表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/110

57.動物

視線が、私の全身のあらゆる部位に刺さっているのが分かる。

だからといって、全部を話す必要はない。


「ルレウとの会話のことなら、話す気はありません。

 彼女が望んでいないので」


それを聞いたメイは首をかしげた。


「あ、あのさ……過去のことは分からないけど、

 チャームで同色をコントロールするのは、さすがにダメなんじゃないか……?」


さっき私が「過去の話をした」と言ったのを覚えていての発言だろう。


「そりゃ禁忌行為で、自色への裏切りに当たるかもな」


ムイがそう続いた。


"味方にチャームをかけてはいけない"というルールは聞いていない。

問題は、かけた側の動機、解けた後にどう感じるか──。


「黄昏の人たちからしたら、ルレウのチャームは予期せぬもの。不正の印象は拭えません。

 けれど思い出してください。

 

 そのおかげで黄昏棟は初期にまとまった。


 さらにルレウは、仲間を身を挺して助けに行きました。

 チャームは解いてもらうとして、"裏切り者"なんておかしいです」


「それは、アテラの“結果論”だね。

 ルレウが自分の心を満たすために、チャームをしたかもしれない。

 “黄昏のため”というのは、後付けじゃないか。──そう感じたら、皆は納得しないよ」


……その通りだ。

私に情がないかと言われれば、たぶんある。

『そうあってほしい』という気持ちが、現実をねじ曲げようとしている。


ナズナが、わざとらしく傍観者の顔をする。


「あらまあ。黄昏さんは、どうなっちゃうのかしらね」


この件は、ナズナが意図的に漏らしたはずだ。

それならば、巻き込んで知恵を得られるかもしれない。


「ナズナ。あなたは黄昏のルレウをどう思いますか。

 もし彼女が、私たちと一緒にここへ来たら信用しますか?

 それともハクレイみたいに門前払いですか」


「アテラ、あなたは……。まあいいわ。ルレウはいい子よ。

 ハクレイたちみたいな蛮族と比べたら、かわいそうだわ」


「同盟の合意書にサインできるほどですか」


「ふふふ。そうねえ。

 あなたたちと一緒に来たなら、サインできるかしら。チャームの事実を知っていたとしてもね」


――1票。


「ラニュとセーラムも同じ考えでしょうか」


「ラニュヤよ」


「失礼しました、ラニュヤ」


「もちろんよ。あなたたちと組む“面白み”は、何物にも代えがたいの」


「我は二方に従うのみ」


この三人は判断が中立。とても助かる。


「これが答えではないでしょうか。

 私たちが黄昏に“ルレウの安全”を求める。

 黄昏も無下にはできない」


「それ、ある種の脅しなんだよね。いい手ではあるけれど」


チターナがそう納得したところで、場は静まった。


これでいいんだ…。


「では今、ルレウと一緒に来たと思って――合意書にサインをいただけますか」


「アテラは本当にルレウのことが好きなのねえ。応援しちゃうわ」


不本意な言葉。今は流しておく。

ナズナは、鼻歌を歌いながら合意書に署名し始めた。


そして私に手渡す時、しゃがんで口を開いた。


「あとで私の部屋に一人で来なさい。お嬢ちゃん」


……お嬢ちゃん。

つまり、知られている。どこまで――?


「さあ、お昼すぎだし、スイーツでも振る舞おうかしらねえ」


「スイーツあるの?……」

「スイーツ、いただけるのですか……」


リーネとウイが小声で反応する。

他のみんなも、期待を隠せない顔だ。




「さあ、こちらへ」


別室に案内されると、そこには様々なお菓子が並んでいた。

クッキーのような素朴なものもあれば、フルーツ入りのケーキのようなものもある。


豪勢すぎて、毒物か何かを疑いたくなる。

だが、真っ先にオファが食べたことで、みんなの警戒心は一気に薄れた。


私は皆が食べ始めたのを確認し、『お花摘み』と言って部屋を抜ける。

言われた通り、ナズナの部屋へ通された。


「いらっしゃい」


「どうも、お邪魔します」


ナズナは紫とピンクが混じる派手髪で、部屋もまた派手だった。

メイの派手さとは種類が違う。こっちは“本気”の派手好き。

装飾はギラギラしていて、高級感というより威圧感がある。


「さぁて。私があなたたちと即合意した理由を聞いてもらうわ」


「はい。ぜひ教えてください」


どうくる…

“面白いから”だけで動く人間ほど怖いものはない。


「終齢層に“女帝”と呼ばれる人がいるの。その人、あたしのママなのよ」


「じょ、女帝……」


おかまの親玉みたいなやつだろうか。


「ママはお店一筋でね。

 こんな表世界のエリートが集まるデュナメイオンなんて、やる人じゃなかったの。

 でも――ハクレイに似たオレオレ野郎に惚れて、ここに来ちゃったわ」


「えと……色恋、ですか?」


「そうなるわね。夜の世界の女帝も、一人の女だったってわけ」


オレオレ野郎、って……。

女帝の意味が分かって、私の興味は少し冷めた。が、今は合わせる。


「女帝を正気に戻す、ということでしょうか。ぼくたちにできますか?」


「あの男の一番恐ろしいところはデュナミスじゃないのよ。

 デュナミスなら解けるのに」


……それ、純愛では?


「もし女帝が戻らなかったら?」


「あたしの帰るお店がなくなるのよ。

 だから、攻撃性と魅力があるあなたたちの出番ってわけ。

 アテラのえぐい性格、きっとドンピシャ。

 それにウイって子も、ビジュでいい線いけると思うわ」


ビジュが大事なのか大事じゃないのか、よく分からない。

とりあえず受けておく。


「分かりました。やれるだけやります」


「女帝は必ず男に会いに来る。男――セシザは中齢にいるわ。

 中齢攻めの時に、蹴散らして頂戴」


「……蹴散らすって」


「女は強い男が好きなのよ。あなたなら分かるでしょ?」


分からん。私はそんな動物的になりたくない。

というか、ナズナ自身が動物的に強そうだ。


「ナズナはセシザを倒せますか」


「ダイレクトねえ。

 私は包含属の“体力食い”。倒すと相手は虚弱体質になる。取り返しがつかないのよ」


包含属。初めて聞く。

つまりナズナは、他人の体力を食って生きてきた――不可逆な効果を伴って。


私は一つ確認する。


「ところで、ナズナは私が“女”だと、どこで知ったんですか」


「察しはついてるでしょう?

 セーラムが、あなたとルレウの会話を盗聴したのよ。

 でも身体と心が違う人にしては、ずいぶん安定してるわね」


……そうか。盗聴は“言葉”だけ。

身体の大きさまでは分からない。

ムイも同じ。


なら今のところ、追放の危機は――ルレウさえ口を閉ざせば回避できる。


「盗聴も、ルレウと同じで不正の要素を感じます。

 このことは内密に。私は完全な男として扱ってもらって構いません」


「ふふふ。いいわ」


罪悪感が心を削る。

だって私の変化こそが、完全黒の不正なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ