表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/110

4.お母様とお父様

それから一ヶ月が経つ。

懐妊の話から、おそらく四か月ほどになると、

お母様のお腹は、スイカくらいに大きくなった。


会話を聞く限り、あと三十日以内に生まれるらしい。

人間よりずいぶん早い──時間が迫っている。


私もこの一ヶ月、指を咥えてはいたが、待っていたわけではない。

逃げるための一歩として、単語によるコミュニケーションを遂げた。


「マーマ、マンマ」


「あら、さっき食べたばかりじゃなかった?」


「マンマ、マンマ」


「食いしん坊さんね」


もともとお母様は自分のことを『ママだよ』と言っていたので、『ママ』は間違っていない。

『マンマ』は適当だが、ごはんの意味として通じている。


「ナーナ、ンーンー」


「よーしよしよし、ちょっと待ってねー」


『ンーンー』はトイレの合図だ。

毎回、漏らす直前にこれを言うようにしたら、お父様はきちんと理解してくれた。


そう。

私はもう、パンツを汚さない優等生である。


─ええと、そう思っていた時期が私にもありました。



「最近やっとエンニがしゃべりだしたわ。やっぱり四半獣は成長が遅いのよ」


「仕方ないよ。猫族も犬族より少し遅いって聞くし、犬の半獣と比べるのは酷だ」


……。

そういうことですか。


喋るのすら遅いということは、

腰の据わり、ハイハイ、直立、トイレ――

丁寧に成長を演じてきた私の努力は、すべて無意味の烙印が押されたということ。


うぅ……。

これまでの、恥を忍ぶ努力を返してほしい。


……いや。

死なないための用心だったし、ちょっと心地よくもあった。

仕方ないとしよう。


先ほどの会話から察するに、私は「猫族の四半獣」という分類らしい。

確かに耳は猫っぽいし、人間に比べればやや毛深い。


そして、犬顔が過ぎるお父様とお母様が半獣――

つまり獣の割合が多いというのも、納得がいく。


もしかして、あの超能力のような力は、猫族だけの特権なのだろうか。


もう遠慮はしない。成長しよう。脱出しよう。


できれば、あの時見た超能力のような、生きるのに有利な力が欲しい。

その日は、物を浮かせるイメージをしたり、踏ん張ったり、色々試した。


……だが、超能力は出ない。


翌日、お父様とお母様が留守にした隙を見て、さっそく外を偵察する。


やはり、ここは猫だらけの世界だ。

家から百メートルほど歩いてみたが、隣人は見当たらず、やや孤立している印象を受ける。


ただし、僻地というほど集落から離れてはいない。


私は脱走ルートを探した。


集落へ逃げるか。

それとも、別の集落まで行くか。


別の集落へ行く手段として有力なのが、荷馬車だ。

今は動いていないが、集落規模に対して農園が明らかに大きい。

おそらく、食料を他所へ運ぶために使われているのだろう。


その後、居座れる場所の確保も考えておきたい。

まずは社会を知る必要がある。


──二足歩行を会得したエンニは、

親の庇護という名の牢を破り、

少し遅れて「後追い」というものを経験した――。


そう恐怖を言いくるめ、冒険を開始する。


体力的に行けるところ。最も近い家。

その猫族の家の前を、よちよちと歩く。

とにかく見つけてもらわないと。


だが、お父様とお母様は三日に一度ほどしか外出しない。

近隣は閑散としており、

一度目は体力が尽きても誰にも会わなかった。


二度目、収穫なく帰ったところで、額に強い痛みが走る。

そして、痛みは数秒ほどで収まった。


…1つ、確信したことがある。

額が痛む時、異能が働いている。──それは危険が迫った時の"お知らせ"だ。

最初の森、お母様の懐妊、お父様の叱咤、そして今回も。


そして、痛みの後は"うまくいく"という共通点。

危険が勝手に通り過ぎる。まるで私が世界を捻じ曲げているように。

副作用は…今のところわからない。



案の定、三度目の外出で私は発見された。


見つけてくれたのは、猫族の中年男性だった。

遠くから、こちらを見ている。


私はとりあえず、よちよち歩きで逃げる。

男性は驚きつつも、慌てず、ゆっくりと追いかけてきた。


「おーい」


そう呼んでくる男性をうまく誘導し、犬族の家に入るところを見せる。

すると彼は、頭を掻きながら、そのまま帰っていった。


彼の危機感のなさから察する。

犬族が猫族の赤ん坊を育てていることは、きっと異常事態ではないのだ。


これで表向きは波風立たない可能性が立った。

しかし、このまま受け身では間に合わない。


…もはや直接家まで行くしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ