63.望郷
ユスティアが部屋に戻ってきた。
「いよう。まった?」
片手に食料を乗せたお盆を持っている。
果物、芋、豆など、収穫したまま食べられるものばかりだ。
「早かったですね。おいしそうです」
「ありがたい」
「これは嬉しいですね。私、豆が好きなんです」
へえ、ウイは豆好きなのか。私もナッツ類は好きだった。
ここにあるのも、そういった類だ。
「さ、食べながら話そ」
ユスティアは果物の皮を剥きながら言った。
「アテラくん、君はどこ出身だい?」
「エンティミア国のミアウォートです」
「そっち方面ね。猫族多いの?」
「そこそこは」
「人種混合地域ね。私は首都マムト。
かつて世界二大都市って言われただけあって、希少種族のオンパレード。たまんないのよ」
たまんない? 希少種を観察する趣味だろうか。
「希少種族が多いと、何かあるのですか」
「あれ、そうか。まだ小さいから知らないんだね」
知らない……?
私はアーモンド風ナッツをつまみながら、ナークが語っていた猫族の歴史を思い出した。
──過去に猫族が犬族に悪行をしたとか、
私の実母であるセブリが犬族の仇だったとか……
ウイが肩をちょんとしてきた。
「アテラ。猫族は希少種族に対して紫磨金色の虹彩――通称『紫の目』を発動させて、基礎能力を高められます」
「知りませんでした……」
「長きに渡り最大個体数を保有する獣族、つまり獣王の特権です。
獣王が猫族というのは常識。アテラが知らないのは意外ですね」
やはり本の情報だけでは、常識を見逃すこともあるか。
ユスティアは、アーモンド風ナッツを私の前に取り分ける。
「どうぞ。
王は元々犬族だったけどね……それは置いといて。
このデュナメイオンでも使わない手はないよ」
…アドバイスか、誘導か。
善意と受け取るのは早計だ。
「ちなみにアテラは、もう希少種に会ってるよ。
しかも身近に。気づかなかった?」
誰だろう。見当がつかない。
メイが口を挟む。
「その様子じゃ、本当に知らなそう」
「何の学習もなく使えるはずですが、確かに瞳が変わった様子はありませんでした」
ユスティアとウイが、そう言って私の目をじっと見る。
……もしかして、変化デュナミスのせいで目が光らない?
変化のことは、むやみにバレたくない。
「使えたこと自体、本人も分かるのですか?」
「瞳が紫がかった金色の特殊模様になる。運動能力が劇的に上がる。気づかないはずがないよ」
「ルレウが希少種族です。仙虫という。あと犬族もですね。
まだ幼いから発動しないのかもしれません」
ウイは本当に何でも知っている。
「この前のアテラ達の鉄柱の攻撃。
私は既に『紫の目』になってたけど、もし君らの存在を認識してたら撃ち返せたからね」
ユスティアが、さらっと恐ろしいことを言う。
……あのクレーターを作るレベルの攻撃を撃ち返す?
化け物じゃないか。
「そこで本題。私をチームアテラの“ルレウ枠”として同行させてくんない? 私、無敵だよ?」
…本題。これまでのへりくだり具合に合点がいく。
「知り合って間もないのに、信用できません。
『紫の目』でルレウを奪われ、ハクレイの行動操作で永久発動されたらひとたまりもない」
そう、直感が危険だと言っている。
「あー、それは怖いね。
でも、ハクレイはさせてくれない。あいつアテラ推しだからさ。
私の“無敵作戦”より、アテラの知略が上と見込んでるらしい」
「そうですか。その案は、ルレウに確認を取っておきます」
……ふと気づく。
私たちがルレウと行動していることを、なぜ知っている?
「ユスティア、あなたは、ルレウの今の位置がわかるのですか?」
「お、御名答。
彼女には“強力な尾行”がついてると思ってくれればいい」
ああ、ダメだ。現時点のユスティアは危険すぎる。
「次のプログラムまでには結論を出します。
私はハクレイの依頼を忠実にこなしました。ユスティアも、信頼される行動をしてください。
つまらない尾行などせずに、です」
「そう……努力するよ……」
ユスティアはあっさり引き下がった。
結局、私たちはナッツをご馳走になっただけだった。




