44.ウイのカンニング
手紙を読み終えてしばらくすると、ウイがシャワーから戻ってきた。
「出ました。アテラ、どうぞ」
「はい」
交代でシャワーに入る。
シャワー室の中まで、外からみんなの大きな笑い声が聞こえてきた。
お酒って、そんなに人を楽しくさせるものなのだろうか。
湯を浴びながら、さっき読んだメイラ先生の言葉が頭をよぎる。
――信用でき、かつ、見捨てられる仲間と組め。
もう組んでしまったが、今の仲間はどうだろう。
もしメイが危機に瀕した時、私は危険を顧みて見捨てられるだろうか。
チターナ、リーネ、ムイ、ウイ……たぶん全員、無理だ。
「みんなで成功」。それが許されないプログラムは、いずれ来る。
今までみたいに奇抜なアイデアで切り抜けられるだろうか。
せめて、自分のデュナミスが何なのか分かればいいのに。
シャワーから出ると、ウイが手招きした。珍しく、表情が硬い。
「昨日、皆と食事した後……どうしても気になって、やってしまいました。
それで、アテラは知っておくべきだと思いました」
「……何を?」
ウイは淡々と数字を口にした。
「ムイ性別0、ウイ性別25、チターナ性別55、リーネ性別70、メイ性別45」
一瞬、息が止まる。
「……性別のスコアですね。全員バラバラ。しかも私は、自分の数字すら見えなかった」
念のため確認すると、ウイは小さく頷いた。
「ええ。アテラは一度で見れませんでした。
隠したい方もいるはずなので、その場合は勝手に調べないようにしています」
助かる。私は苦笑いで返した。
ウイは続ける。
「メイ達の言動から、アテラが見かけ通りではないことは分かります。理由は聞きません。
そして……試験の得点が高かったアテラなら、この数字が何を意味するか分かりますよね?」
私は頷いた。
私は昔から、恋愛話が嫌いではなかった。
人間関係を恋愛に置き換えて仮説を立てるのが、ちょっとした癖でもある。
チーム内の関係性を、私は勝手にこう見立てていた。
ムイとウイは仲が良く、下手をするとゲイ説もある
チターナは私に絡むが、実際はイケメンのウイが気になっている
リーネはチターナに絡まれたい嫉妬があると思っていたが、最近はなぜか私に執着がある
メイは自分より男らしい男が好みで、恋愛対象がいない
だが、ウイの数字で状況が一変した。
ムイ:性別0 → 「女が好きな男/男でありたい」(いわゆるストレート男性側)
ウイ:性別25 → 「男が好きな男/男でありたい」(ゲイ側)
チターナ:性別55 → 「どちらでもいける女/女でありたい」(バイセクシャル側)
リーネ:性別70 → 「男が好きな女/女でありたい」(ストレート女性側)
メイ:性別45 → 「女が好きな女/女でありたい」(レズ側)
そして私は――
「男が好きな男/女でありたい」。デュナミスでなければ、性同一性障害として判断される領域だろう。
結論として、ムイとリーネ以外はLGBTQ側で、私もそこに含まれていた。
整理が進むほど、関係の見え方が変わる。
ウイは本当にゲイで、ムイは違う。
もしウイがムイに好意を持っているなら、かなり苦しい片想いになる。
チターナはウイ、そしてメイなども恋愛対象になりうる。
リーネがチターナを好きという線は、かなり薄い。
そして私が「身体も女になるつもり」と言えるなら、リーネに気を遣う必要もなかったのかもしれない。
……ついでに言えば、メイはチターナが好きな可能性がある。
メイとチターナがくっついてくれたら、チターナの私への絡みが減るかもしれない。
それは、正直ありがたい。
「ウイ、ありがとう。どうして教えてくれたんですか?」
「アテラがリーダーだからです」
「……そうですか。ウイにそう思われているなら、頑張らないといけませんね」
ウイは小さく微笑んだ。
彼は意外と、ちゃんとしている。
眠りにつこうとする中で、私はもう一つの問題に戻った。
変化のデュナミスが、なぜ削られていたのか。
基本的に『相殺』を起こせば、どんなデュナミスでも削れるはずだ。
第一、ウイの干渉、メイの増強
ウイは「性別や年齢と関係ないスコア」は相殺せず貫通する、と分かっている。
メイも相殺が起きたとしても一度だけ。
どちらも試みている可能性はあるが、そこに全力を使う理由が薄い。
第二、リーネやルレウの干渉
ルレウのクモ共有は機能していた。つまり相殺が起きていない。
何か悪巧みがあるならともかく、味方に重い干渉を撃つのは考えにくい。
第三、第三者の攻撃
第三が一番自然だ。
仮に第一と第二で削れたのが合計50枚程度だとすれば、残り約300枚。
そんな量を削れる場面が、今日あっただろうか?
思い当たらない。
となると、「高スコアの誰か」が一気に削った、と逆算するのが妥当だ。
ハクレイか、あるいは別の何者か。
――もう猶予は少ない。
明日はこまめに残枚数を確認しなければならない。
私は太腿の内側の数字がすぐ見えるよう、ズボンのすそを短パン風に切っておいた。




