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35.悪の行い

「く……合意書の記名はここまでだ。

アテラ殿、この件は頼んだぞ」


シーケウスはそう言うと、紙をルレウに預けて、援護を呼ぶ声の方へ走っていく。


「アテラ、ごめんね。

ほら、8チームも集まったよ。これ、持って帰って」


ルレウは私を抱いたまま歩きながら、紙を渡してくる。

私は受け取り、円筒状に丸めた。


「ありがとうございます。

 ……私達が手伝えることもあると思います。黒風の動き、教えてもらえませんか」


ムイたちが手伝ってくれるかは分からないけれど、

せっかく繋がった仲だ。できる限り助け合いたい。



ルレウは少し考えたあと、言った。


「じゃあ、これも持ってて」


優しい握りこぶしで何かを差し出される。

私は手のひらを上向きに、受け取った。


「うわぁ」


それは手の中で、もぞっと動いた。

驚いて落としそうになる。


「クモだよ。傷つくなぁ」


急にクモを渡されたら驚くのが普通だ。前の世界なら。


少し大きめのハエトリグモのように見える。


「……この子の名前は? 何かできるのですか?」


名前なんて聞くのは変だ。

けれど、驚いて傷つくのならば、大事に受け取る体を装う。


「え、名前なんてないよ。アテラおかしいの。フフフ」


……そうですか。


「このクモを通じて、簡単な連絡ができる。アテラの背中にでも隠しておいて」


それが本当なら、かなり有用だ。情報ほど重要なものはない。


「クモが喋るのですか?」


「干渉属の表層操作、心理攻撃の幻聴、心理鎮静の共有は習ったでしょ。

 表面的にクモを操作して、クモ自身が干渉属の幻聴を受けて、それを接触してる人と共有するの」


……すごい。

まるでゲームの技コンボだ。


「干渉属が使えないアテラには一方的だし、私の幻聴では簡単な情報しか伝えられないけどね。

 赤誠の棟くらいの距離なら、『来て』『来ないで』くらいの共有はできると思う」


「便利ですね。ルレウには恩がありますし、遠慮なく連絡してください。」


「あのシーケウスの緊迫感のなさ。

たぶん黄昏の誰か少数が黒風に投資を貢いじゃった、くらいだと思う。

 危なそうなら連絡するね」


シーケウスは向こうで呆れたような、困ったような身振りを見せていた。

ルレウは私を下ろす。


「じゃあ、また後で」


「うん、じゃあね」


ルレウはシーケウスの方へ戻り、会話に加わった。

私は手を振り、棟の外へ出た。


すると外から声が飛ぶ。


「アテラー!大丈夫かー!」


メイの声だ。

私が手を振ると、かなりの速度で走ってきた。正直ちょっと怖い。


メイは私を抱き上げると、そのままチームの方へ向かって跳んだ。


「ひいっ」


思わず声が出る。

五メートルくらい飛んでるんじゃないか……


「あ、しまった。つい……」


鳥族なら跳躍して滑空もできるのかもしれない。


「どうだった?うまくいった?」


チターナが声をかけてくる。


「はい。この通りです」


私は丸めた羊皮紙を取り出してみんなに見せた。


「おおぉ……アテラやるねえ。8人?……8チーム?」


「8チームです。チーム代表の署名です」


「全員とまではいかなかったんだね。十分十分」


「この短時間で8チームは見事だな。……ただ、もっと粘ってもよかったのに」


チターナ、ムイはさらに欲を出す様子。

その気持ちは分かるが――。


「黒風に仕掛けられているらしく、交渉どころではなくなりました」


「黒風? …それなら黄昏に共闘を打診できるかな?」


「賛成だ。黒風からすれば、赤誠が動くのは悪夢だろう」


チターナの共闘案にメイが同意する。

二人は思った以上に好戦的だった…。


私は二人の勢いのままこくりと頷く。


「おっと俺はこの合意書を赤誠棟に持ち帰る。後は任せた。リーダー」


ムイがそう言って去ってゆく。

臆病にも見えるが、合意書を届けるのは最優先だ。歯がゆいが、たぶん正しい。


「私達は黄昏に行きましょう。黒風をやっつける」


私はそう言って踵を返し、黄昏棟へ向かう。


「アテラ、戦えないのに男前だね。戦えないのに」


リーネが背後から毒を刺す。今は気にしない。


「アテラ、相変わらず歩くの遅いな」


メイが私を抱き上げる。


「アッハハハ。威勢はよかったけど、そこは頼るんだ」


チターナに笑われた。

……とても格好悪い。


黄昏棟の入口手前に着くと、近くで集まっていた黄昏の面々が一斉にこちらを見る。


「赤誠のアテラチーム、度々ながら参りました。

 お困りのことで加勢します。合意書の仲がありますから」


そう端的に伝える。


「アテラ殿、ちょうどよかった」


黄昏の中に、シーケウスがいた。

ルレウは見当たらない。


「黒風について、"黄昏に知り合いがいる"という一人に連絡が取れた。

 そこでのリークだが、"黒風は、1チームだけ単独行動している"とのこと。

 しかしそれが本当か、罠なのか、判断が難しい。

 ゆえにルレウのチームが黒風棟へ確認に向かった」


この短時間で動いたのか。

追いかければ間に合うだろうか。


「現在の被害は?」


メイが問う。


「正午すぐに、黄昏の1チームが意気揚々と黒風へ交渉に行った。

 だが四名が囚われ、三名だけが戻った」


「その三名は?」


「私です」


兎の耳をした人物が手を挙げる。


「エルイーナ。簡潔に起きたことと、黒風の要求を話してやってくれ」


「はい。黒風は六名でした。

 最初は笑顔で挨拶し、握手するような素振りすら見せました。

 しかし交渉の会話に入った瞬間、準備された肉厚の檻が四方を囲みました。

 シーズー――私のチームの一人ですが、引斥で破ろうとしたところ、干渉で眠らされ……」


「簡潔に。今は時間がない」


惜しい。戦闘の具体ケースが出るところだったのに。


「……結局、私たちは敗北し、降参しました。

 黒風は“新たにデュナミスを発動していない”ことを確認したうえで、私たちを縛り上げ、こう言いました。


『黄昏チームの全面的な従属を求める。

 以後、黄昏の全デュナミス行使は我がチームの許可制とするよう法定化せよ。

 最初に従属した者は、一定のデュナミスを除外するなど優遇する』


そして三名を解放しました。……しかし――」


「そこまででいい。ありがとう」


シーケウスが頷き、私を見る。


「……アテラ殿、こういうことだ。到底飲めない。

 “黄昏チーム全面的”という要求の大きさからして、背後に支援者がいる可能性を疑うべきだろう」


典型的な悪のやり口だ。

言う通り一チームの暴走で済む話ではない。戦争をふっかけている。


「エルイーナさん、“しかし”の続きを教えて。

 黒風との戦闘に役立つ情報が欲しいな」


チターナが気になることを問い、エルイーナは頷いた。


「解放された三名のうち、私以外の二名は恐慌状態になりました。

 私はその二名を追う形で逃げ帰りましたが、その途中で――

 投資が過半数成立したようで、100デューンを失いました」


「……なぜ、それが分かった?」


「投資が成立すると、頭上からアナウンスが入るようです。

 20デューンを五回。私たちにだけ聞こえたように思います」


チーム登録したメンバーだけに通知が行く、ということか。


「……それ、まずいのでは」


リーネが言い、チターナも同意する。


「嫌な予感しかしないね」


私も気づく。同じ結論だろう。


「五回に分ける意味は、敵が一チームではない可能性が高いということです」


私はそう口にしながら、決めた。

これは交渉では止められない。戦闘で切り崩すしかない。


そして同時に、脳裏では――

ルレウが見せた“デュナミスのコンボ”を、戦闘向けに組む構想が形になり始めていた。

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