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42.反省会

長い一日を終え、私たちはようやく赤誠の棟へ戻ってきた。


返り血のついた服のままでは、同色内での信用に響きかねない。私はすぐに着替えることにした。

デュナメイオン備え付けの服はいくつかパターンがあったが、子供用はほとんどない。


私は唯一あったユニセックスの少し古びた子供服に着替えた。

皆もそれぞれ違う服に着替えるが、ウイだけはパジャマ姿だった。いつでも寝られるように、ということだろうか。


時刻は夕刻過ぎ。赤誠のチームは各々食事のため部屋にいる。

私達はその中の1チームから、ムイが合意書を紹介した恩ということでご馳走になった。

その時に酒まで分けてもらった。


この世界では16歳が成人だとノアテラが言っていた。

つまり――私以外は全員飲めるということになる。


「さぁ、二次会という名の反省会を始めましょう」


部屋へ戻るなり、チターナが仕切り始めた。皆が円になるように座り、中央に酒とコップが置かれる。


「初日なのに動きが多すぎて、整理できてないから助かる」


ムイが言う。君は重要場面を抜けていたから気楽だよ、と心の中で突っ込む。


「議題を各自出していこう。年齢順で、私から」


チターナはそう言って、立ったままの私を隣へ座らせた。


「1.アテラのドス黒さへの尋問と、皆の見解」


……やっぱり来た。

私の倫理観への疑念だ。答え次第では、かなり危険な空気になる。


「じゃあ俺。

2.黒風の動向予測と対策」


それこそ本題だ。ムイの方向性はいつも私の味方で助かる。


「アタシも2かな。アテラが嫌じゃなかったら、1も少し気になる」


メイまで……。

ただメイは純粋に正義感が強い。私も同じだ。大丈夫、のはず。


「私も2と1。2を主題にしますが、1にも関係する情報がありますので」


ウイが言う。

どんな情報があるというのか。ウイは基本的に私を疑っていないはずなのに。


「えと私は、

3.アテラとルレウという女の関係性」


リーネは論外。とはいえ害の少ない議題ではある。


最後に自分の番。私は、今後のために“けじめ”をつけておきたい件があった。


「4.チターナがぼくにキスをしてきたことの、みんなの見解」


「あら、気にしてたんだ。アテラって結構うぶなんだねえ」


メイがくすくす笑う。

メイ、あなたの正義感はこういう時には働かないのか。


「さて、何番からやる?」


「私からよいでしょうか」


ウイが言う。寝る前に済ませたい空気が伝わってくる。皆も頷いた。


「リーネ・バーストの時、黒風側の最大値を探しました。スコアは-199。希少デュナミス持ちで、総量も高いと見られます。クレーター脇でうずくまっていた銀色長髪の男でした。


仮にこれがハクレイだとすると、正規デュナトスTier2相当。本デュナメイオンでも上位クラスです」


ウイの多弁さに、危機感がにじむ。

また、私の-220がどれほど異常か、改めて分かる。中身がポンコツでも数値は怪物だ。


「アテラの作戦は、まともな者が思いつく発想でもなければ倫理感もありません。


しかし、アテラの-220が悪魔的な思考源であろうと、それに騙されてでも必要なのは確かです。アテラ、いや我々は、リーネの幻聴でハクレイを死の恐怖に何度も沈めて苦しめたのですから」


「毒を以て毒を制す、だな」


ムイが乗る。

“毒”と言われたのは気になるが、恐怖として扱われるよりはマシだ。


「アテラはそんなじゃないよ。キスされそうになったくらいでこの顔なんだから」


チターナが私の前髪をまくり、皆に顔を見せる。

いま私、険しい顔をしているのかもしれない。感情を隠せ、私。


「あら、さっきまでしかめっ面だったのに辛そうじゃん。ドス黒いとか言ったから難しく考えた?

ごめんね。アテラなりの回答でいいんだよ?」


……また主従リンク。

狙ってやってるのか。しかも距離が近い。


「……正しいと信じることがあって、それがみんなのためになるなら、ぼくはやる。回答になりますか?」


「つまり、これからも自分で何とかできると思うわけだね。アテラほど小さい子で、その類の冷徹さを持つのは本当にデュナミスかもね……」


ウイが頷く。


「支持するよ。正しいと信じることが間違ってなければいいよね。がんばろう」


メイの言葉は重い。きっと誤りを何度も経験してきた人の重みだ。


「正しいと信じるものが何か、見させてもらおっかな」


「アテラのそういうところ、いいと思う」


ムイとリーネ。

リーネはいつも猟奇的な側面を後押ししている気がする。むしろリーネこそ尋問したい。


「……皆、心の底で黒いの求めてるじゃん」


チターナが軽くまとめる。


「はい次、3。アテラとルレウという女の関係性。アテラどうぞ」


本音では一蹴したいが、表情に出さない。


「関係性も何も、第4棟で一緒になっただけです。ルレウから声をかけられて、話す仲になりました」


「人気者だなあ。でもアタシにはアテラから声かけてくれたね」


「どういう風に?」


メイにリーネが反応する。

……まさか、リーネは嫉妬じゃなく私への好意? いや、ありえない。私が女だって気づいてるはずだ。


「カンニングを大声で注意したのが、かっこよかったんだって」


「そうですか……」


「フフッ……」


リーネがもし私を好きだったら、メイの真似をして大声を出すのか――そんな想像をして、思わず笑ってしまった。


「アテラ、今なんで笑った?」


「すみません。リーネがぼくのこと好きなら、メイみたいに大声出すのかなって想像したら……」


「キモ」


「アテラ、それはさすがに性格わるい」


……この反応。

リーネに気がなかったら、ここまで冷たい返しにならないのでは。背筋が冷えた。


「すみませんでした」


「アテラ気にするな。男風情が女の気持ちを分かろうとするのが傲慢ってもんだよ」


「そうそう。でも汲んであげる努力はしてね、ムイ」


ムイとメイが会話を始める。

この二人はテンポが合いそうだ。


「じゃあ最後。私がアテラにちゅーしようとしたこと。

アテラがかわいくてしました。今もしたいと思っています。みんなの見解をどうぞ」


開き直りが強い。

この世界のハラスメントは厳しくないのか。


「みんなしていい。ってだめかな。ほっぺだし。子供だし。俺はしないけどね」


「う、うん」


ムイとリーネ。

リーネが許したならこのまま解決してしまう。硬派はいないのか。


「アテラ以外にするときは慎重にね」


チターナの余計な補足。許されない差別だ。


「ぼくにする時も慎重にね」


「う、うん」


リーネだけ同意してくれた。それなら対等に行こう。


「リーネにも慎重にちゅーしていい?」


「だめです」


結局、私だけ不平等なことになる。

チターナを一泡吹かせたかったのに、だめだった。


そして、色々とうやむやのまま反省会は終わった。

チターナ嫌い。


そして最も重要な黒風のリスク対応は、“悪魔的”と呼ばれた私に一任されたのだった。

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