41.盟約
「ルレウ、すごい傷だよ。みんな無事ですか?」
私は半ば意識的に、まず情報を得ようとして問いかけた。
「そっちも血だらけじゃない?
でも大丈夫、こっちは何とか無事だった。怖かった〜」
「向かったのですが、あれだけ攻勢をかけたあとで黒風の大群に捕まるわけにもいかず……血は黒風のもので……」
ルレウが無事だと分かった瞬間、胸の奥の緊張が一気にほどけた。
本当によかった。
「そこまで来てたんだ。あと少しだったね。
私は、その大群と少し戦闘してたんだよ」
確かに、ルレウたちと私たちに挟まれる形で、数十人規模の集団がいたとメイは言っていた。
「あの人数相手に無事なんて、すごいね……。
クモが反応したから助けに行きたかったんだけど……」
「連絡、気づいてくれてたんだね。
実は交渉の途中で、別チームが人質解放を始めちゃって。
取引のカードを失った相手が逆上して、私たちを捕まえようとしてきたの」
「それで戦闘に?」
「うん。でも、すぐにものすごく大きな音がして、双方引いたんだよ」
……ルレウ、ごめん。それ、全部私たちだ。
「人質解放も、大きな音も……私たちです」
「本当?
盗聴だと、その音で六人チームが壊滅して、さらに主力の二チームが音信不通か負傷って聞いてるけど……」
盗聴――ウイの観測属デュナミス系統だろう。
結果的に、リーネ・バーストがルレウを救った形になったらしい。
ここは……結果良しということにしておこう。
「最初にエルイーナさんのチームを襲ったのが、その六人チームです。
他にも仲間がいると分かったので、次の二チームにも打撃を与えました」
私は、沈黙を守っているチームアテラの面々をちらりと見ながら説明した。
「アテラたち、すごく強いんだね。
その二チームのうち一つには、ハクレイっていう黒風の半数近くを束ねるリーダーがいて、その人も負傷したみたい」
「それで?」
「私と交渉していた副リーダーのユスティアが、
『後日決着をつけよう』って言って引いたの」
「なるほど……。
ルレウが大群を足止めしてくれていたから、四人を救出できたんだ」
流れは、すべて理解できた。
残るのは――今後の方針だ。
私は振り返り、少し見上げるようにみんなの顔を見る。
共有はしているが、現場を直接見ていないムイは状況整理中。
チターナは、明らかに何か言いたそうだった。
「チターナ、よかったら提案を」
チターナは、珍しく深く頭を下げた。
「はじめまして。チターナ・ドルフォナと申します。
ルレウがアテラを抱き上げる権利については、合意しても構いません。
ただし、それだけでは不平等です。
対価として
『チームアテラは黄昏の棟を自由に行き来でき、黄昏と同等の扱いを受ける』
この盟約を求めます」
「それは……皆の意見を聞かないと……」
幹部らしきルレウでも、さすがに黄昏全体を独断では決められない。
当然だ。
「では、こちらから歩み寄りましょう。
『頭を撫でる』『強く抱擁する』も追加します。
おまけに
『チームアテラは、黒風との抗争において黄昏として動員できる』
この条件も付けましょう」
「ほ、本当?」
「はい。本当です」
チターナは、会ったばかりのルレウの立場を、意外なほど理解していた。
ルレウはしゃがみ込み、私にも小声で確認してきた。
「……本当?」
私は、力強く頷いた。
特に“おまけ”の方においてだからね。
そのとき、背後から小さく
「ちゅーはだめです」
と聞こえた気がした。
ルレウは、先ほどまでの憔悴した表情から一転、晴れやかな笑顔になり、私を持ち上げた。
「交渉成立です
必ず、この盟約を皆に合意させます」
そう言ったルレウの高めの身長。チームアテラの面々がよく見える。
「同盟かぁ、いいねえ」
「黄昏からの莫大な投資も期待できますね」
ムイとウイは上機嫌だ。
メイは満足そうに頷き、チターナはウインクしてきた。
……一人だけ、リーネは無表情だった。
たぶん、チターナの時と同じ。
誰かに好意を向けられている私を見て、少し嫉妬しているのだろう。
まだ子供だ。後で、なでなでしてあげよう。
話はまとまり、ムイを先頭に黄昏の棟へ戻る。
棟前でルレウと私の顔を見た途端、黄昏の人々が集まってきた。
無事を喜ぶ者。
黒風の動向を心配する者。
ルレウが、私たちの活躍をかなり盛って説明し、
その後、シーケウスや他チームのリーダー格と盟約の話をすると、
全員が即座に同意してくれた。
夕暮れ時、食事に誘われたが、赤誠の動向も気になるため辞退する。
「じゃあ、また明日ね」
「黒風の夜襲もありえます。何かあったらクモで連絡を」
「クモ使ったら、次は黄昏の棟が吹き飛ぶかもね。ふふふ。」
冗談めいたルレウの言葉。
……でも、それは冗談にならないんだよなぁ。
「次は加減を覚えます」
「逆に、もっと威力上がったりして」
「それは、ルレウのクモ次第です」
「アテラの、ルレウへの気持ち次第かな?」
「じゃあ、跡形もなく壊します」
「それって、すっごく大きな気持ち?」
「はい。みんなを傷つける黒風への」
「ふふ、恥ずかしがり屋さん。じゃーね」
「はい。それでは」
いつものようなやり取りでルレウ達と別れた。
「アテラって、八方美人だよね」
帰り際、チターナがぽつりとそう言った。
「……そうかもしれません」
「意外と、そういうの大変でしょ」
意味深だ。
たぶん、リーネの嫉妬のことだ。
……帰ったら、手を打たないといけないな。




