61.腹黒
お互い追記できないように、紙を地面に置く。
「アテラくんから言ってみて」
レーテが促す。
十進数なら、素数が人気だとどこかで聞いた。
あとは割り切れる8も好まれそう。
変わり者なら、その手を避けて4や6を選ぶかもしれない。
「アテラが言います。649」
「1近い、0当たり」
ブロー1。残念。数字選びはランダム寄りか。
「じゃあ次、僕。012」
「1近い、0当たり」
「とりあえず1個だよ。へへへ」
レーテが妙な笑みを浮かべる。
次は私の番。今度は王道の人気数字を混ぜてみる。
「アテラが言います。781」
「1近い、0当たり。残念だねえ」
またブロー1。ここで3ブローが出ないのは厳しい。
レーテが一気に情報を取ってこないことを祈るしかない。
「僕の番。345」
「0近い、1当たり」
「やった。当たり引いた。結構分かっちゃったなあ」
ヒット1ならまだ軽い。
分かるはずがないのに、レーテは謎の自信を見せてくる。
ここまでで、レーテの数字は『649』『781』『345』『910』あたりにそれぞれ1つずつ含まれているのが分かる。
性格的に、1は選びそうだ。あとは極端に0や9か。
「アテラが言います。910」
「2近い、0当たり」
近い線に来た。極端好きか。
続いてレーテ。
「僕の番。678」
「1近い、0当たり」
「これで全部の数字が揃っちゃったね」
レーテの強気は心理戦だろう。
しかし少しロスがある。……勝ちが見えてきた。
感覚的には『9』と『1』が入っていそう。賭けに出るか迷う。
ひとまず確定に寄せる。
「アテラが言います。576」
「1近い、0当たり」
これで候補がかなり絞れた。
使われる数字は、体感的に『1・9・0・7』あたりが濃い。
レーテの番。
「そろそろ当てちゃうよ。306」
「0近い、1当たり」
「え、1当たり?」
「1当たりです」
「ふーん。アテラもまだまだだし、外堀からいこう」
割と当てに来ている。
でも“次で確定”までは行けていない。こちらは確実に決めに行く。
「アテラが言います。196」
「0近い、1当たり。ああーアテラも中々あたらないな」
中々。次で当てるよ…
渋い顔を作っておく。
「はい、厳しいですよ……」
「僕は次で決めちゃうかもしれないな。遅くても、えーと、あと2回で決めちゃうよ?
381」
「1近い、0当たり」
「あれ。だめじゃん。なんで」
レーテがきょろきょろしている。……妙な予感がする。
これで最後。
「アテラが言います。097」
「うわー。3当たり。なんでー。おかしい!」
これで勝負は決まった。
「レーテ、約束通り“メイちゃん”って呼んでくださいね」
「アテラ、紙みせて! ちゃんと答え書いた?」
私は五回ほど折った紙を開き、谷側に「805」が見えるようにして渡す。
「むー……おかしい。途中で数字替えた?」
「変えてないですし、矛盾もないですよ」
もし遠隔で書き換えられるデュナミスがあるなら、もっと粘れる。
不正を疑う者ほど不正をする――そんな匂い。
「レーテ。ぼくにレーテの紙を見せてください」
「えと、はい」
するとレーテではなく、隣の付き人が紙を拾ってレーテに渡した。
そのままレーテが私に見せる。
「はい」
紙には『097』。しかもインクが新しい気がする。
……理解した。
レーテは最初、白紙を置いた。
私の紙は透視か何かで読ませ、勝てそうな段階で後出しで数字を書いた。
だから私が折って隠しても意味がなかった。
「レーテ、ずるしましたね?」
「え、なんのことかな?」
「もしレーテがずるしていたら、ぼくに謝ってもらえますか」
「いや、えっと……」
「ずるしていないなら了承できますよね?」
「ああ、うん。ずるではないと、きっと……」
付き人の顔色が悪い。黒だ。
わかりやすいなぁ。
「ずるしたのは、あなたです!」
私は付き人を指差した。
角の生えた天パの付き人はびくっとする。……少し可愛い。
でも勢いで畳みかける。
「この人は、私の紙を透視か何かでずっと見ていました。目線がおかしかったです。
そしてレーテは最初、白紙を置いた。後出しで数字を決めるためです」
「え、分かるの!?」
「やってくれたなレーテ! お前も!」
レーテの露骨な反応に、正義のメイが噛みつく。頼もしい。
「これを“ずる”って言うんです。早く謝ってください」
「いやー……こいつがさぁ」
「ええ、わたしのせいですかぁ……」
レーテは付き人のせいにした。
こんな極悪なら、ハクレイと馬が合うのも納得だ。
「文武両道って言うなら、こういう時こそ“道”を見せろよ。なあ!」
メイが言葉で殴り続ける。
私は改めて、レーテに視線を戻す。
「さあ、ずるしたことを認めてください」
「……」
「はい。ずるしました」
罪悪感なしに嘘をつけないタイプ…。
「謝るところだろ? それが文武と道だろう?」
「はい……」
「今謝ったら赦します。謝らなかったら、このことは青月のみんなに流します」
「ご、ごめんね」
「申し訳ありません」
その瞬間、主従リンクの感覚が胸に刺さった。
「それでは、レーテを赦します」
「ええっ……わたしは……」
付き人が困惑する。悪いが、私はここで真実を掘り起こす必要がある。
今後の同盟のためにも。
「お付きのあなた。まず自己紹介をしてください。私はアッティラ・ラシュターナです」
「わたしはサミャー・チュエルです。青月の副代表をしております」
見た目はまともそうだ。だがそれとこれとは別だ。
「サミャー。数字当て勝負の不正を考えたのは、あなたですか?」
「えと……」
「嘘をつかず、すぐ答えてください」
「はい」
背後でレーテがメイにぼそっと言う。
「あのー、主従リンク使ってる?」
「そりゃ当然だろ。これから初齢同盟で動くんだから、信頼関係を作らないとだよ」
メイの言い回しは上手い。疑っているとは言えない形で釘を刺している。
私は質問を変えた。
「サミャー。不正を命令されましたか。本当のことを教えてください」
「……」
サミャーは即答しない。これは本人の意思かもしれない。
「うわ、えっぐ」
レーテがぼそっと漏らす。
私はさらに絞る。
「では質問を変えます。サミャー。
あなたは不正を、自分の意思でレーテに勧めましたか。すぐに真実を言ってください」
「はい……」
「うわ。気弱そうな顔して、心の中真っ黒じゃないか」
メイの言葉が、容赦なくサミャーを刺した。




