60.文武両道
私たちはルレウを連れて赤誠へ戻った。
帰り道で、改めてルレウと自己紹介をし合う。最後はリーネだった。
「リーネ・ハグーバークです。四半軟です」
「青い艶肌、素敵だね。保湿は何を使ってるの?」
ルレウが食いつく。
軟族の肌は、貝殻の裏のような青い光沢がまばらに出る。
保湿を怠ると黒ずんで、見た目が一気に損なわれる――とリーネが言っていた。
「『海貝の水』を使っています」
「ひぇー、あれ高いよね。サイサラ海の特殊な貝からしか採れないやつ」
チターナがすぐ反応する。
「ええ。軟族が一番お金をかけるべきところです。ルレウもしっとり肌でいい感じですね」
「それ、私も思った。ルレウは何を使ってるの?」
今度はリーネとチターナがルレウに聞いた。
「いいイメージないかもだけど、化粧蛾の鱗粉だよ。触ると粉がつくよー」
「へぇ。触ってもいい?」
「いいよ」
「うーん、粉っぽさ分かんなくていいね。あとで教えて」
鱗粉なんて全然気づかなかった。ファンデーションみたいなものだろうか。
「女嫌い」だと言っていたルレウは、案外みんなに馴染んでいる。とりあえず安心だ。
すっぴんっぽいメイだけが会話に入れず、そわそわしていた。
赤誠棟に着くと、ベッドの割り振りが始まった。
男子部屋:二段ベッドにウイと私、ムイは雑魚寝
女子部屋:シングルにメイ、三段ベッドにリーネ・ルレウ・チターナ
睡眠が大事なウイと、変化デュナミスを稼がねばならない私は、早々に風呂を済ませてベッドへ。
今日は2セットだけ。
……『89』。
他のみんなは、懲りもせず夜会を開いていた。
朝。
デュナメイオン到着日を1日目とすると、今日は5日目。
私、ウイとメイは自然に起き、軽食を済ませて青月へ向かう準備をする。
他のみんなは爆睡している。夜更かしだろう。
私は『先に行く』ことと、『時間があれば投資を集めてほしい』ことを書き置きした。
赤誠から青月までは見通しが良く、メイの増強が存分に生きた。
私は例のごとくおぶってもらい、ウイとメイの高速移動で十分ほどで棟が見える。
──青月棟。
門前には人が大勢いて、筋トレしたり酒を飲んだりしていた。
この棟、のんきすぎる……。
早速、椅子に座ってくつろいでいる一人に聞く。
「どうも。赤誠のアテラです。レーテさんはいらっしゃいますか」
「レーテはあっち」
雑に指さされた先は、筋トレ集団だった。
誰がレーテかも分からないまま、私たちはその集団へ向かう。
「今までの棟は見張りとか合理性があったのに、この棟だけ雰囲気が違うね」
メイの言う通りだ。私はうんうん頷く。
筋トレ集団の前で止まる。
「忙しいところ失礼。レーテさんはいませんか」
メイの大声が響くと、
集団の中から、黒寄り濃緑ストレート髪の女性が出てきた。
「僕を呼んだのは誰?」
「アタシです。メイハーネ・トトーといいます」
「初めまして。レーテ・シンキュインだよ。よろしくね」
独特な雰囲気のあるレーテは、メイハーネと同じくらい背が高い。
「よろしく。こちらがアッティラ・ラシュターナ、ウィグヌー・アンズナイアです」
「うんうん、アッティラくんは……小柄だね」
“子供”と言わずに配慮したのだろうか。
ハクレイの合意書にあっさり乗った人だ。この程度の変人じゃ足りない。
「はい。6歳ですが、赤誠の代表をやっております」
「面白い冗談だね。デュナミスはどんなだろう?」
「包含属に当たってしまい、まだ不明です」
「じゃあ、何もなし? どうやってここに来られたのかな?」
本気で不思議がっている。普通はそう思うか。
「アッティラ……えっと、アテラは頭の切れる子で、ちゃんと代表だよ」
メイがフォローしてくれる。
「そうかそうか。うんうん。頭も大事だけど肉体も大事だよ。僕は文武両道がいいと思うんだ」
興味はあった。
…が、第一印象として関わりたくないタイプだ。
「肉体はアタシが担当だからね。
アタシのフィジカルとアテラの頭脳なら、レーテさんにも劣らないと思うよ」
……喧嘩っ早いメイ。来てもらうべきじゃなかったかもしれない。
「ほお、言ってくれるね。じゃあメイくん、僕とパワー勝負しようか」
「アタシとパワー勝負? 物凄い自信だね。受けて立つよ」
なんと二人は腕相撲の準備を始めた。
この世界でもパワー勝負=腕相撲なんだ…。
その時、ウイが小声で報告してくる。
「アテラ。メイはデュナミス -105、レーテは -133です。メイが不利です」
見た目の筋肉は、メイのほうが少し上に見える。
ただレーテはスコアで勝っている。
「負けたら、僕のことは引き続き“さん”付けで呼んでもらおうかな」
「いいよ。もしレーテさんが負けたら、私のことを“ちゃん”付けで呼んで」
賭けの内容が小学生レベルだ。
…メイは"ちゃん"と呼ばれたいのかなぁ。
二人は腕や体を金々にする。増強の強度は互角に見える。
台の上で右腕を組む。
メイの手は無駄のない筋肉と羽毛。レーテはしなやかな手と鱗。
「準備オーケー」
「スタート!」
ドゴォォーン!!
勝負を見届ける前に、台ごと爆発した。
土煙が晴れると、そこには横たわるメイ。
「はい、僕の勝ちー!」
「レーテさん強いね……御見それしました……」
メイがパワーで圧倒されるなんて。どれだけ怪力なんだ。
あの、しなやかな手で…デュナミスを使ったか……。
「じゃあ次、アテラくん。頭脳勝負としようか」
「はい」
「頭脳なら“数字当て”だね。
お互い、0〜9のどれかを使って3桁の数字を書いて隠す。
それを当て合うゲームだよ」
「数字が近かったら、それを伝えるのですね」
「うん。違う位置に同じ数字があれば“近い”、同じ位置に同じ数字があれば“当たり”。
例えば正解が123で、相手が325なら『1近い、1当たり』。分かった?」
「はい」
小さい頃にやった“ヒットアンドブロー”に似ている。
「アテラくんが負けたら、僕のことは“様”付けで呼んでもらおうかな」
「ぼくが勝ったら、メイのことを“メイちゃん”と呼んであげてください」
相変わらず小学生。合わせてあげる。
「よし、決まり。周りは何も喋らないでね」
レーテはもう書き終えていた。早すぎる。好きな数字なのだろうか。
あるいは、私の手元を見て推測するつもりかもしれない。
悟られないように、紙に30桁ほど適当に数字を書き散らし、何度も折り曲げて――
最後に「805」だけが残るようにした。




