39.破壊力
古来、道具の発明は、スリングショット、投槍、弓、銃――と、いつも攻撃力が先行してきた。
その活躍の場面を調べれば調べるほど、私はよく嘆いた。
『なんてこの世は、バランスの悪い設計なんだろう』
けれど、デュナミスの世界は、
前世の私が世間知らずの子どもに見えるほどイカれている。
……イカれているにも程がある。
道具を持たない私たち――子どもに毛が生えた程度の青二才が、兵器レベルの破壊力を扱えるのだ。
デュナミスを知った頃から、私はどこかで『こんなバランスであってほしくない』と強く思っていた。
そう思う気持ちが、現実をねじ曲げていたのだと思う。
そして、これがそのツケだった。
木々の奥、着弾点あたりにはクレーターが垣間見える。
死者が出ているだろう。もしそれがチターナ、リーネ、ウイだったら――。
絶望と責任の奈落に挟まれた平均台の上で、私は前に進めなくなった。
膝をつき、迎えに来たメイに泣きついた。
メイは一瞬驚いたが、すぐに寛容な笑みを作り、私をお姫様抱っこして現場へ運んだ。
現場はめちゃくちゃだった。
立っていられる者はほとんどおらず、気絶しているか、泣き喚いているかのどちらかだ。
その光景を見た瞬間、私はさらに息が詰まった。
けれど、絶望の底から少しずつ思考が戻ってくる。
その中で私は、辛うじて動き出そうとしているチターナ、リーネ、ウイを見つけた。
「大丈夫か!? おい、チターナ!」
メイが声を投げる。
三人の反応は鈍いが、ちゃんとこちらを向いた。
「……耳が、やっと聞こえるようになってきた……」
嗄れ声でチターナが答える。
「死者は?」
メイが問うと、ウイは首を横に振った。
「全員生存です。チターナが咄嗟に反射して、致命傷を防ぎました」
――全員生存。
ニュースで航空事故を見るたびに、願っても決して届かない言葉だ。
それを、目の前の信頼できるキャスターが告げた。
チターナ、守ってくれて……本当にありがとう。
私は次の不安を口にした。
「ウイ、ルレウはどうですか」
背中のクモの反応はない。
助けを求める必要がなくなったのか。あるいは――それすらできなくなったのか。
ウイが指差す。
「近いなら、たぶんあちらです」
その方角の彼方に、何人か……いや、何十人かの小さなシルエットが写った。
「早く逃げた方がいいです。ほとんどが黒風。ルレウさんは捕らわれているか、同行しているか。
どちらにせよ、今はこちらが疲弊しすぎています。この所業を追及されても耐えられません」
ウイの言う通りだろう。
ただ、せめてルレウ達の安否だけでも分かれば、黄昏が暴走せずに済む。
「アテラ、ルレウの特徴を教えて」
「四半虫で、ふわっとした触角。シルク色の髪で背が高い女性です」
メイが小さく跳ぶ。
「見つけた。黒風たちの後方だ。棟の方向へ戻ってる」
そう言うと、メイは増強を全員にかけ直した。
この心強さは、反則だ。
「はぁ……デュナミスも枯渇してきた……」
チターナが息を吐く。リーネも同じように呼吸が荒い。
三人は歩き出す。
メイは私を抱えたまま並走し、ウイも大群から視線を切って後ろについた。
「とにかく、みんな無事でよかったです。黄昏の棟に寄って帰りましょう」
夕暮れ前。
全員が呼吸を整えながら、来た道を戻り始めた。
「あのさ…」
しばらく無言であったがチターナは静かに切り出した。
「偶然、コツみたいなものを掴んじゃったんだ。
アテラと小枝を回していたとき、慣性に対して、重心から一番遠い端を反射すると回転させやすいって分かった。
それで、その後……綺麗な小枝で、どっちの端に当てるか迷って、ほんの時間差で両方に反射をかけたら――異常に回転したように見えたんだ」
……わかったかもしれない。
長物がこちらへ向かってくるとき、その片端に反射を当てれば、そこだけが同速で戻ろうとして回転が生まれる。
しかし反射を当てるのは総重量のごく一部だから、進行速度そのものは大きく落ちない。
両端にかける反射は、もとが正転右端なら次は逆転左端、結果として交互にあてたことになる。
そして、進行方向の速度に角速度が上乗せされた状態の端へ、何度も反射を当てられる。
――反射をかけた時間に比例して回転は桁違いに跳ね上がる。
「シーソー板の両端に、それをかけ続けたんですか」
「アテラ、私がやったこと……分かったの?」
「はい。位置が完全なら、反射回数分、角速度が倍々になるかもしれません。
角速度は、最後の衝突の威力につながります」
実際には抵抗もズレもある。計算はもっと複雑だろう。
それでも原理としては、異常な威力の説明がつく。
チターナは、少しだけ顔を伏せて言った。
「私の思い付きで危険にさらしてしまって……ごめん」
チターナが――謝った。
そのとき、私とチターナの胸の奥が、赤く細い鎖のようなもので繋がれた。




