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51. 肉パーティー

……チーム部屋の入口扉が開く音で目が覚めた。

隣で寝ていたムイも、ほとんど同時に起きたようだ。周囲は薄暗い。


「アテラ、ムイ、収穫があるよー」


共通部屋からチターナの声が響く。


ムイが立ち上がり、男子部屋を出ていった。


「ふぁーい」


「うわ、髪やば。寝てたんだ」


「チターナ、収穫って?」


「すぐ見せるよ。アテラは?」


「もうすぐ起きてくる」


「呼んで呼んで」


少し開いた扉の隙間から、ムイとチターナの会話が聞こえる。

……行かなきゃ。


目をこすりながら、私も部屋を出た。


「おはよう」


戻ってきたみんなに声をかける。


「おはよう」「おはよ」「おはよう、寝てたのか」


「おはようアテラ。これ見て見て」


チターナが指さした先には、ずらりと並んだ肉の数々があった。


「おお……おいしそうですね」


「これが巨兎、これが瓜牛、こっちが厚羊……」


聞いたことのない動物ばかりだが、肉の色つやは美しく、見るからにうまそうだ。


「こんなところで高級肉が食べられるなんて、嬉しい誤算だね」


「プログラムのランキングで配給が変わるんだ。

 こんな豪華なら、競争が激しくなるのも納得だよ」


メイとウイが言う。

企業主導のプログラムなのだから、成績優秀者が好待遇されるのは当然か。


棟による偏りはあるのだろうか。


「どこの棟でもらえたんですか?」


「黄昏棟、四棟、赤誠棟。それぞれ違ったよ。

 色々回った甲斐があった。昼だけの食堂もあったしね」


リーネが答える。

どの棟でも配給があるというのは、メイラ先生の言っていた通りだ。


「さあ、焼くぞー。食べられない肉があったら言ってね」


置かれた道具を見る限り、焼肉だ。

この場で焼肉……贅沢すぎる。


良い肉なら、やはり焼くかステーキになる。

ワヒー(カレー)や鍋に放り込む文化じゃなくて本当に良かった。


リーネとムイが調理を始める。

リーネが下準備をしてくれるなら、成功は約束されたようなもの。

わくわくしてきた。


……そういえば、メイは戻っている。


もし記憶が戻っていたら、私の変化デュナミスのことも伝えられてしまっているだろうか。


「メイ、記憶のほうはどうですか」


「戻らないね。

 普通、干渉系の行動操作は“喋る”“歩く”みたいな単一指令だけど、

 ハクレイのは身体ごと乗っ取ってる。相当な強さだ」


少し安心する。

同時に、意思を完全に上書きするハクレイのデュナミスの恐ろしさも理解した。


「明日、ハクレイが来るって言ってたね」


メイが切り出す。


「一緒に肉を食べたら、少しは丸くならないかな」


「それ、いいですね」


チターナが賛同する。

あの性悪な性格が丸くなるなら、試す価値はある。


突然、メイがむき出しのお腹をぽんぽん叩く。


「アタシのお腹も丸くなっちゃう」


「そんなに引き締まってるんだから、少しくらい丸くなれ」


「ははは。じゃあ、この肉をお腹いっぱい食べていいってことだね。

 心苦しいけど、了承したよ」


「うわ、メイがアテラみたいに狡猾になってきた」


前よりも仲が良くなった二人のやり取りが微笑ましい。

……応援したいけど、ムイのことを考えると……いやまあ、いいか。


「リーネ。

 リーネの“本音を言わせる”デュナミスって、本人の意識は残ってるんだよね?」


前から気になっていたことを聞いてみる。


「うん。強く抵抗されると、消費もすごいけどね」


「話させられないことはありますか?」


「時間をかければ大丈夫」


やはり凶悪だが、意思の力で防がれる余地はある。

一方、ハクレイのは意思を無視する。

似ているようで、根本が違う。希少種は別原理なのかもしれない。


「またアテラ、物騒なこと考えてるでしょ」


「ハクレイのデュナミスは脅威です。

 あれは本気じゃなかった。

 その気になれば、私を起点にチーム全員を主従リンクさせることも可能かもしれません。

 対策が必要です」


ポリコレスコアを知られていたら。

私に謝罪させ、主従リンクを張り、最後に私を操作する――それで全滅だ。


「メイを取られたときのアテラとムイ、すごかったよ。

 黄昏のルレウって子が嫉妬するくらい」


チターナが当時を振り返る。


私の記憶では、ムイの感情もあったが、チターナのほうが切れていた気がする。


「一番怖かったのはチターナです。

 “さらわれた”って言った瞬間の顔、完全に鬼でした」


「え、そんなだった?」


「一秒でも早く行くんだろ、って圧がすごくて。

 同じ気持ちでも、差を感じました。あんなチターナ、初めて見ました」


「えー、もっとかわいく怒ればよかったなー」


メイは黙って俯いている。

きっと、嬉しいのだろう。


ムイも嫉妬することなく、納得したように笑っている。


「……みんな、ありがとう」


メイがいつもより小さな声で言った。


「必死だったよ。

 でも、ハクレイが“メイはチーム最強”って言ってて、悔しくなった俺もいた」


「ムイは下から数えたほうが早いよね」


「はい。

 陽動で石投げしたら、これくらいしか飛びませんでした。がっかりです」


笑いが起こる。

誰もムイに気を遣わない。


私は、そっとムイの背中を撫でた。


……そうだ、ムイに聞きたいことがあった。


「そういえばムイ。

 黒風に行くとき、あれだけ起きなかったウイを耳打ちして起こしたけど、何て言ったんですか?」


「ああ。『噛むぞ』って」


「うわ、そういう関係〜?」


チターナが即座に反応する。


「俺、狼族で噛み癖があってさ。ウイ、トラウマなんだよ」


「幼馴染なんだっけ?」


「そうそう。年は離れてたけど、かわいいやつでさ」


「美形だし、小さいウイはアテラを白くした感じだよね」


「そうそう、小さい俺がアテラに噛みつくイメージ」


メイとチターナがニヤニヤしている気がする。


「な、ウイ」


「か、噛むのはやめてください……」


「本当は、たまには噛んでほしいみたいですよ」


噛んでほしいって意味に聞こえたので言ってあげた。


チターナを見ると、ウイに目線を送り、こちらに戻してウインク。

これ以上焚き付けるのはちょっと…。


その後の焼肉パーティーは大いに盛り上がった。


色々あったが、今は全員が無事で、初齢3位、チームの雰囲気も良好。

幸先が良い、と言って誰も異論はないだろう。


ただ私は、重ねがけ枚数を削っている“犯人”を見つけられていないことに、焦りを感じていた。


私にとっては生死の問題だ。

犯人でないハクレイは、むしろ安全。


……そんな考えを、静かに深めていた。

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