59.成立
とりあえずカルテインの質問には正直な考察を伝えることにする。
「はい、まず黒風は強力なデュナミスを持ち、力関係上は他色より優位です。
しかし、隣地に強大な中齢層が広がっていることは最大のリスクです。
黒風、いやハクレイの目的は勝者でデュナメイオンを終えることです。
中齢を退けて3層制覇をする。それ対して利することが大局であり、初齢内の対等化は些細でしかないでしょう。」
「次に我々赤誠では、ハクレイとは異なり勝者になるという結果だけではありません。
多様なデュナミスを上手く活用して勝つというプロセスにも意志を込めます。
多様というのは力ではなく種類です。
従って、自然とできてしまう力の序列を制御して、フラットな目線から種類の活用を進めたい。
そこでこの対等な同盟は都合が良いと考えました。」
「最後に白刃と青月ですが、青月は直接交渉していないためわかりません。
白刃は私達を高く買っており、『あなた達と組む面白みは何事にも代えがたい。』と言っていました。
これは私達への支持と取れますが、私達の行動によって同盟を脱退する可能性を示唆しています。
恐らく白刃は、単独で優位に立つ難しさを選ばず、猪突猛進の我々をそばに置きながら優位を模索することが性に合うのでしょう。」
カルテインは私が話を終えると微笑みを向けてきた。
「アテラさん、短期間での調査、洞察力と行動力に驚嘆しました。ルレウさんが貴方に入れ込むのも納得がいきました。」
カルテインの言葉に他の者も頷く。
学級委員会の時もだけれど、このカルテインのような声が生み出す空気の形成が民主政治の欠点だと思う。しかし今回は利用させてもらう。
「それではこの合意書の最後の空白について皆さんのご意見をいただきたいと思います。」
私は黄昏の欄を指さす。
黄昏の面々の何人かは相互にキョロキョロとしだす。
やはりまだルレウが代表なのだろう。それじゃだめなんだ。
私がルレウを見るとルレウは大きく頷いた。
私は、それに呼応する形で深呼吸をする。
「チャームによって心情がねじ曲げられた場合、それは民主的判断と呼ぶべきでしょうか。」
今までのトーンと変えてゆっくりと話したその言葉に面々はざわめく。当然ルレウの方に目がいく。
沈黙。私はあえて黙る。
「私は…、私がチャームをして黄昏の代表に立ちました。」
数秒の後、ルレウは震えながらそう言った。
「そうなのか」「まずいんじゃ」「つまり不正を…」
何人かから黄昏の動揺の言葉が飛ぶ。
やっぱりそういう反応になるよね。
「外部の私が恐縮ですが、同盟である黄昏とはいつも作戦を共にしてきました。
そして思い起こされてくる。
今朝、投資価値が大きく増えていたこと。
昨日夜明け前、黒風の奇襲を撤退させたきっかけ。
一昨日の捕虜救出成功を依頼できた経緯。
ルレウが真っ先に身を挺した黒風への対応。
いずれもルレウの働きがあってのことでした。」
私は外の者。ただ事実と一般見解を並べるだけ。
そのように自己に言い聞かせながらも、自分の感情が込められてしまうのを感じた。
「僭越ながらあと一点だけ。
チャームは不正です。ルレウは今代表であってはいけないと考えます。
そしてチャームを受けた者には大きな反動がきます。
この反動もまた不正であり、みなさんの判断を狂わせる。
ですから、ルレウ以外の代表が必要なのです。」
私の代表を変えろという発言は他色の干渉行為であり、かなりリスクを伴うだろう。
しかしこれでルレウは安全な位置に来れる。
チターナやメイの指摘がなかったらここまでしようとは思わなかったかもしれない。
少し無言の時間が流れる。
「クククク…まるでアテラ殿の掌だな、ハッハッハッハ」
シーケウスが笑う。
他の者も同調しだす。
代表を決めるという責任事をアテラの掌という免罪符で軽くするかのような印象を受ける。
だがそれも民主要素の生み出す自然、仕方ない。
そのまま進まなかったらどうしようかと考えていた矢先、背に羽を生やした者から手が挙がっていた。
「では、私が立候補します。」
鳥族のカルテインだった。
そこからは円滑にことが進む。
カルテイン・グニティエルは、多数決により正式な代表に選ばれた。
そしてカルテインはすぐに合意書に署名をする。
「これで初齢同盟が成立ですね、アテラ殿。」
屈託のない笑顔でそう言ってきた。
カルテインは好青年といったイメージで、子供の私にも対等に見ようとする印象を受ける。
「迅速な署名に感謝します。今後が誠に頼もしい限りです。」
私はそう一区切りつけると、本題を切り出す。
「ルレウのことなのですが、チャームの反動というのは尋常ではない憎悪を呼びます。
代表を降りたから終わりというわけにはいかないように思います。
そこでみなさんさえ良ければ暫くチームアテラと同行という形を取れないでしょうか。」
さてどうくるか…数人の反対は想定しているが、カルテインが反対したら厳しいかもしれない。
「では新代表の私から。ルレウを安全にしていただけることと引き換えに承認します。」
合わせるように各位拍手をしだす。
容易く承認された。ありがたいことだ。
拍手しながらシーケウスが立ち上がる。
「アテラ殿、終始見事な配慮だったぞハッハッハッハ」
「いやー、これはいい会議だったよー。」
シーケウスにもう一人反応し、カルテインも頷く。
…ん?もしかしてチャームを知っていた者もいたのか?
真相はわからないが、不自然なほど円滑に話がまとまったことは確かだ。
私は黄昏のリーダー達と一通り握手を済ませたあと、ルレウが準備をするまで大部屋で待つことになった。
「これほんと、…たった1日か…ハクレイも驚くだろうな」
ムイが全色のサインがついた合意書について話した。
「合意書で思ったんだけれど、青月のレーテってどんな人だろうね。あのハクレイの提案に真っ先に合意するなんて相当やばいやつよきっと。」
「そうだね、邪悪な奴だったら拳を交えることになるかもなあ。」
「そしたら悪にはアテラをもって制するしかないですね。」
チターナとメイの会話にリーネが乗る。
この3人こそが悪の、邪心三姉妹だと思う。
「アテラ、頼まれていたデュナミススコアですが…」
ウイが話しかけてくる。
頼んだことを忘れていた。ずっと一対一で話しかけられるタイミングを見ていたのかな。
「ナズナ-117、ラニュヤ-126、セーラム-98でした。」
遠隔の盗聴ができるセーラムは希少種、つまりデュナミス総量は低いとみてよいか。
セーラムは、『我々が』観測属のデュナミスを持っていると言っていた。
しかしナズナは包含属と言っていた。
そうなると残ったラニュヤが強力なコア観測だと見ても良いかもしれない。
「ウイ、強力なコア観測属で希少種ではない場合、どれくらいのことができますか。」
「観測属の普通種は、ポリコレスコアの原理となっている定量測定の他に、心理看破、広聴力、遠眼、強嗅覚などあります。」
「広聴力は聴力を拡張するような効力で、恐らくルレウのチームメンバーが使っていたものです。
遠眼、強嗅覚も同じです。
聴力、嗅覚が強くとも、何でも聞こえたり全て匂いすぎて、遠方を把握することは困難です。
総じて観測属はあまり強い総量でコピーせず、分散して会得するのが有効なデュナミスと言えるでしょう。」
気軽に聞いたがウイは知識派だった。
次々と情報を流されて困惑したが、何とか理解して飲み込まなくてはいけない。
「定量測定はポリコレスコアにでる全ての要素を見ることができます。
しかし、アテラのように何かを纏っていると相殺されて、効きません。
あとは心理看破、これは心が読めてしまうが故に精神が破壊されるため、今デュナメイオンで恐らく使える者は殆どいないと思います。
そして心理看破は通常のデュナミスでは相殺できません。」
確かに精神を病むってメイラ先生が言っていたなぁ。
精神が強ければ耐えれるのだろうか。
今の私にとっては心理看破が最も恐ろしい。
「ありがとうウイ、なんとなくわかりました。」
「また聞きたければいつでも言って下さい。」
ウイは黙っていてもイケメンというのに喋らせたら知識の宝庫、人畜無害ではなく断然有益なお人だ。
今後はときどきウイ様と胸中で呼ばせていただくことにしよう。
ハクレイ取り巻きの失礼コンビをより確実に敬語にしてもらうため、ハクレイの要求には100%応えたい。
そこでウイには、青月のデュナミス値も調べてもらおう。
けれど今日はもう遅い。睡眠時間の長いウイには明日一緒に来てしてもらう依頼をしておいた。




