40.責任と確認
「そんな、謝ったらだめですよ。私は赦します」
自己嫌悪に駆られていたのは、本当は私の方だった。
それなのに、チターナに罪をなすりつけるような形になっていた自分が許せなかった。だから私は、反射的にそう口にした。
主従リンクが解けたかどうかは分からない。
「私も、チターナは悪くないと思ってるよ」
「チターナは反射で、みんなを守ってくれました。謝る必要はありません」
「……私も。あのあと、周囲に幻聴を浴びせていましたから……」
メイ、ウイ、リーネが次々と赦す言葉を重ねる。
これは主従リンクの解除――ひとまず落ち着いた、と見ていいのかな。
少なくとも、主従リンクのような対等じゃない関係は、ここで終わってほしい。
不意にそんな思いで場を和ませたくなった。
「チターナ、ぼくが『赦します』なんて言うの、まるで世間知らずのお姫様じゃないですか。お姫様抱っこされてるし。本当はぼくのせいだし。恥ずかしくて顔も見せられません。」
そういって私は顔を隠した。
「メイ、アテラかして」
「どーぞ」
えっと…嫌な予感…。
チターナはメイから私を受け取ると、にやりと笑った。
「お姫様、ちゅーさせて」
……この人、和ませるつもりだったはずなのに、全然落ち込んでない。
距離感がおかしい。
「チターナさん。アテラにちゅーはだめです」
不意にリーネが止める。
チターナは素直に顔を引いた。
「あ、主従リンク使ったなー」
チターナが笑う。
……あれ?
リーネはチターナを赦してない?
「ちゅーは、だめです」
「はーい。リーネ様の仰せのままに」
「みなさん、仲がよろしいことで」
ウイが皮肉のようなことを言う。
……情報量が多すぎる。
ウイは皮肉、リーネは私とチターナの距離が気に入らなくて、
チターナは『主従リンク使った』と知らせて……?
もうだめだ、頭がくらくらする。
「総責任者殿が困ってる。はははは」
メイが楽しそうに笑う。
分かってやっているのか、分かっていないのか。
今、空気は確実にドロドロし始めているというのに。
リーネに嫉妬されないよう、メイがリーネにも抱っこでもしてあげればいいのに……。
チターナが私を見る。
「あのさ。アテラ、シーソー板の事故を見に行く途中、泣いてたでしょ」
「泣いてません」
「涙の跡、見えたよ。
見せないようにしてたのも、全部みんなに伝わってた。
責任はそれで区切り。だから、謝るのは私だけだったんだ」
「チターナは、何でもお見通しだな」
そうか。
メイが言っていたのは、私が泣きじゃくっていた方の話か。
……でもやっぱり、チターナ嫌い。
「一応、朗報を」
ウイが口を挟む。
「恐らくルレウさんらしきチームが、斜め後方からついてきています。
少なくとも、先ほどの“ふわっとした触角”は確認できました」
それは、間違いなく朗報だった。
これで心置きなく黄昏の棟に戻れる。
黄昏の棟に着くと、すでにムイや赤誠の者たちが来ていた。
ムイに近づくと、こちらに気づく。
他の者たちは、わずかに後ずさった。
……恐らく、私とメイについた返り血のせいだ。
「おい、さっきヤバい音してたが大丈夫か?
血も……誰か死んでないか?」
「大丈夫です。誰も死んでいません。
あと、ヤバい音は私たちがやりました。その話は後で」
今はムイより、黄昏への報告が先だ。
私はシーケウスを探す。
棟内にいる可能性が高いため、例によって一人で向かう。
シーケウスは棟内の大広間にいた。
黄昏の棟は赤誠棟と似ているが、構造が少し違う。
赤誠の大広間は入ってすぐ曲がるが、黄昏は直進だ。
「おお、アテラ殿。その血は……。
いや、それより仲間解放の件、感謝する。
無事で何よりだが、ルレウさんの状況は掴めましたかな?」
血については気になるだろうが、今は話さない。
「ルレウは無事です。
事情があって先行していましたが、安否は確認しました。
きっと戻ってきます」
――無事、というのは嘘かもしれない。
けれど、今はそれが最善だ。
「安否確認だけでも感謝する。
クモの反応がなく、黒風棟に到着しているはずの時刻を過ぎても音沙汰がなかったのでな」
……反応が、ない?
ルレウは、私にだけ『助けて』を送ったのだろうか。
「そうでしたか」
これ以上、下手なことは言わない。
その後もしばらく情報交換を行う。
シーケウスによれば、私たちのチームを含め、8チームすべての合意書記名が確認できたという。
赤誠同様、すでに投資交換を終えたチームも多いらしい。
話を終えてチームに戻ると、ウイがすぐに反応した。
「アテラ。ルレウさんらしきチームが、こちらへ向かっています。
先ほどと同じスコアです」
ポリコレスコアで個体を特定できるのは、やはり便利だ。
「参考までに……いくつですか?
他のポリコレ値も見えるのですか?」
「-155、-99、-45、-43、-19です。
ルレウさんが-155。
他の値も見られますが、コストの都合で今回は見ていません」
――見ようと思えば見られる、ということか。
後で詳しく聞こう。
私たちは、ルレウの位置が分かったところで棟前を離れ、林の中へ進む。
まだ棟が視界に入る距離で、彼女たちを見つけた。
「ルレウ!」
私は手を振った。
「アテラ!」
ルレウは、メイのような速度でこちらへ駆けてくる。
その姿は、戦闘後であるかのように、汚れと傷が目立っていた。




