32.分担
その日は『生活準備の日』とされ、まず周辺の偵察を行い、その後に食料の確認と分担決めが行われた。
周囲には、説明で聞いていた第4棟を中心に、各色の棟が点在している。
私たちは初齢層だが、中齢層や終齢層について気になってムイに尋ねると、彼らはもっと外側へ、まとまって移動していったらしい。
入口でいきなり引っ張られたせいで気づかなかったが、きっとアナウンスもあったのだろう。
部屋の冷蔵室は、どういう原理で冷却されているのか分からないが、すでに食料が格納されていた。
主食と調味料、水は十分にある。
野菜や肉などの食材も、数食分は用意されていた。
また、プログラム成績が悪くても、三日間は最低限の配給が保証されるらしい。
調理担当は、私の推薦でリーネ、ムイの推薦でウイ。
特に反対意見も出ず、半ば強引に決定した。
以前、メイラ先生の家で食べた『ワヒー』、カレーに似た料理をリクエストすると、作れるとのこと。
それだけで、とても楽しい気持ちになった。
夕食は当然のように全員で食卓を囲む流れになり、
その場で自己紹介と、話せる範囲での情報交換を行った。
まずは簡潔に、必要な情報のみ共有する。秘匿事項は各自の判断とした。
ムイ・マダラオ
銀髪の狼族・四半獣。
偽証属(筋力増強系)と法定属。
デュナミススコア -118、25歳。
ウィグヌー・アンズナイア(ウイ)
金髪の無族・半無。
観測属と執行属。
デュナミススコア -119、19歳。
チターナ・ドルフォナ
瑠璃色髪の魚族・八半魚。
引斥属と回帰属。
デュナミススコア -140、27歳。
リーネ・ハグーバーク
黒髪の軟族・四半軟。
回帰属と干渉属。
デュナミススコア -127、16歳。
メイハーネ・トトー(メイ)
赤髪の鳥族・四半鳥。
偽証属(筋力増強系)と引斥属。
デュナミススコア -105、22歳。
一通り終えると、自然と質問が飛び交う。
「リーネ、16歳なんだ。落ち着いてるから、メイと同じくらいかと思ってたよ」
チターナがそう言って、私をちらりと見てニヤつく。
種族が違えば年齢感覚は分かりづらいが、私は実年齢的に若くないので、堂々としておいた。
「どんなプログラムが来るか分からないけど、戦闘や妨害ありの競争を想定すると、役割分担は考えておいた方がいいな」
ムイが切り出す。
「アタシは戦闘得意だから前衛かな」
「だな。引斥や増強を持つ俺とメイ、チターナはアタッカー。
リーネ、ウイ、アテラは後方支援だ
特にウイの執行は一発で決める要素がある。
だから、それまでは無理に攻勢に出ない形がいい」
メイの言葉に、ムイは準備していたかのようにつらつらと補足した。
執行属についてはまだ詳しく聞いていないが、メイラ先生が言ったことによると、
法定属と組み合わせることで、デュナトス間トラブルの「強制執行」に使われるらしい。
「アテラのデュナミスがない、というのは正直信じがたいですね」
ウイが静かに切り出す。
「-220もあれば、コア不明でもコピーは相当なはず。
それを言えない理由は?」
「コピーを明かすと、私のここでの存続に関わります。すみません。
代わりに、できることは何でもします」
一瞬、場が静まった。
子どもでなければ、この弁解は通らないかもしれない。
だが、変身が露見すれば年齢偽証で即追放。今はそれしか言えなかった。
「何でもかぁ、一日一回ペットのようにじゃれついてくれる。…なんてどう?」
「それ、ほしいですね」
チターナとリーネが続ける。
……冗談なのか本気なのか分からない。無力なのが悔しい。
「チターナ、それは少しひどいよ」
メイが割って入る。
「アテラは包含属次第で化けるかもしれない。それまではアタシが倍働く」
「ごめんごめん。かわいくて、ついからかっただけ」
チターナは軽く手を振る。
「アテラは、いるだけでも貢献してるよ。あとは頭の良さに期待ね」
「……がんばります」
メイには、ムイやウイ以上の“男気”を感じる。
チターナは、私をフォローする流れを見越して、あえて振ったようにも思えた。
一方で、リーネは本気で残念そうな顔をしていて、少し怖い。
「デュナミスの構成を見ると、引斥や回帰、偽証の増強が重複していますね」
気になって尋ねる。
「コアとして出やすい属と、そうでない属があるんですか?」
「そうだね。引斥と偽証の増強は汎用2属って呼ばれてて――」
チターナが途中まで説明する。
「全体の約29%です」
リーネが即座に補足した。
「回帰属も含めると43%。
コアとしてだけで4割、コピーの扱いやすさも含めると、デュナミス使いの8割以上がこのどれかを持つそうです」
「ほお、流石リーネ。博識だな」
ムイに褒められ、リーネは少し照れる。
教科書的な知識は、完全に叩き込んでいるタイプらしい。
「対人戦の話ですが」
ウイが話題を切り替える。
「引斥属の遠距離攻撃、拡散攻撃。
干渉属の精神攻撃、心理操作、肉体操作。
まずはこの辺の対策を決めましょう」
「定石通り、引斥には引斥、干渉には回帰だね」
チターナが頷く。
「チターナは加速じゃなくて、ええと、反射?」
「そう。引斥属の希少種。物理戦なら有利に運べるよ」
このやり取りだけでも、かなり勉強になる。
「干渉属対策は、早期準備が重要。
回帰属は事後対応になりがちだから」
「じゃあアタシは、敵の攻勢を潰して、味方の時間を稼ぐ役かな」
議論の進行が早い。
私は必死に聞き取るだけで精一杯だった。
――このチーム、もしかすると、とても優秀なのではないだろうか。




