52.初齢統一
私は「肉を食べすぎて眠い」と理由をつけ、先に男子部屋へ戻った。
そして、変化の重ねがけを始める。
『157』……『158』……『178』
とりあえず21回。まだ続けられそうだ。
休憩も兼ねてシャワーを浴びる。
止めた瞬間、外から声が漏れてきた。
「いいねー」
「とりあえず当たって砕けるかな、私なら」
「恋々で聞くのもありかもなあ」
「……」
「えげつねえなそれ、はははは」
酔っ払いの不穏な会話。だが今は気にしない。
私は考える。
デュナミス量が時間で回復することは分かっている。
ただし、誰もが“時間あたり同じ量”回復するわけではない。総量が少ない者は少しずつ、総量が多い者は割合ぶん多く戻る。
私の場合――
息が切れるのは消費が60〜80%くらいの状態。そこから2時間で全快する。
0まで使うと気絶し、3時間ほど眠ってしまう。
体感では20分で10%くらい回復している。
これらを踏まえると、寝ていようが動いていようが『時間あたり一定量が回復している』と考えられる。
シャワーを出て、もう一度重ねがけ。
……『199』。
息が切れてきた。
2〜3時間寝て、起きたらまたやろう。
明日までに、あと4セットはいけるかもしれない。
……。
周囲は真っ暗で静かだった。
寝すぎて眠れないと思っていたのに、デュナミス切れは普通に眠れるらしい。
オートマトン時計を見る。3時間半が経過していた。
目覚めるとすぐ、また自分にデュナミスをかける。
45回で息が切れた。
(もう少し早く起きるイメージで……)
その狙いを繰り返し、結果的に二度起きて重ねがけができた。
『334』――だいぶ戻ってきた。
そして、また寝る。
次に目が覚めたとき、空は明るくなりかけていた。
腹が減った。
冷蔵室に昨日の肉の残りがあったので食べ、棟の外へ出る。
今日はランキング更新を見逃せない。
昨日は日の出の時刻に更新された。なら、あと30分ほどだろう。
澄んだ空気の中、林の奥をぼんやり眺めていると、数人がこちらへ向かってくるのが見えた。
……ハクレイたちだ。
来るの、早くない?
近づいてきたところで、私は手を振った。人数は三人。
「アテラ、やはり待っていたか」
「やっほー、おちびちゃん」
待っていたか? いや、私はたまたま起きただけ。
この時間にきたのは、投資ランキングを一緒に見たいからだろうか。
「ハクレイ、昨日は休んでいる者が多くて、あまり投資を集められませんでした」
「そうか。こちらは青月と白刃に行ってきた」
「ちびっこのために一肌脱いだんだよ。感謝しろ」
……なぜだ。
ハクレイが頑張れば頑張るほど、結局チームアテラに投資が集まるのに。
「不思議そうな顔だな。約束通り、3層制覇の合意に来た。ついでに新しい依頼もある」
「はい」
合意の意思が固まったのはよいこと。
一方、“新しい依頼”は不穏だ。
「青月のレーテ、サミャー。白刃のナズナ、ラニュヤ、セーラム。
こいつらのデュナミス値など、分かる情報を調べてこい」
「…分かりました」
「素直すぎ、こわ」
折角快く即答したのに、桃銀髪女のノイズが水を差す。
「昨日から、ハクレイ以外のお二人は失礼じゃありませんか」
「ふ。こちらがミュミテ、こっちがシュゼだ。失礼なのはこいつらの育ちが悪いからだな」
ひどい紹介だ。名誉棄損とかない世界なのかな?
「ぼくも捨て子で育ちは良いとは言えません。育ちのせいにしないでください」
「じゃーアテラって呼んでやるよ、ちび」
「よろしくね、アテラちゃん。……あ、頭に自己紹介出た。おもしろ」
──ランキングが更新されました。
ミュミテの言葉とほぼ同時に、空から声が流れた。
私はハクレイの頭上を見る。
ハクレイ・シラハ
被投資スコア 1320(+870)デューン
投資価値 +136
層順位 2/98
……伸び方が異常だ。
続けて、自分の頭上を見る。
アッティラ・ラシュターナ
被投資スコア 1180(+960)デューン
投資価値 +288
層順位 1/98
……え。
私たちが勝ってる?
「えと、これは……」
「お前たちの勝ちだ。
このプログラムは、同格なら“先に信用した方”が勝つように作られている」
「まだ投資は集めますので……」
「気にするな。
この数字は黒風に広まる。投資はもっと集まる。
今の初齢の盟主はお前たちだ。異論はない」
「よかったね、アテラちゃん」
あまりにあっさりしている。
強欲なギャングの印象だったのに、これでは人情ヤクザだ。
「それより、各色の首長を選び、中齢層攻めの打ち合わせを始めるべきだろう」
……そうか。
黒風は中齢層に最も近い。
小さな勝ち負けより、目の前の強敵への備えを優先する――これは純粋な利害一致。
「分かりました。調査はお任せください」
「同意はや。下僕ポジかよ」
ミュミテの茶々を無視し、ハクレイは無言で合意書を取り出した。
私はそれを受け取る。
合意書
下記に名を記す者は、赤誠・青月・黄昏・白刃・黒風 各々の首長であることを宣言し、相互に承認する。
以下について記名をもって合意したものとする。
・初齢層における記名のある他色との同盟
・同盟国の安全を保障する
・全年齢の制覇を目指す
・初齢首長会議における決定に従う
赤誠
青月 レーテ・シンキュイン
黄昏
白刃
黒風 ハクレイ・シラハ
予想を超えてきた。
ここまで下準備を整えていたとは。
私の話を、ハクレイはほぼ100%信用して動いたのだろう。
「今すぐサインしなくていい。黄昏の説得はお前に任せる。
10日以内に、調査結果と一緒に持ってこい」
10日――初日の黄昏攻撃、即日夜襲、三層制覇の一日決断をやったハクレイにしては長い期限だ。
きっと“全員揃えた形”を求めている。
「あわよくば白刃のサインも、と思ってますか」
「察しがいいなガ……アテラ」
あ、シュゼが“ガキ”と言おうとした。
「白刃とは相性が悪かった。お前が無理なら、強硬手段に出るまでだ」
「おかまのご機嫌取りはメンタル終わるて」
強硬手段なんて、分断を生むだけだ。
……仕方ない。やってやる。
でも、ただじゃ面白くない。
「もし私が全員分のサインを揃えたら、
その失礼な二人が敬語になるよう矯正してくれますか」
「ふ。いいだろう。やってみろ」
「おいハクレイ、勝手に決めんな」
「おちびちゃん、イキってんねえ」
この二人、敬語がそんなに嫌なんだね。
もうハクレイが操作してやればいいのに。
「約束ですよ。そろそろみんなが起きるので戻ります。それではまた」
私はストレスが限界になる前に帰ることにした。
半ば逃げるように棟へ戻る。
「……そっちこそギャングです!」
棟に入る直前、そうミュミテの声が背後から飛んできた。
私は振り向かずにそのまま歩いた。
でも、自分の耳が熱くなるのを感じた。




