37.チターナボム
「どう? 何人いる?」
私が口を開くより先に、チターナがウイへ問いかけた。
どうやら、考えていることは同じらしい。
「七人と四人、二つの集団があります。
四人の方は密集していて、恐らく黄昏。
七人の方は……正直、大した相手ではありません」
「七人の方を詳しく。デュナミススコアは?」
一人多いのが気になるが、まずはルレウたちではなさそうだ。
チターナが急かす。
「――-44、-17、-63、-22、-20、5、-48です」
すごい。
数字が伝えられた瞬間、
ぼやけた敵影が私の視界に投射された。
四人ほどが固まった塊との位置関係も分かる。
明らかに“見張り”の配置だ。
「あまり時間は取れません。早急に準備を」
ウイの声が静かに促す。
「メイ、お願い」
メイが頷くと、金箔のような光がチターナの脚、腰、腹筋へとまとわりついた。
これまでの薄い白煙とは違う。
――これが、全力。
「直線だと植木に衝突します。少し逸れた方が……」
「大丈夫。避けられる。
メイ、引斥は脚が浮かないよう、地面方向へ少し傾けて」
強気で、冷静。
……もしかして、経験あり?
「斥力入れるよ。3……2……」
メイのカウントダウン。
「1……0!」
その瞬間、
チターナが――消えた。
あれ………速すぎ……ます…ね?
嫌な想像が脳裏をよぎる。
脚を折るだけで済めばいい。
もし引きちぎってしまったら……回帰で治せるのか?
ドドドッ――!
鈍い衝撃音。
「あああああぁぁぁっ!!」
そして、悲鳴。
お願い…やりすぎないで。
「すぐ追おう!」
そう言い終わる前に、メイに担がれて走り出す。
リーネがついて来ているか分からない。
でもとにかく、早く状況を見なければ。
到着した光景は、
私の嫌な想像を、さらに上回っていた。
メイに下ろされる。
あのメイですら、言葉を失っていた。
半魚、半蛇、半虫、半鳥――
七人中、少なくとも五人が膝から下を失っている。
残る二人も脚はついているが、地面に転がり、唸っている。
そして――チターナがいない。
……終わった。
初日で、私は追放される。
リーネが縫合できたとして、五人もいる…
その途中で、誰か一人は失血死する。
「反射がここまでとは……。
私は回帰属がない。とにかく、分断された脚を集めよう」
「……はい」
私は脚を集め、メイは呻く者たちを運ぶ。
一人目――まだ温かい。
二人目――血の量が……。
これが、戦場……か。
「……じゃあ、回帰するね」
リーネが来ていた。
この世界の16歳だ。
私より、ずっと若い。
「とにかく生かすことを最優先に…
ちょっとみんな危ないですがお願いします。
一番ひどい人から順にです」
「……うん」
…できるだけのことをやろう。
リーネの小さな「うん」が、重く響く。
それから私は、無言で脚を集め続けた。
ウイも、何も言わずに手伝い始める。
「……何とかなりますか?」
聞きたくない問いを、口にしてしまった。
もう一人の回帰属、チターナはいない。
ここでリーネがNOと言うだけで、私達はゲームオーバーなのだ。
「はい。思ったより軽症です」
はい終わ………え?
「全員、治せます。
出血も致死量じゃないし、細胞もまだ生きてる。
断面に汚れを付けないよう、丁寧にお願いします」
そんな……あっさり?
だって脚、ちぎれてるよ?
「あああぁっ!」
縫合が始まる。
半虫の一人が呻き、気絶した。
リーネは淡々と、次へ。
「おーい」
遠くから声。
チターナが走って戻ってきた。
「全然止まれなくてさ。中齢層の方まで行っちゃったよ……
あ、リーネ、手伝うよ」
回帰属、強すぎるじゃん…。
「こちらの方もお願いします」
私は“想定通り”という顔を取り繕って頼んだ。
「あ、こっちも治すんだ」
「えっと、『ちょっと危ない』だそうです。
アテラ、びびってました」
「そうなの?」
……リーネ。
でも正直、どこからが危険で、どこまで大丈夫なのか分からなかった。
「……こほん。
総責任者アテラくん、未来が読めなかったか。
後で責任、取ってもらうね」
無知って罪だ。
チターナ、嫌い。
「私も読めなかったよ。脚折るくらいだと思ってた」
「メイは責任者じゃないから、マッサージ一回で許す」
「え……それは……」
……メイ、嬉しそう?
また、リーネの方で小さな断末魔。
「私も読めませんでした。
“高名なチターナさん”が二人も命中できていないことを」
そう言い放つウイ、怖いもの知らずめ。
「一応折れてるんだけれど……認めよう。私の力不足だったよ」
チターナは縫合を終えた。
半鳥は小さく呻いている。
「ではそろそろ反撃を警戒すべきだな」
メイが二人の首元を圧迫し始める。
「う……うう……」
「メイ、死んじゃう。多分、まだ大丈夫だから」
チターナの言葉で圧迫が止まる。
……このチーム、敵に回したらやばい人たちだよ。
「笑顔で握手して拘束する連中だ。信用できん」
「では法定で
『合意時刻より一日間、相互停戦』の契約をするのはいかがですか」
ウイが提案する。
「二度と戦えない契約の方が――」
「今は無理です。
短時間・平等条件・簡潔でないと」
メイの無茶な提案を抑止するウイ。
法定属はこういう時にも使えるんだなぁ。
「……アテラ、さっきから無言ね」
「あ、えっと……拘束された四人を助けないと」
「どうやって?」
「えと……メイさん、あれ、壊せますか」
「メイ。
かわいいかわいいアテラが手伝ってほしいって」
……呆然とした心を見透かされている。
やっぱりチターナ嫌い。
「うあああ!」
「終わり。縫合した人たちは寝かせた」
“寝かせた”。
どう見ても気絶だ。
だが、縫合は完璧だった。
脚は動き、止血も完全。
「さすが干渉。抜かりないね。
私も終わった」
その時には、全員の処置が終わっていた。
「さて。リーダーは誰かな」
最も軽傷そうな一人に問いかける。
モグラ顔の半獣が、震えながら。
「た……すけ……」
ウイが羊皮紙を差し出す。
「これにサインするだけでいい。
命は取らない」
悪役の台詞だ。
震える手でサイン。
ウイが確認する。
その間、あちらのほうで解放された四人は、言葉もなく走り去っていった。
恐慌状態だったのだろう。
……記憶が曖昧な方が、こちらには都合がいい。
「ああ、まって!」
「メイ大丈夫です。
他の者は恐慌状態でも黄昏棟に戻れていました」
メイは頭を抱えている。
今はそれよりルレウ達だ。
「サイン、偽証なし」
「待って。もう一つ」
チターナが、モグラ顔の横腹に手を当てる。
「嘘ついたら、抉る。
あなたのチームは何人?」
「ひ……ろく……六人……です」
チターナの低くかすれたような声。
その腹を搔っ切るような言葉にモグラはそう答えた。
「じゃあ、あと一人は?」
今度は、優しく頭を撫でる。
「……あの者……」
その先には、まだ意識のある四半蛇の女。
注目を浴びると、彼女は勝手に喋り始めた。
「私も……ここにいる六人も……
主じゅ……私たちは……主じゅ……」




