58.黄昏会議
ナズナとの対面を終え、私はスイーツ部屋へ戻った。
食べたくもないスイーツを少しだけかじり、次の動きを組み立てる。
「メイ。黄昏の“チャーム統治”のことだけど」
「んんー……あー、おいしーい。なーに?」
いつも男勝りなメイが、スイーツで完全に乙女になっている。
「ルレウには早急にチャームを解除してもらおうと思います」
「ふんふん」
メイはもぐもぐしながら頷く。
「ただ、チャームには反動があって……」
私は一方的に説明を続けた。
ルレウを匿う件は、まずメイがブレない味方になってくれれば、他の説得は何とかなる。
「……ということで、赤誠棟に匿うのはどうでしょう」
「んー、いいよ。でもベッド足りないね。こっちは三段が一つだし」
「男子部屋は二段ベッドとシングルが一つ。布団はありますから、私が雑魚寝します」
「たぶん、そうはならないけど。いいよ」
メイが少し笑って答えた。
……多分、雑魚寝になるのはムイだろう。ごめん、ムイ。
その後、ムイ、ウイ、チターナの順に話した。
「すでに了承している人」の名前を前置きで出すと、話は驚くほどスムーズに終わった。
ウイには、観測デュナミスでのスコアチェックも頼む。
そして最後がリーネだ。
「リーネ」
「ん」
リーネはハムスターみたいにスイーツを頬張っている。
スイーツってそういう食べ方じゃないと思うけれど。
……ここでは希少品なのだろうか。
私はルレウの件を説明する。
リーネは乗り気ではなさそうだったが、最後まで聞いてくれた。
「……」
「リーネが了承してくれたら、これで全員です」
「……ずるい」
「ずるくないです。ルレウを安全にするために、みんなが合意しやすい流れにしただけです」
「ルレウ、ずるい」
……そっちか。
リーネの嫉妬深さは考慮すべきだった。
「では、ぼくと同じベッドで添い寝しましょう。
ルレウはそれで嫉妬するから、チャラです」
「え……やだ」
「嫌と言われても……体格的に、リーネと私くらいしかできないですよ」
「……」
リーネの顔がだんだん赤くなる。
そう、リーネは恥ずかしくて「はい」と言えないのだ。
これがチターナやメイなら、秒で了承するだろう。
「仕方ないです。私が雑魚寝しま――」
「いいよ」
「えっと、私が雑魚――」
「アテラと添い寝、いいよ」
「……えっと、はい」
……これは誤算。
ここで引くと思っていたのに。なぜだ。
スイーツタイムを終え、少し休んだあと、私たちは黄昏棟へ戻ることにした。
「いつでも遊びにおいで。スイーツ、たっくさん揃えて待ってるわ」
「絶対いきます!」
「またお伺いします」
「ありがとうございましたぁ」
ナズナに胃袋を掴まれた空気がある。
白刃が甘味強めの配給なら、赤誠に供給して支持率アップにも繋げられそうだ。
黄昏への下り道を進む。
行きは登りが長かったのに、帰りは妙に短く感じる。
「アテラとリーネが一緒に寝るって、みんな聞いた?」
チターナがいきなり切り出す。
「ええ!? それいいのか??」
ムイがわざとらしく反応する。
「……アテラからそう言ってきました。体格的にそれしかないって」
リーネが言い、メイもこちらを向く。
「アテラ、アタシには雑魚寝するって言ってたのに……」
……成り行きの事故なんです。どうしよう。
「肉食男子ですかね……」
そのつぶやきは草食系代表みたいなウイから。リーネは俯いている。
「私はアテラにそういうところがあってもいいと思う。次は私が添い寝で」
チターナ、私に選ぶ権利はないのですか。
肉食はあなたです。
私はチターナに、”たすけて”と口真似する。
「うん。リーネも一緒に寝たいみたいだし、それなら問題ないな」
ムイが適当そうに言った。
「問題な……え、待って。リーネも?
双方が一緒に寝たいってほうが危なくない? 過ちを犯しちゃう!」
チターナが自己矛盾だらけの問題提起をする。
……助け船が来た。
「……確かに。リーネはどう思う?」
メイが振ると、全員の視線がリーネへ集まる。
「えっと……私はアテラに誘われただけで、一緒に寝たいわけじゃ……ないです」
言質がきた。
「リーネ。やはり我慢されていたのですね。
ぼく、実は下心がないとは言えなくて……。ぼくが雑魚寝します」
完璧な流れで、添い寝回避が決まった。
リーネは、皆の前で意見を覆せず、少し落ち込んだ顔をした。
……そして結局、無事にムイが雑魚寝することになった。
ごめん、ムイ(2回目)。
そんなこんなで黄昏棟に到着する。
大部屋には人がいたが、ルレウもシーケウスも見当たらない。
聞くと「会議中」らしい。
自由に動く赤誠と違って、白刃と黄昏は会議で方針を決める――組織として動いている印象だ。
私は意を決して頼む。
「……その会議に参加させていただけませんか」
「ちょ、ちょっと確認がいるので」
黄昏の者がそう答えると、周囲がざわついた。
「何を目的に?」
「さすがに赤誠、うちをなめすぎじゃないか……」
そんな空気の中、しばらく待つ。
やがて黄昏の者が戻ってきて、参加許可は下りた。
ただし条件付き――参加は私一人。
「ここは失敗できない場面だな。いつもアテラで忍びねえなあ」
「代表なんだから仕方ないよ。みんなアテラの特別な才能に賭けてるからね」
ムイとチターナが、私の背中へ言葉を投げた。
会議室に通される。
ノックして入ると、ルレウ、シーケウス、そして他にも八人。
計10人がテーブルを囲んで座っていた。
「会議中、失礼します。赤誠の代表をしているアテラと申します」
全員の視線が私に集まる。
私は“波風を立てずにルレウを助ける手”を、いくつも頭の中で組み立てていた。
「お話中でしたでしょうか。
黄昏のトップ会議であるこの場で、申し上げたいことがあります」
「ちょうど区切りがついたところです。どうぞ」
答えたのはルレウだった。
丁寧語のルレウは、妙に新鮮だ。
ルレウは私を見て、ゆっくり頷く。
「では失礼いたします。
黄昏の統治は専制型ではない。
即ち、私ども赤誠や黒風のように、力のある一チームが全体を束ねる形式ではないとお見受けします。
その代わり、民主的に――多数のチームが政治的に機能し、全体意見を募ってまとめあげることができている」
10人中、7人が大なり小なり頷いた。
民主派が多そうだ。よし、この路線でいく。
「私はこれまで、主にルレウ・シエファと話して進めてきました。
しかしこのやり方は、黄昏の民主的な要素に照らして正しいとは言い難い。
改めて見つめ直す必要があると考えます」
多くが真剣な目をしている。
この疑問は、彼らの中にも元々あったのかもしれない。
「先ほど白刃の代表と、この合意書を交わしてきました。
ここにはハクレイの名も刻まれています」
私は合意書をテーブルへ置いた。
黄昏以外、全色の代表サインが並んでいる。
黄昏の面々は動揺の声を漏らした。ルレウも例外ではない。
デュナメイオン開始から、まだ三日。自然な反応だ。
「この合意書の重点は二つ。
『安全保障』と『民主的な振る舞い』です。
初齢が団結すれば危険は減り、フィジカル弱者は安全になる。
そして、この"対等性"は、黄昏のような民主的組織にとって追い風になるはずです」
ここで、挙手する者がいた。
背に羽のある、鳥族らしき人物だ。
「カルテイン。どうぞ」
ルレウが名を呼び、掌で促す。
「カルテイン・グニティエルと言います。
アテラ殿が考える、この合意書の“各首長目線”でのメリットも教えていただけませんか」
面白い質問だ。
私の能力を測りにきている――そう感じた。




