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34.合意書

私たちは東南東に位置する、黄昏の棟へ向かった。


プログラム第1開始の正午から、まだ15分ほど。

隣接していない棟に向かうなら、ほぼ最速の判断だろう。


さらに、メイのコアデュナミス――偽証属・増強によって、全員の脚力は強化されていた。

私はデュナミスコピーが発動しないため、総量の10%でかけてもらったらしいが、体感としてはまったく変化なし。

結果、ノアに抱えられて運ばれるという、不本意な移動になった。


歩行強化の効果は凄まじい。

普段なら早歩き程度の速度が、軽い駆け足になる。


速さが命だ。

ムイを先頭に、全員が半ば走るように進む。

これ以上速度を上げたら、障害物を避けることだけに神経を使う羽目になるだろう。



学園風ののどかな景色も、速すぎると低解像度の写真。

昨日人だかりができていた第4棟を通過し、さらに東へ。


「初齢以外の人たちが、どこに配置されているのかも把握したいですね」


中齢層や終齢層は、まとまって遠くへ移動したと聞いたが、東なのか南なのかまでは分からない。


「見えてきた。あれが黄昏の棟だ」


ムイの声が到着を知らせる。

全員が自然と速度を落とし、景色が鮮明になった。


遠目に1つの人影が見える。

チームは3〜8人編成。1人見えたら、周囲に5、6人はいると考えるべきだろう。


「もし物理的でない攻撃の予兆を感じたら教えてね」


チターナが先頭ムイの左に並び、メイは私を下ろして横につく。


「心強えな、お嬢方」


ムイがそう言って、前進を続ける。


棟まで残り200メートルほど。

人影は黄昏棟の獣族らしき姿だった。


「我々は赤誠のチームだ。投資の交渉に来た!」


突然メイが大声でそう言った。


相手はビクッと身をすくめ、棟の中へ駆け込む。

数秒と経たずに別の人物が現れ、こちらに向かって手を振った。


「こちらに来る。左右背後にも気をつけよう。」


チターナの警告とほぼ同時に、大柄な黄昏の者が声を張り上げる。


「最初にお目にかかるのが赤誠とは……ずいぶん早いな。

こちらも早々に20デューンを取りに行く手間が省けた」


……これは、どちらだ?

力で奪うのか、それとも交渉か。


「20デューン、双方の交換を提案する。

加えて、可能な限り赤誠の他チームとも交渉できるよう取り計らってほしい」


メイの申し出に、相手は鼻で笑った。


「勘違いするな。ここは黄昏の棟だ。条件を出すのは、こちらだ」


メイの拳が強く握られる。どうか早まらないで。


「わ……わかった。何を望む?」


ムイがキョロキョロと見渡して弱気な印象でそう言った。


「まずはリーダーだ。リーダーと話す」


黄昏の輩の発言が返ってくる。

……そういえば、決めていなかった。

リーダーか…強気チターナか、行動力のムイか…。



「彼がリーダーです」


ムイは考えるまもなく私を指差し…た…?


「おい、正気か?」

「アテラに何かあったら、分かってるよな?」


すぐにチターナとメイがムイを責める。

ムイは黙っているが、考えがあって言ったのだと信じたい。


「前情報です。あの黄昏の者、デュナミス+10。身体+10。おそらく頭脳派」


ウイが耳元で囁く。

頭脳派同士ならなんとかなるってことかな。

頑張るよ、ウイ……。


「アテラ、気をつけてね」


私が前へ進みだすと、後ろからリーネの声がそう聞こえた気がした。


「知り合いの件、信じていいよね?」


「はい。任せてください」


前からのチターナにはそう答えておいた。

そして同じく前にいるメイは、心配そうに一歩寄ってくる。


「大丈夫。任せて」


そう言ったものの、正直心細さが残る。

もう少し相手の情報が欲しかったな。



そして大柄な黄昏の前まで来た。


「子どもか……まあいい、来い」


大柄な黄昏はそういうと振り返り棟内へ向かっていく。

私はそれについてゆくように進む。


「アテラに何かあったら、棟ごと壊すから覚悟しろ!」


棟へ入ったくらいで、後方でメイが狂犬のように吠える声が響いていた。



中には黄昏の者たちが集まっていた。

赤誠と同様、まだ動きあぐねている様子だ。


「聞け!赤誠の使節だ!食料調達要件の20デューンを交換投資したいチームはいるか!」


大柄な男は、思いのほか理性的だった。

交渉役を一人に絞ったのは、こちらを警戒してのことかもしれない。


「あ!アテラだ!」


人垣の向こうから、長身の虫族――ルレウが走ってくる。


「ルレウさん、知り合いですか?」


「うん。この子は友達だよ、シーケウス」


黄昏の大柄はシーケウスと呼ばれた。

ルレウさんと呼ばせるなんて…ルレウは黄昏でいい役でも得たのかな。


「ルレウ、1日ぶ…」


「アテラー!すぐ来てくれたんだね。嬉しい。」


ルレウにより、私アテラは勢いよく抱っこされてしまった…



沈黙から、ざわめきへ。そして周りの雰囲気が変わる。

子どもの姿は、本当に強いなぁ。



「交換投資、だよね?私も手伝うよー」


ルレウはそう言うと、私は下ろされた。


「もう一度聞く!20デューンを交換投資したいチームの代表は前へ!」


シーケウスは羊皮紙を取り出し、ルレウと話しながら何かを書き始めた。


そしてルレウに紙をペンを渡す。

ルレウはチェック役のようなことをするのだろうか。


「できたよ。」


ルレウに完成した紙を見せられる。


――合意書――


下記に名を記す者は、アテラおよびルレウの名のもと、

赤誠チームと黄昏チームが相互に20デューンを出し合う契約に合意する。


本契約を破った場合、自色を裏切った者として扱われる。


署名:シーケウス


簡潔で、効果的。

シーケウスはやはり頭脳派だった。


その紙にルレウが署名し、私も続いた。

トントン拍子だ。


「やっぱりアテラ、純粋だね」


ルレウが笑みを浮かべながら言った。


「うん?」


「こういう書面、偽証属と法定属が絡むと危険なんだよ。」


ルレウが合意書に手をかざす。


――下記に名を記す者は、ルレウがアテラを抱き上げる権利に同意する――


さっきは絶対になかった文言が浮かび上がった。


「え……」


「ルレウさん、変な文章を入れないでくださいよ…。

アテラ殿、失礼したが許してやってくれ。」


シーケウスはそう言って、記名集めの対応を始める。



「法定……消していた文字も効力があるのですか?」


「そうだよ。もし“結婚に同意する”なんて書いていたら…

それを守るか、ここを出ていくか選ぶしかなかったんだよ」


……法定との組み合わせ、そんなことができるのか。

メイラ先生には概要しか聞けなくて油断していた。もっと注意深く生きないと…。


「サインしても、ルレウとの結婚はここで手続できないよ。

どちらにしても、ぼくは出ることになるね。」


私は冷静な素振りでそう言った。


「えー、それって結婚してもいいって告白かなー?

でも恋々コネクトが来てないなー」


ルレウは嬉しそうにしている。

こういうやりとりが好きなんだなぁ。


「どうやって文字を?」


「偽証属で消して、相殺で解除。知らなかった?」


「ルレウがいい人で本当によかったです。

一生奴隷になりますなんて書かれたら人生おしまいでした。」


「それは明確な基本権侵害で無効かな」


「あ……そうか」


「アテラって冷静って感じなのに純粋。そこだけ年齢相応」


「む…ルレウは年齢より若い」


「ん?どこらへん?顔?」


「精神年齢。」


「アテラの精神年齢はおじいちゃん。」


「ルレウは6歳。」


そんなやりとりの最中、入口方向が騒がしいのに気付く。


「黒風に仕掛けられている!援護を!」


……やはり、平和なプログラムとはいかないか。

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