ウイそして黒風の透明化デュナミス持ちのニェラルの4名で中齢層を偵察し、私とムイは初齢内の聞き込みなどを行った。
3名の報告によると、まず、中齢層は規模が大きく、人数は初齢層の2割増という印象だったそうだ。
そして初齢同盟のようなものが作られた形跡はない。
各色情勢について、初齢黒風に最も距離の近い中齢の棟は赤誠棟で、ややこしいことに初齢でいう黒風のような攻撃的な動きをしているそうだ。
これには他色が警戒しており小競り合いのようなものも起きている。
他方で中齢の青月と黒風は超平和陣営で同盟のようなものを結んでいるようだった。
気になる終齢との組織的接触も一切行われていないようだった。
ちなみに例の女帝が追っているというセシザの情報は得られていない。
位置関係としては初齢の黒風の南東に中齢の赤誠があり、さらに中齢の黒風の南東に終齢の赤誠がある。
つまり、終齢の侵攻もしくは、接触がなされるとすれば、中齢の黒風を調べることが最も発見率が高いということになる。
そんな中、中齢黒風が超平和陣営というのは、中齢と終齢の力比べを遅らせることになり僥倖と言えるかもしれない。
中齢での有力なデュナミス値の者はやはり多く、整理しきれていない。
ただ殆どは希少デュナミス持ちで、投資も多く獲得しているとのことだった。
中齢への偵察は気取られぬよう直接対話を避けたため情報量は少ない。
動くなら競争プログラムがくるであろう直前、つまり、開発プログラムの終盤が良いという意見で一致した。
変わって初齢層の調査においては、相当な内実を把握できてきた。
初齢の希少種族がルレウしかいないことや、王の種族で有力なデュナミス値の者は、剛竜族のレーテと、翼鳥族のカルテインの2名ということもわかった。
特にカルテインについては、裁定属の希少デュナミスである強制執行という恐るべき能力がある。
これは証拠の明らかな状態であれば所定の刑罰を単独で実行できるということらしく、端的に言うとカルテインを殴ると即時動けなくなり、罰金の支払いなどを終えるまでは解放されないそうだ。
まさに私達のように実力行使をしてしまう者達の天敵のような存在だった。
私は情報収集をしながらも、自分の重ねがけを規則正しくこなした。
『817』…現在の内腿の数字だ。これだけあればひとまずは安心だと思う。
投資プログラムのランキングは動かないままひっそりと最終日を迎えた。
そして本日は次のプログラムが判明する日でもある。
時は正午、また赤誠棟の人々が大広間に集まる。
「みなさんこんにちは、プログラム第1では実力を発揮できましたか。
始めのプログラムにしてはややテクニカルな内容だったかもしれません。」
「次のプログラムは、『限界突破』です。
本プログラムは15日間を3つのフェーズに分けます。
最初の5日間は調査フェーズです。」
「1日目から5日目まで、赤誠、青月、黄昏、黒風、白刃という順で、デュナミス総量の測定を実施します。
第4棟で各棟教官の厳重な確認の中、全力値の測定を実施します。」
必ず全員調査に赴いてください。」
「続いて6日目から9日目までの4日間は4棟内においてのみデュナミスコピーを解禁しています。
この期間、4棟内では、コピー以外の目的でのデュナミス発動を控えてください。」
「最後に10日目から14日目までを再調査フェーズとします。
再び赤誠、青月、黄昏、黒風、白刃の順で1日ずつ、全員の調査を行います。
この調査の結果、デュナミス総量が最も高い者とデュナミス総量の増加が最も顕著な者が勝者となります。」
「なお、本プログラムにおいては一切の戦闘行為を禁止いたします。
戦闘行為の元とならぬように、配給も全棟標準レベルのラインナップとしましたから、争って奪い合う必要もありません。
それではこれで説明を終わります。明日の朝8:00よりスタートです。」
相変わらず教育プログラムは棒読みのように読まれた。
「戦闘禁止だってさ、開発プログラムと見て良いんだよな。」
ムイが周囲に話す。
「だろうね。赤誠の私たちは早速明日に調査だね。」
「ウイの調べたデュナミス値を知っているだけに、何の意外性もないだろうね。」
「総量となると希少種のマイナス加算がないためやや変わるとは思いますがそうですね。」
チターナ、メイ、ウイが発言している。
そう、調査フェーズは引き続き中齢層の調査をすることが最善かもしれない。
1色1日もかけて厳正に調査するということは、デュナミス総量という数字が認定企業にとってそれだけ大きな評価要素であるのだろう。
「いよいよデュナミスコピーの解禁ですが、その打合せもしてよいかもしれませんね。」
多分こちらのほうが重要事じゃないかと思う。
こんなにデュナミス使いの豊富なイベントは滅多にないのだから。
「私のデュナミスの反射はお勧めだけれど、余力がないとうまくコピーされないことがあるから気を付けて。」
「もうみんな総量の余力なんてなさそう。コピーって難しいよね。みんな幼少期に師匠にやってもらって終わってるんじゃないかな。」
それが本来の師匠…無計画に日常生活をするだけで細々としたデュナミスまみれになる。
そうしたら、まともなデュナミスコピーを得られないだろうから、幼少期に決めてしまうということか。
「うんうん、多分レートも測ってくれるからそれで余力を計算して、そこからだね。」
レートとは…。周りを見るとみんな頷いた様子だ。
レートってなんだろう…。私だけがわからないのかな。
「あれあれ、アテラもしかしてレート知らない?」
チターナが目を見て顔を近づけてくる。私は頷く。
「アテラは知恵はあるけど知識はまだまだだねえ…お姉さんが教えましょう。
レートは、受けるデュナミスの大きさによって変わってしまう現在の総量に対して、潜在値を明らかにするためにあるものなんだ。
例えば、1が世界の覚醒者達の平均値と言われていて、同じデュナミスを受けて覚醒したと仮定して100だと総量換算で100倍という意味だよ。」
そんな便利な尺度があるのか。総量よりレートの方が大事そう。
「ありがとうございます。勉強になります。」
「レートの欠点は日々僅かに変動することだね。デュナミスの潜在値は心身の状態でも変わる。」
メイがそのように言ってくる。
不意に思い出した。
私がデュナミスに覚醒したとき、ノアテラが言っていた『自分のなりたい、なれると思える姿』というフレーズ。
強い目的意識や理念のようなものがデュナミスを生み出すのだとしたら、日々僅かに変動することもすんなり納得がいく。
「とても複雑なのですね。これも勉強になります。」
「アテラは時々不毛の地から来たかのような、基礎教育がごっそりない感じがあるよな。」
「そうなのですか。私の出自をお話しするときが来たら納得してもらえるかもしれません。」
「ああえっと、不審とかそういう気持ちはなく、大変だったんだろうなと思ってみているよ。」
不毛の地と言われるとハクレイ達が思い浮かぶ。
私の常識外れの部分を正当化するならば、そういう設定が最も都合よいと言える。
地理の本で不毛の地を知った時に思いつくべきだったなぁ。




